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第十三章 思いがけない王命

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「そりゃ、今ここで、あなたを連れ去りたいのはやまやまですよ?」

 私の心を読んだように、アルベール様は仰った。

「けれどそれでは、解決にならない。明日あなたは、素直に王宮入りをされるべきです。ひとまずは、国王陛下に逆らわない方がよろしい」

 そして、とアルベール様は続けられた。

「明日、父はティリナから戻ります。そうしたら、国王陛下に話していただけるよう頼んでみます。父と陛下は、単にいとこ同士というだけでなく、相当の信頼関係があるのです。父に頼るのは本意ではありませんが、この際やむを得ません」

 わかりましたわ、と私は神妙に頷いた。かくなる上は、ミレー公爵に賭けるしかない……。

 その時、気絶していた従僕の体が、ぴくりと動いた。アルベール様は、チラと彼を見やった。

「そろそろ行きますね。一目でも、会えてよかった」
「ええ、私も……」

 もう一度私を抱きしめ、キスをすると、アルベール様は素早く去って行った。従僕は、目を開けると、うう、とうなった。

「……あれ? 怪しい男が、今……」
「どうしたの? 男って、何のこと?」

 私は、首をかしげてみせた。

「誰もいやしないわよ。あなた、このトピアリーに蹴つまずいて、転倒したのよ。それで頭を打ったみたいね」
「頭? 腹が痛い気がするのですが……」
「お腹も、打ったのじゃないかしら」

 適当に誤魔化しながら、私は従僕の元にしゃがみ込んだ。きょろきょろしている彼を、助け起こす。

「はあ……。ありがとうございます……」

 アルベール様の来訪がバレなかったことに、ほっと胸を撫で下ろしながら、私は立ち上がろうとした。その時だった。私はトピアリーの下で、何かが鈍く光っているのに気付いた。

(何……?)

 無意識に私は、手を伸ばしてそれを拾い上げていた。月明かりに照らしてよく見たとたん、私はあっと声を上げそうになった。それは忘れもしない、ドニ殿下がシュザンヌ妃の形見だと言って私に見せた、べっ甲のロケットだったのだ。

(――ああ、そういうことだったのね)

 私は、大きく頷いていた。私の中にしつこく残っていた疑問は、全て解消された気がした。
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