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番外編:その時、アルベールは~②
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※第十五章冒頭部分を、アルベール視点で語ります。
その時、アルベールは何を考えていたのか……的なお話です。
ネタバレ含みます。
その日、アルベール・ド・ミレーは、柄にも無く緊張していた。
「どう、でしょうか。先生」
「そうですな。一ヶ月もすれば、元通りの生活がおできになれます」
幼い頃からのかかりつけである、上品な白髪の医師は、あっさりとそう答えた。
アルベールは、安堵のため息が漏れるのを抑えられなかった。愛しいモニクを暴漢から庇って刺されてから、三日。予想以上の傷の深さに、実は不安になりつつあったのである。おまけに、よりによって右肩。
(もう二度と剣が振れない、などということになったら……)
一瞬、そんな思いまでよぎったものである。剣術はアルベールの趣味であり特技であり、騎士団に入って以降は、人生そのものと言っても過言では無かった。もし利き腕が二度と使えないなどと言われたらどうしようかと、密かに案じていたのである。
(とは言っても。挙式は、延期を避けられないだろうな……)
アルベールは嘆息した。王宮から引き上げたモニクを、アルベールは有無を言わせずミレー邸へと連行した。使用人たちが去って廃墟と化したサリアン邸を見せるのは忍びない、という思いもあったが、最大の思いはこれだった。
(もう絶対に、モニクを誰にも奪われたくない)
モニクが王太子妃に決まった時のことを思い出すと、アルベールは今でも歯ぎしりしたくなる。父・ミレー公爵の戻りを待って、一緒に求婚に訪れよう、などと律儀に考えたのが間違いだったのだ。それを待つたった一日の間に、モニクのあのトンチキ親父は、勝手に娘を王太子妃にと決めてしまったのだから。
(ミレー邸に住まわせておけば、ある程度安心だろうが。でも、やはり挙式を無事終えないことには、俺のものになったとは言えないな……)
いっそ、既成事実を作ってしまうか。知ったところで、両親は見て見ぬふりをしてくれる気がした。
(あとは、モニク本人をどう言いくるめるかで……)
あれこれと黒い思考を巡らせていると、医師は何だか意味ありげな笑いを浮かべた。
「そういえばアルベール様、ご婚約者はもう、この屋敷にお住まいなのだとか」
「……ええ」
内心を見抜かれたようで、アルベールはドキリとした。
「そうですか。言っておきますが、くれぐれも安静になさってくださいよ。でないと、復活は保証しませんからね?」
脅すようにそう告げると、医師は部屋を出て行ったのだった。
その時、アルベールは何を考えていたのか……的なお話です。
ネタバレ含みます。
その日、アルベール・ド・ミレーは、柄にも無く緊張していた。
「どう、でしょうか。先生」
「そうですな。一ヶ月もすれば、元通りの生活がおできになれます」
幼い頃からのかかりつけである、上品な白髪の医師は、あっさりとそう答えた。
アルベールは、安堵のため息が漏れるのを抑えられなかった。愛しいモニクを暴漢から庇って刺されてから、三日。予想以上の傷の深さに、実は不安になりつつあったのである。おまけに、よりによって右肩。
(もう二度と剣が振れない、などということになったら……)
一瞬、そんな思いまでよぎったものである。剣術はアルベールの趣味であり特技であり、騎士団に入って以降は、人生そのものと言っても過言では無かった。もし利き腕が二度と使えないなどと言われたらどうしようかと、密かに案じていたのである。
(とは言っても。挙式は、延期を避けられないだろうな……)
アルベールは嘆息した。王宮から引き上げたモニクを、アルベールは有無を言わせずミレー邸へと連行した。使用人たちが去って廃墟と化したサリアン邸を見せるのは忍びない、という思いもあったが、最大の思いはこれだった。
(もう絶対に、モニクを誰にも奪われたくない)
モニクが王太子妃に決まった時のことを思い出すと、アルベールは今でも歯ぎしりしたくなる。父・ミレー公爵の戻りを待って、一緒に求婚に訪れよう、などと律儀に考えたのが間違いだったのだ。それを待つたった一日の間に、モニクのあのトンチキ親父は、勝手に娘を王太子妃にと決めてしまったのだから。
(ミレー邸に住まわせておけば、ある程度安心だろうが。でも、やはり挙式を無事終えないことには、俺のものになったとは言えないな……)
いっそ、既成事実を作ってしまうか。知ったところで、両親は見て見ぬふりをしてくれる気がした。
(あとは、モニク本人をどう言いくるめるかで……)
あれこれと黒い思考を巡らせていると、医師は何だか意味ありげな笑いを浮かべた。
「そういえばアルベール様、ご婚約者はもう、この屋敷にお住まいなのだとか」
「……ええ」
内心を見抜かれたようで、アルベールはドキリとした。
「そうですか。言っておきますが、くれぐれも安静になさってくださいよ。でないと、復活は保証しませんからね?」
脅すようにそう告げると、医師は部屋を出て行ったのだった。
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