選ばれたのはケモナーでした

竹端景

文字の大きさ
138 / 229
第四章 学園に行くケモナー

杖の所有者

しおりを挟む
 じっと見つめる瞳からは何も感情を読み取ることはできない。
 ただ事実をいっただけとでもいうのだろう。

 何が一番大事かを考えれば、杖は重要ではない。
 一番はケルンの安全だ。

 ならば渡すべきか。
 それも良い案ともいえない。直感なのだが、この杖はケルンにしか扱えない。他の人の手に渡すべきではないだろう。
 やたらと動くしな。それに未完成なんだ。途中で投げ出すのは気に入らない。

 しかし、ケルンはどうしようかと悩んでいる。杖によって自分の周囲に迷惑がかかるのではないかと思っているのだ。

 そんな風に思案していると、先生はさっきまでの雰囲気が嘘のように、晴れやかな笑顔で言葉を続ける。
 不安気なケルンには、甘い毒のような言葉を吐くのは、わかっていた。

「だからね、新しい杖を用意してみない?霊木の中でも高品質な物を用意してあげるわよ?」

 先生の提案は悪くないだろう。
 ケルンに思考の結果を渡して先生に伝えようと口を開いた。

「はーい、そこらで、止めようか」

 ケルンが口を開くと同時に慣れ親しんだ声が聞こえた。
 ドン!と、机を叩きつけて、サーシャル先生の言葉を遮ったのは、ナザドだ。

 部屋の扉を開ける音がしなかったのだけど、いつから、どうやって、ここに入ったんだろう。

「ナザド…先生?」
「はい、坊っちゃま。貴方の杖ですよ!」

 一応、ケルンとしては生徒と教師という体裁をしようと思ったのに、ナザドはお構い無しだ。

 貴方の杖。もっと小さい頃に、ナザドはそういって、ケルンに杖を捧げるとかもいっていたな。

「はぁー…ナザド君?今ね、大事な話をしているのよ?横からでしゃばら」
「黙れよ、杖と研究しか興味がない癖に、坊っちゃまを心配しているように見せかけるなよ。殺すぞ」

 不機嫌なサーシャル先生よりも、ナザドは、さらに不機嫌…もっといえば、いつもは、目だけ笑っていないような笑顔をするのに、その笑顔すら捨てて、無表情になっている。

「お前は知らないだろう。いいか?坊っちゃまに危険がある?あるわけないだろ?」

 いい切るなり、いつものナザドらしい笑顔を張り付ける。
 ケルンの前だと、目も笑った本当の笑顔になるだけど、この笑顔をする時は、かなり怒っている証拠だ。

「学園では、僕が坊っちゃまを守るんだよ?…ああ、身辺はミルデイとかいう執事見習い君が守っているようだったね」

 忌々しい… ちっ。

 小さくハイライトのない瞳でいうなよ。あと舌打ちはよくないぞ。
 ミルデイも家族なんだからな!

 ナザドを叱ってやろうと、ナザドを見れば、夢心地の表情を浮かべていた。この状態は…いつもの流れだな。

「それに、学園を卒業されたら、この僕と、あの兄さんが坊っちゃまの側にいるんだよ?有象無象ごときが坊ちゃまを傷付ける前に、始末してやるよ。で?何が危険なのか…教えてくれる?」

 鼻で笑うナザドを、遠い目をして見てしまうのは、仕方ないだろう。大人がするようなことじゃない。勘弁してくれよ。
 サーシャル先生も、負けず劣らず、子供なのか、机を叩いて、反撃している。

「これだから!ナザド君!君のその狂信者みたいな考えは、ケルン君の成長を阻害すると思わないの!?」
「そう?ほら、僕がぐちゃぐちゃに曲がっていても、坊っちゃまがまっすぐ、自分の道を歩まれるのなら、まったく問題ないんだけど?」
「だから!その考えがおかしいのよ!…いいわ。貴方の態度も含めて、先生に報告させてもらいますから!学長にも頼んでケルン君の指導は私がするわ!」
「はぁ?…ねぇ、今の話、本当?旦那様に報告して、何?僕の代わりに、坊っちゃまの指導をする?」

 サーシャル先生が、ナザドとケルンのことで、揉めていたとは、知らなかった。
 それに、言葉から察するに…父様の教え子だったのか。

 昔、父様と母様が少しだけサイジャルで教えたことがあるとは、聞いていたんだけど、まさか教え子が先生になっていたとは…父様も教えてくれたらよかったのになー。

 今度、帰ったら、父様にちゃんと話をしないとな!
 あと、学長先生に迷惑はかけたくないかなぁ。

 なんて現実逃避しているのは、ナザドとサーシャル先生の会話を聞いたからだ。
 サーシャル先生は、ナザドの地雷を踏んだのだ。

 ケルン。ナザドをなんとかしとけ!
「な、なんとか?んと、ナ、ナザド先生…落ち着いて?ね?」

 先手を打って声をかけるのだが、ぶつぶつと呟くナザドには聞こえていない。手遅れだったか。

「僕が僕が僕が!坊っちゃまの先生になるのに、どれだけ努力したと?信じれないほど、愚かな奴等を指導してきたのに?全部、坊っちゃまの為なんだよ?知ってる?坊っちゃまが、どれだけお優しいか?わかってる?僕の生きる意味を教えてくれたのは、坊っちゃまなんだよ?坊ちゃまがいなかったら、僕はヒトじゃなくなるんだよ?坊ちゃまは、僕の神様なんだよ?その坊っちゃまの為に頑張ったのに?…僕と坊ちゃまを離す?…お前ごときが?」

 誰も口をはさめないほどマシンガンで話しているが、瞳がどんどん暗くなっている。そしていい切ると、杖を抜こうと、懐に手を伸ばした。

「邪魔するなら…この場で…」

 ちりっと、空気が乾いていくのがわかる。そのうえ、ナザドの影がどんどん広がっていく。対するサーシャル先生も、杖をナザドにむけている。

 くそ!こうなる前に、止めればよかった!ケルンどんなことをしてでもナザドを止めろ!フォローはなんでもしていい!
「うん!こら!ナザド!めっ!嫌いになるよ!」
「ぼ、坊ちゃま…!」

 そういうと、ナザドは、ぺたんと座り込んで、この世の絶望を見たような…まぁ、顔面蒼白どころか、今すぐに死にそうな顔をしている。

「も、申し訳ありません!お、お許し!お許しください!」

 がたがたと震えだして、ケルンにすがりつく。顔面はすでに泣き顔…泣きすぎて崩壊してるし、えづくほど泣き出している。

 ただ、軽く叱っただけで、これなら、本当に叱りつけたら、叱っている途中で死ぬんじゃないかな。

 フォローしないといけないんだけど…見た目は若く見えても…いい歳なんだけどな…ナザド。

 ほら、落ち着いたみたいだし、励ましてやれ。
「反省した?」
「反省しました!ですから、嫌いにならないでください!坊ちゃまに不要といわれたら、生きていけません!」

 これで何度目かわからないほどやらかしているが、同じことは少なくてもケルンの前ではやっていないし…これさえなければいいやつなんだけどな。

「僕の先生は、ナザド!他の人は嫌だから自信持って!それに、嫌いになってないからね!あと、うちの家訓!みんな仲良く!わかった?」
「はい!坊っちゃま!」

 おかしいな。尻尾ないはずなのにふってる幻覚がみえる。
 ケルンがよしよしと頭をなでてる姿がまんま大型犬に絡まれる子供なんだよな。

 こんな風になる前のナザドがみたらどう思うんだろうな。むしろなんでこうまでケルンを大事に思うようになったんだろうか。

 ハイライトが戻ったら、安心ではある。あとは、ナザドの豹変に呆れて固まっているサーシャル先生にもいわないと。

 ほら、ケルン。きちんといっておけ。
「はーい。あのね、サーシャル先生。僕を心配してくれて、いってくれたのは、わかっています。でも、僕は自分で作ったこの杖が大切です!…それが危なくても…僕は一人ではないので、心配しないでください!だから、この杖は渡しません!ごめんなさい!」

 先生は、本当に杖が欲しくて脅していたわけではない。そういった脅しは、ポルティの街で出会った三人組から受けて知っていたのだ。

 サーシャル先生は、ケルンを守ろうとして、あえて、悪役をしようとしていたのだ。

「ばれていましたか…流石は先生の息子さんです。ですが、先程いったことは、本当です。充分注意してください」

 苦笑しつつ、先生は、頭を下げた。この話はこれで決着がついた。

 だというのに、ナザドは、サーシャル先生にまた口喧嘩を仕掛けて、先生もそれに乗っかっている、

 仲の悪い二人を見つつ、思考をせねばならない。
 建国貴族であること、杖のこと。そして、エフデであること。問題がどんどん増えていくが、まぁ、何とかなるだろう。

 一人ではない。家族や友人がいるのだから、乗り越えることはできるはずだ。

 とりあえず、明日の魔法の授業と講義、それから他の授業も見学しないと。

 杖をしまいつつ、思ったことは二人には話せなかった。
 やっぱり、杖が脈を打ってる…ような…わけないな!
 葉っぱがちらちら挨拶してしまわれていったけど。勘違いだ!

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
一時間後にもう一話更新します。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

神のミスで転生したけど、幼女化しちゃった! 神具【調薬釜】で、異世界ライフを楽しもう!

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
旧題:神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜  ※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!  電子書籍は、2026/3/9に発売です!  書籍は2026/3/11に発売(予約受付中)です!メロンブックス様より、特典の描き下ろしSSペーパーがあります。詳しくは、メロンブックス様へお願い致します。  イラストは、にとろん様です。よろしくお願い致します!  ファンタジー小説大賞に投票して頂いた皆様には、大変感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...