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33.使者

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「なんと! 我が国の他にも聖女はいるというのか!?」
「神の声を聴いてアレクシスの軍から逃げているだと?」
「では、カルロスが次の国王陛下か?」
「まさか! アレクシス殿下の方がずっと聡明なお方だ」
「だが神の加護がついているのは弟のカルロス殿下の方だ」

 ナタリー以外の聖女の存在を知った国王や大臣たちは、ジョナスの予言通り、ひどく取り乱し、会議は混乱に陥った。

「陛下。どうなさるおつもりですか」
「一体我々はどちらに加勢すればよろしいのでしょうか」
「ううむ。そうだな……」

 臣下たちから次々と疑問と不安を口に出され、困り果てた王はジョナスを呼び寄せ、意見を聞いた。

「僭越ながら陛下。我が国は原因不明の病について手をこまねいています。その実情を隣国へ伝え、今回は傍観するというのはいかがでしょうか」
「なるほど。その手があったか」
「し、しかし陛下!」

 その手でいこう、と決めかけた王に大臣の一人が待ったをかける。

「ユグリット国の頼みを断るということは、見捨てるということです。後で逆恨みでもされないでしょうか」
「そう、だな……」
「それに病の方も、聖女様のおかげでだいぶ収まってまいりました。そもそも王都で流行り、国全体に広まったわけではありません。向こうからすれば、助ける余力は十分あったとみなされないでしょうか」
「……ううむ。そうだな。ジョナスよ、やはり傍観するというのは難しいのではないか」

 またもや縋るように王はジョナスを見た。

「そこは納得してもらうしか他にありません。陛下。こちらから使者を送りましょう。そしてその者に上手く説明してもらうのです」
「なるほど。だが……誰がその役目を務めるのだ」

 長年因縁のある国、争った国でもある。使者とはいえ十分危険が伴う。もしかすると殺されるかもしれない。そんな大役を誰が引き受けてくれるというのか。

「これは交渉でもあります。それなりに、地位のある者でなければなりません」

 騒がしかった会議の場は、シンと静まり返った。自分が、と手を挙げる者は誰もいない。

「私にやらせてはいかがでしょうか」

 声の方へ一斉に視線が集まる。

 名乗り上げたのは、王女の護衛を任されているリアンであった。彼は今日に限って、この会議に出席することを許されていた。ジョナスが招いたのだ。

「リアン? だがそなたはアリシアの騎士ではないか」
「だからこそです。王女殿下や国王陛下のいるこの国を危険に晒したくはないのです」

 スラスラと、予め用意されていたかのような言葉をリアンは紡ぐ。

「おお、リアン。そなたそこまで娘のことを……」

 真面目で勇敢な青年の熱意に、国王はひどく感激したようだった。周りの者たちも彼の忠義を疑うことはしなかった。ただ一人、ジョナスだけを除いて。彼だけはリアンの本心を知っている。

 でも決して、その間違いを訂正することはしなかった。

「陛下。この件、リアンに任せてはいかがでしょうか」
「リアンよ、娘のため、この国のため、引き受けてくれるか?」
「はい。喜んでお受けします」

 面倒事を引き受けてもらい、国王はほっと一安心する。だがあることを思って、困った顔をした。

「アリシアは許してくれるかのぅ……」

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