ジゼルの錬金飴

斯波/斯波良久

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1章

5.錬金飴を作ろう

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 夕方に備える二人に別れを告げ、店を出る。
 その後、薬屋で錬金飴の材料となる薬草と果実を、何でも屋で瓶と包装紙の材料を購入し、宿に戻る。

 早速パン屋のおじさんとおばさん、宿屋の親父さんに渡す分の腰痛に効く錬金飴を作り始める。

 作り方は簡単。材料をすりおろしてから錬金釜に入れ、魔法をかけながらかき混ぜるだけ。大体四半刻ほどで固まり始める。浮き上がったものを穴あきお玉で掬い、しばらく乾かしたら完成だ。

 いつもよりも少し多めに材料を入れたので、大体五十個はできるはず。これを四回繰り返す。

 三人に渡すのはもちろん、手紙の返事にサンプルとして入れようと思ったのだ。

 腰痛の飴なのは一番依頼が多かったから。三人の分と一緒に作ってしまえるというのも大きい。

 乾かしている間に包み紙も作ってしまう。

 実はデザインはもう考えてある。
 王家からの依頼ほど凝ったデザインではなく、単純に見間違いを防ぐため。

 今までも包み紙の色を変えてはいたが、それだけだと少し分かりづらいかもしれない。違うものを一つずつ希望する人もいたので、柄も入れてみることにした。

 肩こりが赤のストライプ。
 腰痛が青の水玉。
 疲労回復が緑の葉っぱ。

 これなら効能が違う飴を同じ瓶に入れても取り間違えずに済む。

 包み紙を分ける代わりに、瓶はシンプルなキャンディポット型を採用する。こちらは急ぎではないので明日以降に作る。

 包み紙はもちろん、瓶にも忘れずに『ジゼル』の名を刻む。
 錬金術師は全員自分の作ったものに名前を刻む。錬金術を覚え始めてまっさきに教えてもらうことでもある。

 たとえ低級ポーション一本だろうと、錬金術を習い始めてひと月と経っていなくても。自分の作品であると証明すると同時に、生産者の責任が発生する。

 今回は包み紙のデザインに合うよう、錬金ギルドに所属していた頃とは少しだけ字体を変えてみた。

 これからはこのサインがジゼルの証になるのだ。そう思うと少しだけ頬が緩んだ。


「ふ~んふ~んふ~ん」
 小さくカットした包装紙の真ん中に飴を置き、包み込むように丸めて両端を縛る。形の悪いものは弾く。

 錬金術を使うとはいえ、あくまでも手作り。形が歪なものや大きさが異なるものも出てきてしまうのだ。

 女将さんと親父さんは気にしなくていいと言ってくれていたが、売り物とするからにはそうはいかない。自分で食べる用に手近な木のボウルにポンポンと入れていく。

 それから三人分はそれぞれ違う瓶に入れ、残りはひとまず大瓶へ。
 きゅっきゅと包んでは入れてを繰り返していると、ドアから女将さんの顔がひょっこりと現れた。

「ジゼル、お疲れ様。レターセットはこれで足りるかね?」
「ありがとうございます」

 立ち上がり、便せんと封筒を受け取る。
 宿で普段使っているものとは違い、小さな花が描かれた可愛らしいデザインだ。

 わざわざ買ってきてくれたのだ。嬉しくて頬が緩んだ。

「対応できるかは分からないと伝えてあるから、急がなくても大丈夫だから。無理しないようにね。ところでそこの大瓶は?」
「遠方の方の分から少しずつ進めようと思います。こっちはお返事をする際にサンプルとして同封しようかと」
「サンプル! いいねぇ。そっちのボウルの中のは使わないのかい?」

 女将さんが目をつけたのは、先ほど弾いた不揃いの飴だった。

「こっちは形が不揃いなので自分で消費しようかなって思ってて」
「余っているなら宿での試食用にいくつか分けてもらえない? 高額支払いの組に一つプレゼント、って形で配りたくて。気に入った人には一つ銅貨五枚で売るんだ」
「瓶売りではなく、単個売りにするんですね。今あるのは全部腰痛用なのですが、明日以降は残りの二つも作るので、完成次第持っていきますね。とりあえずこれが今ある分です。どうぞ」
「ありがとう。助かるわ~。あとで器もこっちで用意するわね」

 女将さんは木のボウルを大事そうに両手で包み込む。軽やかに去って行った。

 お風呂掃除と廊下の掃除をした直後とは思えないほどの足取りである。


「私も頑張ろう」
 女将さんを見送り、飴包みを再開する。

 最後の一つまで包んでから、便せんとペンを手に取る。宿の手伝いをする前に案内の紙だけ作ってしまおう。

 記すのは錬金飴の値段。
 また一つの瓶に十個入っていること。
 薬と似た効果があるため、錬金飴は一日一個までにしてほしいこと。

 依頼がたくさん来ているため、一度の購入でお渡しできるのは三つまで。
 送料は別途負担していただきたい・転売は禁止するところまで記した。

 ギルドに所属していたとはいえ、ある程度の知識はある。
 この辺りはきっちりしておかなければ後々揉める可能性が出てきてしまう。

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