37 / 64
3章
3.おかえりくださいませぇ
しおりを挟む
「今度来る時は果物をたくさん持ってくる。だから次もフルーツサンドを作ってほしいと伝えておいてほしい」
「わかったぁ。ばいば~い」
「ではまた」
デザート系サンドイッチ、フルーツサンドに感動したサンドイッチさんは毎日のように違う果物の入ったフルーツサンドを食べて過ごした。
時期的に売っている果物が少ないことを悲しみ、けれど親父さんオリジナルのカスタードフルーツサンドに感動し、大満足でチェックアウトしていった。
もちろん親父さん特製サンドイッチを持って。
「どらんもたべられればよかったのにね」
「出かけているんじゃしょうがないよ」
五日間、ずっとおやつはフルーツサンドだった。
そこで配達ギルドまでドランの分を持っていったのだが、あいにくと外出中だった。
以前から連休を取っていたらしく、配達ギルドにはドランの代わりに他のドラゴン使いが滞在していた。
親父さんよりもがっしりとした身体付きで、歴戦の傭兵といった雰囲気の少し怖そうな男性だ。
ドランを探していたジゼルとたーちゃんを一瞥すると、ズンズンとやってきて深々と頭を下げてくれた。無言でスッと差し出されたのは、ドラゴンの形をしたクッキー。
目を丸くするジゼルに周りの人が見かねて「受け取ってあげて。俺らももらったから」とジゼルに耳打ちしてくれた。お近づきの印らしい。
不思議な人だが、悪い人ではなさそうだ。
とりあえずたーちゃんと二人で深々と頭を下げ、ドラン用にと持ってきていたフルーツサンドを差し出した。
その後もちょこちょこと足を運んでみたものの、サンドイッチさんの滞在中にドランが帰ってくることはなかった。
急ぎの用事ではないし、今までだって何日も会わないのが普通だった。
繁忙期が重なると半月以上も会わないなんてことも。寂しいと感じたことはなかったが、今回はなんだか妙に頬に触れる風が冷たく感じる。
「はやくかえってくるといいねぇ」
「そうだね~。さて、そろそろ玄関先の掃き掃除をしようかな」
「たーちゃんもてつだう~」
用具入れから箒を取り出し、外に出る。
すると宿の前に大きな馬車が停まっていた。ヴァネッサが乗ってきた馬車よりも豪華で、貴族が乗るような立派なものだ。
錬金飴を売り始めてから何度も馬車を見ているジゼルだが、その中でもひときわ大きい。
箒を手に馬車を見ていると、顔の整った男女が降りてきた。兄妹だろうか。顔だけではなく、身につけているものもかなりのものだ。
二人とも機嫌が悪そうで、眉間に皺が寄っている。
そのままズンズンと進んでくる二人と無表情のお付きの人に、ジゼルは急いで来客用の笑みを作った。
「いらっしゃいませ。本日は宿泊の」
「ようやく会えたわね、ジゼル」
「急な訪問になってしまって申し訳ない。だが事は一刻を争う」
一体何の用だろうか。
若く見えるが、今にも爆発しそうな腰痛を患っているとか!?
事情は分からないが、身分の高そうな人達が外で立っていれば目立つ。すでに何事だ、と人が集まり始めていた。
「えっと、とりあえず中へどうぞ」
「おかえりくださいませぇ」
「たーちゃん!?」
中に案内しようとするジゼルとは反対に、たーちゃんは彼らを追い返そうとする。
こんなことをするのは初めてだ。サンドイッチさんがいた時は機嫌がよかったのに。
よほど何かが気に入らないのかもしれないが、貴族のメンツを潰したとものなれば後々厄介なことになる。嫌でもある程度は相手をする姿勢を見せなければ。
ジゼルは必死に謝罪の言葉を考える。
「何この子。……って上級精霊じゃない!? さすが私が見込んだ錬金術師」
「だぁれ、これ」
「たーちゃん、指ささないの。うちの子がすみません」
けれどたーちゃんはその間にも不遜な態度を重ねていく。
よほど機嫌が悪いのかもしれない。顔を隠すように胸の前で抱え、ペコペコと頭を下げる。
「ああ、別にいいのよ。精霊ってこういうものでしょ? 上級精霊ともなればなおのこと」
「そう、なんですか」
上級精霊かはともかく、相手はたーちゃんの態度にも機嫌を損ねた様子はない。
むしろ当然のものとして受け入れてくれたようだ。ホッと胸をなで下ろす。
「自由な存在よ。サンドイッチ好きが高じて人間に混じって生活している精霊もいるくらい。でもまさか本当に動物の姿をした上級精霊がいるなんて思わなかったわ」
なんだかつい先ほど見送った常連さんと似ているような気がするが、気のせいだろう。精霊が身近にポンポンといるはずがない。「いやぁ」と声をあげるたーちゃんを無視して、今度こそ宿の中に入ってもらう。
「えっと、本日は錬金飴のお求めということでよろしいでしょうか。あいにくと今は即日お渡しできる数が限られておりまして、数によっては後日配送させていただくことになりますが」
「よろしくないわよ」
「すでにお待ちくださっている方が大勢いらっしゃいますので……」
「そっちじゃなくて! 私達は飴を買いに来たんじゃないの」
「ではどのようなご用件で」
「ランプの製作依頼に来た。以前使っていたものが使用期限を迎えてしまった。至急、新しいものがほしい」
「時計も! ランプと同じデザインの時計も作ってもらわないと!」
なるほど。ランプの使用者か。
ギルドに所属していた頃はお客さんの声を聞く機会はほとんどなかったが、どうもランプの使用者は熱烈なお客さんが多いようだ。
といってもジゼルが知る限り、この二人の他にはステファニーとブルーノだけなのだが。
わざわざ居場所を調べてまで依頼に来るとは筋金入りのようだ。
「わかったぁ。ばいば~い」
「ではまた」
デザート系サンドイッチ、フルーツサンドに感動したサンドイッチさんは毎日のように違う果物の入ったフルーツサンドを食べて過ごした。
時期的に売っている果物が少ないことを悲しみ、けれど親父さんオリジナルのカスタードフルーツサンドに感動し、大満足でチェックアウトしていった。
もちろん親父さん特製サンドイッチを持って。
「どらんもたべられればよかったのにね」
「出かけているんじゃしょうがないよ」
五日間、ずっとおやつはフルーツサンドだった。
そこで配達ギルドまでドランの分を持っていったのだが、あいにくと外出中だった。
以前から連休を取っていたらしく、配達ギルドにはドランの代わりに他のドラゴン使いが滞在していた。
親父さんよりもがっしりとした身体付きで、歴戦の傭兵といった雰囲気の少し怖そうな男性だ。
ドランを探していたジゼルとたーちゃんを一瞥すると、ズンズンとやってきて深々と頭を下げてくれた。無言でスッと差し出されたのは、ドラゴンの形をしたクッキー。
目を丸くするジゼルに周りの人が見かねて「受け取ってあげて。俺らももらったから」とジゼルに耳打ちしてくれた。お近づきの印らしい。
不思議な人だが、悪い人ではなさそうだ。
とりあえずたーちゃんと二人で深々と頭を下げ、ドラン用にと持ってきていたフルーツサンドを差し出した。
その後もちょこちょこと足を運んでみたものの、サンドイッチさんの滞在中にドランが帰ってくることはなかった。
急ぎの用事ではないし、今までだって何日も会わないのが普通だった。
繁忙期が重なると半月以上も会わないなんてことも。寂しいと感じたことはなかったが、今回はなんだか妙に頬に触れる風が冷たく感じる。
「はやくかえってくるといいねぇ」
「そうだね~。さて、そろそろ玄関先の掃き掃除をしようかな」
「たーちゃんもてつだう~」
用具入れから箒を取り出し、外に出る。
すると宿の前に大きな馬車が停まっていた。ヴァネッサが乗ってきた馬車よりも豪華で、貴族が乗るような立派なものだ。
錬金飴を売り始めてから何度も馬車を見ているジゼルだが、その中でもひときわ大きい。
箒を手に馬車を見ていると、顔の整った男女が降りてきた。兄妹だろうか。顔だけではなく、身につけているものもかなりのものだ。
二人とも機嫌が悪そうで、眉間に皺が寄っている。
そのままズンズンと進んでくる二人と無表情のお付きの人に、ジゼルは急いで来客用の笑みを作った。
「いらっしゃいませ。本日は宿泊の」
「ようやく会えたわね、ジゼル」
「急な訪問になってしまって申し訳ない。だが事は一刻を争う」
一体何の用だろうか。
若く見えるが、今にも爆発しそうな腰痛を患っているとか!?
事情は分からないが、身分の高そうな人達が外で立っていれば目立つ。すでに何事だ、と人が集まり始めていた。
「えっと、とりあえず中へどうぞ」
「おかえりくださいませぇ」
「たーちゃん!?」
中に案内しようとするジゼルとは反対に、たーちゃんは彼らを追い返そうとする。
こんなことをするのは初めてだ。サンドイッチさんがいた時は機嫌がよかったのに。
よほど何かが気に入らないのかもしれないが、貴族のメンツを潰したとものなれば後々厄介なことになる。嫌でもある程度は相手をする姿勢を見せなければ。
ジゼルは必死に謝罪の言葉を考える。
「何この子。……って上級精霊じゃない!? さすが私が見込んだ錬金術師」
「だぁれ、これ」
「たーちゃん、指ささないの。うちの子がすみません」
けれどたーちゃんはその間にも不遜な態度を重ねていく。
よほど機嫌が悪いのかもしれない。顔を隠すように胸の前で抱え、ペコペコと頭を下げる。
「ああ、別にいいのよ。精霊ってこういうものでしょ? 上級精霊ともなればなおのこと」
「そう、なんですか」
上級精霊かはともかく、相手はたーちゃんの態度にも機嫌を損ねた様子はない。
むしろ当然のものとして受け入れてくれたようだ。ホッと胸をなで下ろす。
「自由な存在よ。サンドイッチ好きが高じて人間に混じって生活している精霊もいるくらい。でもまさか本当に動物の姿をした上級精霊がいるなんて思わなかったわ」
なんだかつい先ほど見送った常連さんと似ているような気がするが、気のせいだろう。精霊が身近にポンポンといるはずがない。「いやぁ」と声をあげるたーちゃんを無視して、今度こそ宿の中に入ってもらう。
「えっと、本日は錬金飴のお求めということでよろしいでしょうか。あいにくと今は即日お渡しできる数が限られておりまして、数によっては後日配送させていただくことになりますが」
「よろしくないわよ」
「すでにお待ちくださっている方が大勢いらっしゃいますので……」
「そっちじゃなくて! 私達は飴を買いに来たんじゃないの」
「ではどのようなご用件で」
「ランプの製作依頼に来た。以前使っていたものが使用期限を迎えてしまった。至急、新しいものがほしい」
「時計も! ランプと同じデザインの時計も作ってもらわないと!」
なるほど。ランプの使用者か。
ギルドに所属していた頃はお客さんの声を聞く機会はほとんどなかったが、どうもランプの使用者は熱烈なお客さんが多いようだ。
といってもジゼルが知る限り、この二人の他にはステファニーとブルーノだけなのだが。
わざわざ居場所を調べてまで依頼に来るとは筋金入りのようだ。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
625
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる