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第5話:国を出ようと思います

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どれくらい泣いただろう。そう思う程、泣いて泣いて泣き続けた。こんなに泣いたのは、両親が亡くなって以来だ。とにかく何もしたくなくて、体調が悪いと言って食事も食べずにベッドに横になる。

その時だった。

コンコン
「レティシア、体調が優れないんだって?大丈夫かい?」

やって来たのは、リアム様だ。どうしよう、全てを知ってしまった今、一体どんな顔をして会ったらいいのかしら?考えた末出した結論は、狸寝入りだ。とにかく眠っている事にしよう。そう思い、ベッドの中で丸くなって、リアム様が立ち去るのを待つ。

「レティシア、眠っているのかい?」

返事をしない私を見て、どうやら眠っていると思ったみたいで、そのまま私の頭を撫でて出て行った。どうしてこんな時まで、頭を撫でてくれるのかしら。そう思ったら、また涙が込み上げて来た。

そして、今までの事を思い返す。リアム様は、いつもどんな時も私に寄り添ってくれた。そんな優しいリアム様。でもリアム様が愛しているのは、ミランダ様。それなら、私に出来る事と言えば、リアム様の元から静かに立ち去る事だけ。

そうよ、今まで沢山の優しさをくれたリアム様。両親が亡くなった時も、ずっと寄り添ってくれた。そのおかげで、私は立ち直る事が出来たのだ。そんなリアム様の為に出来る事は、2人の為に身を引く事。私が自分から王宮を出て行けば、2人が結婚しても悪い噂は立たないはず。

でも、今までずっと公爵令嬢として生きて来た。王宮を出て行くと言っても、一体どうやって生きて行けばいいのかしら?私には頼れる実家ももうない。だとすると、きっと平民として生きなければいけない。でも今の私が平民になったところで、野垂れ死んでしまうだろう。

一応お父様が残してくれた財産があるけれど、これでどれくらい生きられるのかしら?そうだわ、明日王宮の図書館に行ってみよう。よし!そうと決まれば、行動あるのみね。

翌日、朝から私を心配したリアム様が部屋を訪ねて来てくれた。

「レティシア、体調が優れなかったそうだが、もういいのかい?」

「はい、お陰様で大丈夫ですわ。リアム様、お仕事がお忙しいのでしょう。私はもう大丈夫なので、どうぞ行ってください」

正直今はリアム様の顔を見ると、涙が込み上げて来るのだ。

「元気ならよかった。すまない、最近忙しくて、全然レティシアに会いに来られなくて。もうしばらく忙しいが、この件が解決すればずっと一緒にいられるから、それまで我慢して欲しい」

「私は大丈夫ですわ。どうかご無理をしないで下さい」

「ありがとう、それじゃあレティシア。また様子を見に来るからね」

そう言うと、私の額に口付けをして去って行った。きっと私との婚約破棄の件を始め、ミランダ様を新しい婚約者として迎え入れる準備などで忙しいのだろう。リアム様の負担を減らす為にも、一刻も早く王宮を去らないと。

でも…
やはり大好きなリアム様の元を去るのは辛い。つい涙が込み上げて来た。しばらく泣いた後、気を取り直して図書館へと向かった。そう、平民の生活がどういうものなのかを知る必要がある。さらにこの国だと、私の事を知っている人も多いだろう。とにかく他国に向かい、その国で平和に暮らしたい。

まずはどの国に向かうかを決めないといけない。そう言えば、アモーレ王国は他国からの人を受け入れていると聞いた事がある。早速アモーレ王国について調べると、やはりお金さえ払えば、異国の人間でも永住できるらしい。

さらにアモーレ王国は、我がパンドラ王国と同じ通貨を使っているとの事。物価もパンドラ王国と同じぐらいと書いてあった。よし、行先はアモーレ王国にしよう。次はアモーレ王国での平民の生活ね。

なるほど、平民はお料理もお洗濯もお掃除も全て自分で行うのね。それから、生きる為に仕事をしなければいけないらしい。思っていた以上に大変そうな平民の生活。公爵令嬢として生きて来た私に、出来るかしら?一抹の不安がよぎる。

いいえ、出来るかしらじゃなくて、やるのよ!これも愛するリアム様の為。リアム様が幸せになれると思ったら、何だって出来るわ。大丈夫、今までだって厳しい王妃教育を耐えて来たのですもの、きっと平民の生活も何とかなる。

とはいっても、やはりある程度平民の生活を見ておいた方がよさそうね。明日早速街に出てみよう。もちろん、リアム様に内緒で。

翌日
昔リアム様と街を視察した時に着ていた、シンプルなワンピースを身にまとい馬車に乗り込んだ。行先は、もちろん街だ。護衛騎士が当たり前の様に付いてきたが、こればかりは仕方がない。

ちなみにこのワンピースは、1人で着た。一度1人で着てみたいとメイドにお願いして、着方を教えてもらったのだ。思ったより簡単に着られた。これなら平民になった時も、困らなさそうね。

街に着くと、早速住宅街を歩く。皆洗濯をしている。へ~、ああやって洗濯をするのね。洗ったものは、あの紐に掛けるのね。なるほど。

「あの、レティシア様。どうしてこの様な場所に」

1人の騎士が不思議そうに聞いて来た。ここで疑われてはまずい。

「次期王妃として、平民たちがどんな生活をしているのか見ておきたいの」

そう答えておいた。すると

「そうでしたか。それならせっかくなので、家の中なども見せてもらいましょう。実は私の知り合いがこの近くに住んでいるのです」

何を思ったのか、急に張り切りだした護衛騎士。有難い事に、友人の家を紹介してくれた。初めて見る平民の家。部屋自体は小さく質素だが、奇麗に整理整頓されている。さらにお昼ご飯をご馳走してくれるとの事。これは有り難い。器用に料理を作っていくこの家の住人。へ~、こうやって料理をするのね。

「お口に合うか分かりませんが」

そう言って出してくれたのは、野菜スープとパン。さらにお肉の煮たものだ。早速1口。これは!

「初めて食べる味ですが、物凄く美味しいですわ」

華やかさはないが、野菜やお肉のうまみがしっかり引き出されていて、とても美味しい。あまりの美味しさに、つい完食してしまった。せっかくなので、片づけを一緒にさせてもらう事にした。初めてお皿を洗ったが、これが意外と難しい。裏側までしっかり洗わないといけないのだ。

それに油汚れは中々落ちず、付け置きをしておくらしい。なるほど、本当に勉強になるわ。

「今日はありがとうございました。またここに来てもよろしいですか?」

私の言葉に、心底驚く住民。それでも

「こんなむさ苦しいところで良ければ、いつでもいらして下さい」

そう笑顔で答えてくれた。その後は平民が買い物をすると言う市場を見学したり、平民用の服が売っているお店に行ったりもした。そしてこっそりワンピースを2着購入した。

ふと外を見ると、日が沈みかかっていた。そろそろ帰らないとね。再び馬車に乗り込む。それにしても、今日は平民の生活を色々と見られて良かったわ。これから頻繁に街に出て、もっともっと勉強しないとね。
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