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第6話:中々うまく進まないものです

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平民の暮らしを間近に見られたことで、グンとこの国から出て行く計画が進んだ様な気がして、なんだか嬉しかった。でもそれと同時に、リアム様とのお別れの時間が迫っていると思うと、胸がチクリと痛む。

私ったら本当に弱いわ。いずれ追い出される身。それならリアム様の名誉の為にも、自分から出て行くと決めたのに。複雑な感情を抱いたまま、王宮へと戻って来た。馬車から降りると

「レティシア、一体どこに行っていたんだ!物凄く心配したんだよ」

物凄い勢いでリアム様に抱きしめられた。なるほど、優しいリアム様の事だ。今はまだ婚約者でもある私を気遣ってくれているのだろう。

「少し街の様子を見て来ただけですわ。次期王妃になる身としては、ある程度平民の生活を知っておく必要があると思いまして。ですからこれからも…」

「勝手に王宮の外に出ては駄目だろう!どうして僕に1言声を掛けなかったんだ。お前たちも何をしているんだ!とにかく、金輪際1人で街に出る事を禁ずる。いいね」

そう言うと、私を抱きかかえて歩き出したリアム様。今までなら純粋に心配してくれていると、素直に嬉しかった。でもリアム様の本心を知っている今、こんな事をされても辛いだけだ。

「自分で歩けますわ。降ろしてください」

リアム様の腕から抜け出そうとするものの

「コラ、じっとしてないと危ないだろう。とにかく大人しくするんだ!」

なぜか怒られてしまった。そうか、いずれ婚約破棄をすると決まっていても、優しいリアム様はその時が来るまでは、私を今まで通り大切にして下さるつもりなんだろう。でもそれだと、ミランダ様に悪いわ。そんな事を考えているうちに、自室へと戻って来た。

「今日はこの部屋で一緒に晩ご飯を食べよう。今運ばせるよ」

えっ?この部屋で一緒にですって。そんな嬉しい事をされたら、リアム様と離れる時もっと辛くなってしまう。断ろうとした時だった。

“殿下、ミランダ嬢がお見えです”

リアム様の耳元でそう呟く執事。私に聞こえない様にかなり小声で呟いているが、生憎私は地獄耳。はっきりと聞こえた。

「分かった。とりあえず客間に通しておいてくれ。レティシア、悪いがどうしても外せない急用が入ったんだ。ごめんね」

「大丈夫ですわ。お仕事なのでしょう?どうぞ私の事は気にせず、早く行ってあげて下さい」

ミランダ様の所に…
ずっとずっと思い続けた相手がやって来たのだ。私なんかよりも愛するミランダ様を選ぶのは当然の事。分かっていても、やはり辛いもの。それでもここは、笑顔で見送らないと。必死に笑顔を作る。

「本当にごめんね、レティシア。それじゃあ」

急いで出て行くリアム様の後姿を見つめる。これでいいのよ、これで。何度も自分に言い聞かせる。その後、部屋に夕食が運ばれてきた。きっとここで食べないと、またリアム様に無駄な心配をさせてしまう。正直食欲は無かったが、気合で全て食べきった。

今日は久しぶりに街に出て沢山歩いたので、かなり疲れた。とにかく今日は早く寝よう。早めにベッドで休む事にしたのであった。

翌日から、再び図書館へと向かう。本当は街に出たいのだが、生憎リアム様に街に出る事は禁止されている。もしかしたら、私が人と繋がる事を警戒しているのかもしれない。

街に行けない事で、思う様に準備を進める事が出来ない。それでも、着々と準備を進めていく。いつも使用人にお願いしている事も「自分でやってみたい」と伝え、着替えや湯あみなども少しずつ覚えている。

他にも、家事に関する本も毎日の様に読んでいる。もちろんアモーレ王国に行く為の交通手段や、どの街に住むかも念入りに調べる。今目星を付けているのは、アモーレ王国の南にある、小さな港の村だ。とても美しい海があるらしい。主に漁業で生計を立てており、女性たちは魚介類を加工する仕事を始め、貝殻や珊瑚などを使ってアクセサリーを作る仕事もしているらしい。さらに穏やかな人が多いとの事。

他にもいくつか候補の街を選んだ。よし、これで準備は随分進んだわ。でも…

図書館で調べる事は出来ても、実際街に行かないと出来ないこともある。例えばお父様が残してくれたお金は、銀行に預かってもらっている。まずは銀行に行ってお金を引き出さないといけない。

それにアモーレ王国に行く為には、船に乗って行くのだが、予め船のチケットを購入しなければいけない。それも街に行かないと出来ないのだ。

どうしよう…このままだと、いつまでたってもこの国から出られない。それにうまく街に出られたとしても、護衛騎士たちがいる限り、お金を引き出したりチケットを買ったりは出来ないわ。

そんな事をしたら、私が国を出て行こうとしている事がバレてしまう。一体どうすればいいのかしら?
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