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第46話:どうしてこんな事に~クラシエ視点~
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この国では珍しいピンクの髪に、美しい水色の瞳、まるでおとぎの国のお姫様の様な愛くるしい顔。それが私、クラシエ・ディースティン。
両親も可愛い私を溺愛してくれ、私が望むものは何でも与えてくれた。どんな時も注目されていたい、私が一番なのだから。そう思っていた。
でも私は男爵令嬢。貴族界では一番爵位が低いのだ。そんな中、私は貴族学院に入学した。そして目を付けたのが、王太子殿下のヒューゴ様だ。私の美しさと持ち前の穏やかな性格を武器に、一気にヒューゴ様を虜にした。
でもヒューゴ様は、どうやら侯爵令嬢のマリア様が気になる様子。でもマリア様は、ろくにヒューゴ様を見ずに、醜いお妃争いを繰り広げていた。そしてヒューゴ様に近づく私に、様々な嫌がらせをして来た。
ただ彼女の場合、主に暴言を吐くだけ。他の令嬢の様に、階段から突き落としたり、頬を打ったりと言う暴力はない。それでも私は、全てマリア様からされたとヒューゴ様に報告した。
そのたびにマリア様に抗議をするヒューゴ様。マリア様はそんな事はしていないと訴えていたが、もちろん彼女のいう事なんて信じない。私が少し涙を流すと、すぐに私のいう事を信じてくれるのよね。男なんて、本当にチョロいものだ。
そんな日々を送っているうちに、マリア様が正式にヒューゴ様の婚約者になった。
どうやらヒューゴ様が、マリア様を婚約者にと推した様だ。きっとヒューゴ様はマリア様を好きなのだろう。でも、2人をくっつけさせたりはしないわ。
そんな思いから、私はヒューゴ様に
「マリア様はヒューゴ様を愛していない様ですよ。私、聞いたのです。“これで私は王妃になれるわ。正直ヒューゴ様なんて興味がないのよ。王妃にさえなれればいいの”と…言おうかどうか迷ったのですが、あまりにもヒューゴ様が可哀そうで…」
そう伝えてやった。もちろん、マリア様はそんな事を言っていない。でも、私の言葉を完全に信じたヒューゴ様は、それ以降、マリア様とは目も合わさなくなった。そして、私を側室に迎えてくれた。
せっかく側室になったのですもの。私が産んだ子を次の王太子にしたい。そんな思いから、子供が出来るまで何度も抱いてもらった。そのお陰か、第一子の王子を生むことが出来た。
その後は他の側室の元にも通っている様だが、正室のマリア様の元には一度も通っていないらしい。何度もマリア様がヒューゴ様に近寄ろうとしているが、完全に無視を続けるヒューゴ様。
よほどマリア様が、ヒューゴ様を愛していないという私の言葉がショックだったのだろう。その後も私は3人の子供を産んだ。そして、実質私が権力を握る様になった。もうこの国もヒューゴ様も私のもの。そう思った時だった。
目が覚めると、なんと貴族学院入学前に戻っていたのだ。ショックだった、私が築き上げてきたものが、一瞬にして消えてしまったのだから。でも…私は可愛くて誰からも愛される人間だ。
またヒューゴ様に近づけばいいのだもの。そう思っていた。でも、なぜか今回の生では、マリア様は王妃に興味がない様で、熾烈な争いに参加していなかった。
そしてヒューゴ様は、そんなマリア様が気になって仕方がない様子。私がどんなにヒューゴ様に近づこうとしても、当の本人からあしらわれてしまうのだ。
そして迎えたヒューゴ様の15歳の誕生日。なんとマリア様を最初のダンスに誘ったのだ。前回の生の時は、私を誘ってくれたのに…
何とかしないと!そんな思いから、マリア様を呼び出し、皆が見ている前で暴言を吐かれていると嘘の証言をしたのだ。この話を聞けば、きっとヒューゴ様は私を心配し、マリア様に文句を言ってくれる。1度目の生の時みたいに。
でも…侯爵令息のライアン・ディファースティンに激しく責められたうえ、ヒューゴ様にまで“マリア嬢はそんな事をしない”と言われてしまった。どうして?1度目の生の時は、どんな時でも私の言う事を信じてくれたのに…
その後も何度もヒューゴ様に話しかけるが
「悪いが僕は、君に興味がないんだ。そもそも、男爵令嬢の君が、王太子でもある僕に気軽に話すこと自体良くない。それから、僕の事を名前で呼ばないでくれ。あまりにもひどい様なら、不敬罪で君を訴えるよ」
そう言われてしまったのだ。どうして?なんで私を見てくれないの?
そうか、マリア様がいるから私を見てくれないのだわ。マリア様さえいなくなればきっと、また私を見てくれる様になる。
そして考え付いたのが、マリア様を毒殺する事だった。私をこんなに苦しめたのだ、マリア様には苦しみながら息絶えてもらおう。そう思い、他国では重犯罪者に使うと言われている毒も手に入れた。
これで全てがうまく行くと思っていた。それなのに…
私は今、地下牢にいる。あの男、ライアン・ディファースティンによって、私の罪が全て暴かれてしまったのだ。あの男、マリア様に居場所を特定できる機械だけでなく、録音出来るものまで持たせていたのだ。
1度目の生では存在すら知らなかったあんな男に!そんな私にあの男は、今日の午後処刑されることが決まった事、私が準備した毒を用いる事を説明していったのだ。
「どうして私が、毒を飲まないといけないのよ…イヤよ…死にたくないわ…」
恐怖から身を縮めていると、また誰かの足音が聞こえてくる。もしかして、刑が執行されるの?でも、執行は午後と言っていたわ。
身を縮めていると、そこに現れたのはヒューゴ様だった。
「ヒューゴ様!お願いです、助けて下さい」
上目使いで涙をポロポロと流して訴える。
「1度目の生の時は、君のその涙に随分騙されたよ…」
ポツリとそう呟いたヒューゴ様。えっ?一度目の生?
「あの、ヒューゴ様も、一度目の生の記憶があるのですか?」
「ああ…でも、記憶が戻ったのは最近だ。マリア嬢に、全ての話しを聞いてからだ。マリア嬢と話しをしてから、毎日同じ夢を見る様になった。それは、1度目の生の時の記憶だったんだ。最初は夢だと思っていた。でも、次第にこれは夢じゃなく、1度目の生の時に起こった現実だと気づいたよ。そして、一気に思い出したんだ」
何を言っているかよくわからないが、どうやらヒューゴ様も、一度目の生の時の記憶があるみたいだ。
「僕は1度目の生の時から、マリア嬢を…いいや、マリアを愛していた。でも、醜い王妃争いに参加するマリアを見ていたら、次第に心が揺れた。それでもマリアは、僕と結婚したいが為に、必死に戦っているのだと自分に言い聞かせていた。正式に婚約を結べば、僕を見てくれると。そしてマリアと無事婚約が出来たんだ。でも…」
今まで見た事ないほど冷たい眼差しで私を見つめるヒューゴ様。
「でも君はあの時僕に嘘を付いた。“マリアは王妃になりたいだけで、僕を愛してなどいない”てね。その言葉をまんまと信じてしまった僕は、マリアを避ける事にしたんだ。愛されていない彼女を抱いても、空しいだけだからね…」
「どうして嘘だといいきれるのですか?私は本当に…」
「まだ嘘を重ねる気かい?マリアもね、1度目の生の時の記憶を持っているんだよ。彼女は僕にずっと愛されていない、嫌われていると思っていたらしい。そして6年もの間、孤独と寂しさの中、ずっと僕を待ち続けていたんだ。そうとも知らずに僕は…」
悔しそうに唇を噛むヒューゴ様。
「マリアはね、はっきりと言ったんだ。1度目の生の時、僕を愛していたと。そして君にも謝罪していたよ。君に酷い事をしたってね。それなのに君は、本当に恐ろしい女だ。でも、君の様な女にまんまと騙された1度目の生の時の僕も、大概どうしようもない男だけれどね。本当に、自分が嫌になる…そして今回の事件も、僕が愚かだったばかりに起こってしまった。僕はマリアを傷つけた君を許すことは出来ない。午後からの刑にも、立ち会う予定だ。それじゃあ、また執行の時に会おう」
「待って、ヒューゴ様。お願い、私はあなた様を愛していただけなの。だから…どうか見捨てないで。お願いよ…」
一切振り向くとこのないヒューゴ様に向かって、必死に叫んだ。私、どこで間違ってしまったのかしら…気が付くと、瞳から涙が溢れ出ていた。
「全部、あの女のせいよ…あの女さえいなければ…」
唇を噛みしめ、私はただマリア様を恨んだのであった。
両親も可愛い私を溺愛してくれ、私が望むものは何でも与えてくれた。どんな時も注目されていたい、私が一番なのだから。そう思っていた。
でも私は男爵令嬢。貴族界では一番爵位が低いのだ。そんな中、私は貴族学院に入学した。そして目を付けたのが、王太子殿下のヒューゴ様だ。私の美しさと持ち前の穏やかな性格を武器に、一気にヒューゴ様を虜にした。
でもヒューゴ様は、どうやら侯爵令嬢のマリア様が気になる様子。でもマリア様は、ろくにヒューゴ様を見ずに、醜いお妃争いを繰り広げていた。そしてヒューゴ様に近づく私に、様々な嫌がらせをして来た。
ただ彼女の場合、主に暴言を吐くだけ。他の令嬢の様に、階段から突き落としたり、頬を打ったりと言う暴力はない。それでも私は、全てマリア様からされたとヒューゴ様に報告した。
そのたびにマリア様に抗議をするヒューゴ様。マリア様はそんな事はしていないと訴えていたが、もちろん彼女のいう事なんて信じない。私が少し涙を流すと、すぐに私のいう事を信じてくれるのよね。男なんて、本当にチョロいものだ。
そんな日々を送っているうちに、マリア様が正式にヒューゴ様の婚約者になった。
どうやらヒューゴ様が、マリア様を婚約者にと推した様だ。きっとヒューゴ様はマリア様を好きなのだろう。でも、2人をくっつけさせたりはしないわ。
そんな思いから、私はヒューゴ様に
「マリア様はヒューゴ様を愛していない様ですよ。私、聞いたのです。“これで私は王妃になれるわ。正直ヒューゴ様なんて興味がないのよ。王妃にさえなれればいいの”と…言おうかどうか迷ったのですが、あまりにもヒューゴ様が可哀そうで…」
そう伝えてやった。もちろん、マリア様はそんな事を言っていない。でも、私の言葉を完全に信じたヒューゴ様は、それ以降、マリア様とは目も合わさなくなった。そして、私を側室に迎えてくれた。
せっかく側室になったのですもの。私が産んだ子を次の王太子にしたい。そんな思いから、子供が出来るまで何度も抱いてもらった。そのお陰か、第一子の王子を生むことが出来た。
その後は他の側室の元にも通っている様だが、正室のマリア様の元には一度も通っていないらしい。何度もマリア様がヒューゴ様に近寄ろうとしているが、完全に無視を続けるヒューゴ様。
よほどマリア様が、ヒューゴ様を愛していないという私の言葉がショックだったのだろう。その後も私は3人の子供を産んだ。そして、実質私が権力を握る様になった。もうこの国もヒューゴ様も私のもの。そう思った時だった。
目が覚めると、なんと貴族学院入学前に戻っていたのだ。ショックだった、私が築き上げてきたものが、一瞬にして消えてしまったのだから。でも…私は可愛くて誰からも愛される人間だ。
またヒューゴ様に近づけばいいのだもの。そう思っていた。でも、なぜか今回の生では、マリア様は王妃に興味がない様で、熾烈な争いに参加していなかった。
そしてヒューゴ様は、そんなマリア様が気になって仕方がない様子。私がどんなにヒューゴ様に近づこうとしても、当の本人からあしらわれてしまうのだ。
そして迎えたヒューゴ様の15歳の誕生日。なんとマリア様を最初のダンスに誘ったのだ。前回の生の時は、私を誘ってくれたのに…
何とかしないと!そんな思いから、マリア様を呼び出し、皆が見ている前で暴言を吐かれていると嘘の証言をしたのだ。この話を聞けば、きっとヒューゴ様は私を心配し、マリア様に文句を言ってくれる。1度目の生の時みたいに。
でも…侯爵令息のライアン・ディファースティンに激しく責められたうえ、ヒューゴ様にまで“マリア嬢はそんな事をしない”と言われてしまった。どうして?1度目の生の時は、どんな時でも私の言う事を信じてくれたのに…
その後も何度もヒューゴ様に話しかけるが
「悪いが僕は、君に興味がないんだ。そもそも、男爵令嬢の君が、王太子でもある僕に気軽に話すこと自体良くない。それから、僕の事を名前で呼ばないでくれ。あまりにもひどい様なら、不敬罪で君を訴えるよ」
そう言われてしまったのだ。どうして?なんで私を見てくれないの?
そうか、マリア様がいるから私を見てくれないのだわ。マリア様さえいなくなればきっと、また私を見てくれる様になる。
そして考え付いたのが、マリア様を毒殺する事だった。私をこんなに苦しめたのだ、マリア様には苦しみながら息絶えてもらおう。そう思い、他国では重犯罪者に使うと言われている毒も手に入れた。
これで全てがうまく行くと思っていた。それなのに…
私は今、地下牢にいる。あの男、ライアン・ディファースティンによって、私の罪が全て暴かれてしまったのだ。あの男、マリア様に居場所を特定できる機械だけでなく、録音出来るものまで持たせていたのだ。
1度目の生では存在すら知らなかったあんな男に!そんな私にあの男は、今日の午後処刑されることが決まった事、私が準備した毒を用いる事を説明していったのだ。
「どうして私が、毒を飲まないといけないのよ…イヤよ…死にたくないわ…」
恐怖から身を縮めていると、また誰かの足音が聞こえてくる。もしかして、刑が執行されるの?でも、執行は午後と言っていたわ。
身を縮めていると、そこに現れたのはヒューゴ様だった。
「ヒューゴ様!お願いです、助けて下さい」
上目使いで涙をポロポロと流して訴える。
「1度目の生の時は、君のその涙に随分騙されたよ…」
ポツリとそう呟いたヒューゴ様。えっ?一度目の生?
「あの、ヒューゴ様も、一度目の生の記憶があるのですか?」
「ああ…でも、記憶が戻ったのは最近だ。マリア嬢に、全ての話しを聞いてからだ。マリア嬢と話しをしてから、毎日同じ夢を見る様になった。それは、1度目の生の時の記憶だったんだ。最初は夢だと思っていた。でも、次第にこれは夢じゃなく、1度目の生の時に起こった現実だと気づいたよ。そして、一気に思い出したんだ」
何を言っているかよくわからないが、どうやらヒューゴ様も、一度目の生の時の記憶があるみたいだ。
「僕は1度目の生の時から、マリア嬢を…いいや、マリアを愛していた。でも、醜い王妃争いに参加するマリアを見ていたら、次第に心が揺れた。それでもマリアは、僕と結婚したいが為に、必死に戦っているのだと自分に言い聞かせていた。正式に婚約を結べば、僕を見てくれると。そしてマリアと無事婚約が出来たんだ。でも…」
今まで見た事ないほど冷たい眼差しで私を見つめるヒューゴ様。
「でも君はあの時僕に嘘を付いた。“マリアは王妃になりたいだけで、僕を愛してなどいない”てね。その言葉をまんまと信じてしまった僕は、マリアを避ける事にしたんだ。愛されていない彼女を抱いても、空しいだけだからね…」
「どうして嘘だといいきれるのですか?私は本当に…」
「まだ嘘を重ねる気かい?マリアもね、1度目の生の時の記憶を持っているんだよ。彼女は僕にずっと愛されていない、嫌われていると思っていたらしい。そして6年もの間、孤独と寂しさの中、ずっと僕を待ち続けていたんだ。そうとも知らずに僕は…」
悔しそうに唇を噛むヒューゴ様。
「マリアはね、はっきりと言ったんだ。1度目の生の時、僕を愛していたと。そして君にも謝罪していたよ。君に酷い事をしたってね。それなのに君は、本当に恐ろしい女だ。でも、君の様な女にまんまと騙された1度目の生の時の僕も、大概どうしようもない男だけれどね。本当に、自分が嫌になる…そして今回の事件も、僕が愚かだったばかりに起こってしまった。僕はマリアを傷つけた君を許すことは出来ない。午後からの刑にも、立ち会う予定だ。それじゃあ、また執行の時に会おう」
「待って、ヒューゴ様。お願い、私はあなた様を愛していただけなの。だから…どうか見捨てないで。お願いよ…」
一切振り向くとこのないヒューゴ様に向かって、必死に叫んだ。私、どこで間違ってしまったのかしら…気が付くと、瞳から涙が溢れ出ていた。
「全部、あの女のせいよ…あの女さえいなければ…」
唇を噛みしめ、私はただマリア様を恨んだのであった。
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