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第五十六話 モルドーの村

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「ところで、ここはどこなの?」

 ちょっと年季が入ってそうな部屋。思ったよりも静かだし、多少の生活感はあるからどこかの宿屋というわけでもなさそう。親切な誰かの家にでも置いてもらっているのだろうか。

「ここはマダシから少し離れたモルドーの村だ。あまりシオンを抱えたまま移動するのは難しいとグルーが判断したから、村の人に頼んで空き家になっている家を貸してもらっている」
「さすがのワシもシオンの魔力が安定してないと身体のサイズを保つのが難しいからのう。もっと移動してもよかったんじゃが、下手に死なれても寝覚めが悪いしな」
「そうだったの。なんか色々と迷惑をかけちゃってごめんね」

 この前の契約魔法でグルーに首輪をかけたことで私とグルーの魔力は繋がっている状態だ。
 今まで魔力を切らすなんてことがなかったから知らなかったが、確かに私の魔力がなくなったことでグルーにも何かしら弊害があるのかもしれない。

「全くだ。だから今後は絶対に無理するんじゃないぞ!」
「うん、そうする」
「ヴィルはこういう村で生活したことなかったからか、掃除やら洗濯やらずっと四苦八苦しておったしな」
「な……っ! グルーだって村での生活の経験ないだろっ」
「ワシは人間の生活をする必要がないからのう。シオンがいないと何もできんヴィルとは違うのじゃ」
「ぐぬぬぬ」
「はいはい、言い争いしないの。んー、さすがにこの状態だとまだ次のとこに行けそうにもないから、仕方ないけど回復するまでこの村でお世話になるしかないわね。村長さんにはちゃんとご挨拶した?」
「あぁ」
「挨拶が仰々しくて驚かれたくらいじゃよ」
「グルー! それはシオンに言うなって言っただろっ」

 私が気を失っている間に色々あったらしい。
 ヴィルもヴィルなりに頑張ってくれてはいたみたいだが、王子なこともあって生活力云々が欠けているのだろう。元気になったらその辺も仕込まないといけないのかもしれない。

「グルー。ヴィルをそんなに虐めないの」
「別に事実を言っただけで、虐めてるつもりはないんじゃが」
「自覚なくても言い過ぎ。ヴィルだって頑張っててくれてるんだから」
「シオン……っ!」
「そうやって甘やかすのはよくないと思うぞ、ワシは」
「これは甘やかしじゃないわよ。褒めるとこはちゃんと褒めてあげなきゃ、でしょ? 慣れないことを頑張ってくれたのは事実だし」
「まぁ、それはそうかもしれんが……」
「ということで、ヴィルもグルーもありがとう」
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