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第8話 王子様が設定に無い事もしてきます

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「説明しなさいよ!  一体どんな手を使ったのよ!?」
「……」
「この卑怯者!」

  殿下のとの事が強烈過ぎてすっかり忘れかけていたけれど、異母姉リデラからのネチネチ嫌味コースがまだ残っていた。
  屋敷に帰り着くなり、リデラは私の元に飛んで来て嫌味攻撃を開始した。


「───ふっ、まぁ、良いわ。どうせ、殿下の気まぐれに過ぎないでしょう」
「……」

  ネチネチと嫌味を繰り返し続けたリデラは一人で勝手にそう結論づけていた。
  “放っておけない”“守らせて欲しい”などと言われた事を知られたら、ますます煩い事になるのは目に見えている。

  (しばらくこのネチネチ嫌味攻撃は続きそうね)

  殿下が私を守ってくれると言っても、それは学院での話。さすがに家でのリデラからのネチネチ嫌味攻撃に関してはどうする事も出来ない。

  (そもそも守るって殿下は何をする気なの?)

「……ちょっと!  あなた聞いてるの!?」
「き、聞いてます……えっと、調子に乗るな、ですよね?」
「ふん!  分かってるなら良いのよ」

  適当に答えたけれど当たっていたらしい。
  リデラは満足して部屋へと戻って行った。


*****


  ぐーきゅるる……

  (あぁ、お腹が空いたわ)

  翌朝、まともな朝ごはんが貰えなかったので、いつものように厨房にお邪魔しようとしたら、何故か朝からリデラが料理人達の所にいたので、残飯を分け与えてもらう事を断念した事で今、私はとてもお腹が空いていた。

  (空腹で馬車なんて乗るものじゃないわね……)

  お昼までこのお腹持つかしら?  と、授業開始まで自分の席でぐったりしていたら、教室内がザワっとした。

「……?」

  何だろう?  と思い顔を上げると、上級生らしき人が教室に現れて私の元に真っ直ぐ向かって来る。

  (……だ、誰!?)

「アメリア・イラージュ様ですね?」
「そ、そうですが……」
「初めまして、自分はルベンス・カルドゥン」
「!」

  私はハッとする。

  ──その名は、マクレガー殿下の側近の名前!
   
  (そんな彼が何故ここに?)

「アメリア・イラージュ様。殿下がお呼びです。生徒会室まで来てください」
「……え?  でも……」
「授業開始までまだ時間ありますよね」
「そ、それはそうですが……」
「なら、構わないですよね?」
「うっ……」

  ルベンス・カルドゥン様は有無を言わさず私を殿下の元へと連れて行った。


───

  (昨日の今日で殿下はなんの用事かしら?)

  それも、わざわざ生徒会室への呼び出し。

「あの、殿下は私に何の用なのでしょうか?」

  無言で私の隣を歩くルベンス様に訊ねてみる。

「自分は聞かされておりません。ただ、おそらくもう登校しているだろうからアメリア・イラージュ男爵令嬢を連れて来てくれと言われただけですので」
「そう、ですか」

  (もう登校しているだろうから?)

  とりあえず何の用事なのか分からないまま、私は殿下の元へと向かった。



「あぁ、来たか。おはよう」
「お、おはようございます」
「朝から呼び出したりしてすまない」

  ルベンス様に連れられ生徒会室へとやって来ると、殿下が今か今かと言う様子で待ち構えていた。

「いえ、大丈夫です。ですが、一体私になんのご用事でしょうか?」
「それなんだが。これを君に」

  ゴトッ

  (────え?)

  そう言って殿下が机の上に置いた物。それを見て私は一瞬言葉を失う。

「で、殿下?  これは……」
「君への差し入れだ」
「さ、差し入れ……?」

  躊躇う私に殿下はあっさりと答える。

「王宮の料理人に頼んで、簡単な軽食を詰めて貰ってそれを持って来た」
「……!」

  (軽食を?  それってつまりお弁当?)

  そのお弁当(?)が、何故ここに?  差し入れとは?
  私は理解が追いつかない。

「アメリア嬢。これは君のだ」
「わ、私の?」
「そうだ。君の為に持ってきた物だ」  
「わ、わざわざ?  私の、為にですか?」
「あぁ」

  殿下はなんて事ない顔をして頷く。
  私にはさっぱり意味が分からない。

「ですが、私にはそれを貰う理由がー……」

  そう言いかけた時、

  ───ぐーきゅるるるるるぅぅぅ……

「……」
「……」

  (私のお腹ぁぁぁ!?)

  なんてタイミングで鳴り出したのか!
  ブッと部屋の隅に控えていたルベンス様が小さく吹き出した声が聞こえた。

「良かった。どうやら持ってきたかいがありそうだ」
「!」

  殿下が私の目の前で優しく微笑む。

「……え、あの」
「お腹、空いているのではないのか?」
「い、いえ……私はー……」

  きゅるるるるぅぅー……

「……」
「……」

  (だから、私のお腹ぁぁぁ!?)

  私のお腹が再び何とも絶妙なタイミングで鳴った。

「っっっ!」

  私が真っ赤な顔になって言葉を失っていると、そんな私の様子を見た殿下が笑い出した。ルベンス様も今度は堪えきれなかったようで肩を振るわせている。

「ははははは!  アメリア嬢のお腹の虫は正直だな!」
「うっ!」
「遠慮しないでくれ。これは君のだから。アメリア嬢が食べてくれないと他に食べる人もいない。まさか、捨てろとは言わないだろう?」
「!」

  そう言われてしまったら無下には出来ない。
  私はそっとその弁当に手を伸ばす。
  蓋を開けると確かに中には簡単に食べられそうな物が入っていた。
  量は多くないけれどバランスも考えられていて、かつ、胃にも優しそうな……

  (え?  ま、まさか殿下は私の境遇を知っていてこれを……?)

  そろそろと顔を上げると殿下と目が合った。
  殿下は優しく微笑みながら言う。

「どうだ?  食べれそうか?  嫌いな物が無ければいいんだが……」
「あ、ありがとうございます……だ、大丈夫です」
「なら良かった。しかしほら、早く食べないと授業開始時間になってしまうぞ?」
「は、はい……!  い、いただきます」

  ───どうしよう。こんなの知らない。こんな話は書いていない。
  
    (胸の奥がじんわりする)

  油断すると溢れそうなる涙をこらえて、私はそのお弁当を食べる。

「!!」
「どうした?  口に合わなかったか?」
   
  私がピタッと手を止めたので、殿下が不安そうになった。

「いえ!  ぎゃ、逆です!  す、凄く凄く美味しいです!!」
「……!」
「ありがとうございます!  マクレガー殿下」

  私が笑顔でそう答えると、殿下も「それは良かった」と笑った。
  王宮のシェフの作った物だから美味しくないはずがないのだけれど、これはそういう事だけでは無い気がした。

「あぁ、たくさん食べろよ?」



  ───この日から、殿下は毎日こうして簡単に食べられそうな物を用意しては私に持って来てくれるようになる。

  こうして、何故か物語には一切無かったはずの二人のエピソード。

  私(犬?)へとせっせと食べ物を貢ぐ王子様(飼い主?)が爆誕した。

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