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第1章・辺境へ追放されたのはメインヒロイン。

27現状おまえは殺人未遂犯で毒殺令嬢だ。

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 そして翌朝。
 私は何事もなかったかのように朝食を作り、彼も何事もなかったかのように朝食をとって、私たちは何事もなかったかのように久しぶりの道場へと行こうとしたところで。

「メリィベルは残りな。ちょいと頼みたい仕事があるんだ、道場には終わって時間があったら行きゃあいい」

 私はアキ先生に呼び止められる。

「…………わかりました。じゃあネモ、後で」

 一瞬で悟り、私は彼を見送って促されるままにダイニングの椅子に座らされた。

 昨日の今日だ。心当たりはしかない……。

 気まずそうに座っているとアキ先生は口を開く。

「…………はあ……、まあ年頃の男女が一緒に暮らしてるんならそういうこともある。別に私は妊娠や病気に気をつけてるんなら基本的にいうことはないし、おまえはその辺抜かりないだろうし生娘きむすめ生息子きむすこなら病気の心配もないが…………強いて言うんなら次からは自分の部屋にしな。病室はベルや呼び声が聞こえるように壁が薄めなんだ、盛り上がるのは構わないがわりと音が漏れる」

 呆れるように、アキ先生は単刀直入に心当たりの話を語る。

 あれ、てっきりがっつり叱られるのかと思っていたけど思ったより強くは言われない……? っていうか音漏れてたの⁉ 声出してないつもりだったけど…………次からは私の部屋にしよう。

「だけどわかってんのかい? 気付いているんだろう、彼は第一王子だ。そんでおまえは追放令嬢……、側室どころかめかけにもなれない。ステルラ様がネモと名乗っている間しか本来話すことすら出来ないんだよ」

 アキ先生は少し声を低く、現実的な道理を語る。

「私もローゼンバーグの小僧もおまえが冤罪だって信じているし、優秀な医者だってこともわかっている。でもこの国における公式見解として、現状おまえは殺人未遂犯で毒殺令嬢だ」

 真摯しんしに私の目を真っ直ぐ見ながら、私の現状を述べる。
 ……やはりローゼンバーグ公爵も私を信じていたのか、だから追放先はここになったんだ。

「私はこれでもフォルトナー辺境伯家の人間だ。この国の公式見解に従う義務もあるし王家を守る義務もある」

 さらに、やや力強くアキ先生は自身の義務を口にする。

 フォルトナー辺境伯家。
 フルカラ王国の辺境の地を統治して自然保護や災害対策なんかを軍と協力して行っていて、災害救護の為に緊急医療などにも力を入れている。
 そんな家の令嬢としてアキ先生は育った。

 元々アキ先生はローゼンバーグ公爵の叔父……前ローゼンバーグ公爵の弟の婚約者だった。
 しかし、二人での辺境視察中に地すべりに巻き込まれて婚約者を失ってアキ先生は足を悪くした。

 アキ先生はそこから誰とも結婚せず独身を貫いた。曰く、傷物の令嬢を貰うような物好きが居なかったというが……婚約者へのみさおを立てた結果だ。

 その繋がりで前ローゼンバーグ公爵の子である、現ローゼンバーグ公爵に医療の基礎を叩き込んだという流れだ。

 文字通りの独身貴族、アキ先生はこの辺境の地で医者である人生を選んだ。

 設定資料集の簡単な説明以上に、行間にはかなり深くアキ先生の人生が刻まれているってことだ。

「……別に一時いっときの遊びならいいんだ。おまえとちちくりあってステルラ様の気晴らしになるんなら、それこそ私が関与するところじゃあない」

 椅子から立ち上がり、ダイニングの窓を開きながらアキ先生は言う。

。私も木の股から産まれたわけじゃないからな、流石に本気かどうかくらい見てればわかる」

 煙草に火をつけながら、乾いた笑みを見せて続く。
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