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03 前世より今世を
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医務室から自室に戻った私は、とりあえず思い出した前世の記憶を脳内で整理してみた。
その結果、私が思い出したのは、野極 光という名で日本人として暮らしていた時の記憶であることが分かった。
日本はこのヒストリッド帝国のように、公的な階級社会では無い。そのため、私はきちんとした教育を受けていたし、高度文明により今よりもずっと暮らしやすい環境に居た。
でも、正直あまり良い思い出は無い。
実は前世の私は、母親が外国人で父親が日本人だった。だが私は父の血を色濃く継いだようで、母の西洋系の要素が薄い顔立ちだった。
それにより、その中途半端な容姿を周囲にからかわれていた。
純粋な日本人だったら何も言われないであろう顔なのに、今思えば難儀なものだ。
しかも、私は他の理由でも周囲からいじめられていた。
母が一歳の頃に亡くなって以降、片親かつ男親となった家庭環境を馬鹿にされていたのだ。
もちろん、私の容姿や家庭環境のことを気にすることなく、仲良くしてくれる友人も数人いた。
ただ、学生の私にとってはどれだけ優しい良い人が居てくれたとしても、たった一つの悪口の方が強烈に頭に残った。
悪い言葉は気にせず、良い言葉だけ聞けば良い。
悪い人は無視して良い人とだけ付き合え。
そんなことを言う大人がいるが、学校という鳥籠の中ではそう言うわけにもいかない。口で言うほど簡単じゃないのだ。
それに、お母さんの分まで頑張ってくれている心配性の優しいお父さんに、こんなことを相談できるはずもなくて。
だから私にとっての日本での学生生活は、楽しさよりも苦痛の方が多かった。
「私、今の方がよっぽど生きやすいんじゃない?」
そう独り言ちながら、日本のモノと比べると圧倒的に質の悪い小さな鏡を手に取る。そして今、オーロラとしての人生を生きている自身の顔を写した。
日々のハードワークをこなすわりには、綺麗なバラ色をした肌。派手過ぎることのない、ぱっちりとしたアーモンドアイにカールの付いた長めのまつげ。大きすぎることも小さすぎることも無い、筋の通った鼻。今の顔立ちによく似合う亜麻色の髪。
どれもこれも、野極 光だったころの自分よりは気に入っているものばかりだ。
自分で言うのもなんだが、客観的に見てなかなか良いルックスだと思う。この見た目であれば、きっと容姿でいじめられることは無かっただろう。
そう思った瞬間、私はふと気付いた。
――そう言えば、私の記憶って学生時代で終わってない?
湧きあがる疑問を解消すべく、前世の最後の記憶を何とか必死に思い出す。そして、いわゆる最後の瞬間を思い出した私は、思わず自身の額に出来た傷のある箇所を手で押さえた。
「っ……! 同じ場所だわっ……」
私が思い出した前世の最後の記憶。それは、このあいだの木剣のように何かが飛んできて、学校から帰宅途中の私の額にぶつかったものだった。
しかも、ヒストリッド帝国で生まれた今の私の年齢は十八歳。覚えている前世の最後の記憶も、十八歳で止まっていることに気付いた。
「こんな偶然ってあるの……?」
前世と同じ年齢で、同じ場所に傷を負った。
前世の記憶はそこで遮断され、再びぶつけられたことにより前世の記憶を思い出した。
とても、偶然とは思えない。
それにより、私は一つの確信を得た。
前世で亡くなった私は、新たにヒストリッド帝国で生を受けた。つまり、転生したに違いないということだ。
すべての謎が解明されたような気持ちで、額から手を放して鏡を机に伏せる。そして、使用人用の簡易ベッドにボフリと腰をかけた。
「まあ、それが今更分かったところでね……」
前世でいわゆる転生ものの作品を見たことはある。だけど、それらの作品のように、貴族のご令嬢として生まれたわけでも、特殊能力を持って生まれたわけでもない。
私は本当にただただ仕事が好きなだけの、ヒロインたらしめる要素の無い、平凡な平民メイドなのだ。だから、これから人生を好き放題無双するなんてこともない。
だけど、それでもいい。だって、今の生活がすごく楽しいのだ。
確かに、前世と違い面倒なことも多い。何をするにも手間暇のかかりようが違う。機械やロボットも無いから、生活するうえで男女問わず重労働が必至だ。
前世では分からないことがあれば、検索すればすぐに答えが出てきた。それでも分からなければ、本で調べるという手段が容易に取れた。
だけど、今世では自分でその答えを見つけるしかない状況が多い。とっても不便なのだ。
しかしそれを差し置いても、私にとっては今の暮らしの方がずっと性に合っていた。とにかく優しい人々に囲まれているし、メイドという天職を見つけて働けているからだ。
私の目の色は他の人には無い色。けれど、亜麻色の髪だから周囲にも馴染めている。気持ち的に充実しているからか、光のころの私よりもずっと健康的な顔をしている。
それに、前世では父子家庭であることを揶揄されたが、ここでは拾い子にも関わらず前世のような扱いを受けたことは無い。
だから記憶を思い出しはしたものの、私は前世に恋い焦がれることはなかった。その代わり、むしろ今世をより楽しく生きて行こうと心に決めた。
それから三日後、ついに仕事の再開日がやって来た。私は働けると言っていたのだが、念のためにと三日間休ませられていたのだ。
「今日は部屋の清掃担当の日だったわよね。よし……頑張ろう!」
久しぶりの仕事を乗り切るため気合を入れる。そんな私は制服に身を包み、意気揚々と部屋の扉を開けた。
――前世の世界なら、私ってとんでもない変わり者ね。
不思議な気持ちでクスっと笑みを零す。そして、私は学校に行くのとは違う軽い足取りで仕事へと向かった。
その結果、私が思い出したのは、野極 光という名で日本人として暮らしていた時の記憶であることが分かった。
日本はこのヒストリッド帝国のように、公的な階級社会では無い。そのため、私はきちんとした教育を受けていたし、高度文明により今よりもずっと暮らしやすい環境に居た。
でも、正直あまり良い思い出は無い。
実は前世の私は、母親が外国人で父親が日本人だった。だが私は父の血を色濃く継いだようで、母の西洋系の要素が薄い顔立ちだった。
それにより、その中途半端な容姿を周囲にからかわれていた。
純粋な日本人だったら何も言われないであろう顔なのに、今思えば難儀なものだ。
しかも、私は他の理由でも周囲からいじめられていた。
母が一歳の頃に亡くなって以降、片親かつ男親となった家庭環境を馬鹿にされていたのだ。
もちろん、私の容姿や家庭環境のことを気にすることなく、仲良くしてくれる友人も数人いた。
ただ、学生の私にとってはどれだけ優しい良い人が居てくれたとしても、たった一つの悪口の方が強烈に頭に残った。
悪い言葉は気にせず、良い言葉だけ聞けば良い。
悪い人は無視して良い人とだけ付き合え。
そんなことを言う大人がいるが、学校という鳥籠の中ではそう言うわけにもいかない。口で言うほど簡単じゃないのだ。
それに、お母さんの分まで頑張ってくれている心配性の優しいお父さんに、こんなことを相談できるはずもなくて。
だから私にとっての日本での学生生活は、楽しさよりも苦痛の方が多かった。
「私、今の方がよっぽど生きやすいんじゃない?」
そう独り言ちながら、日本のモノと比べると圧倒的に質の悪い小さな鏡を手に取る。そして今、オーロラとしての人生を生きている自身の顔を写した。
日々のハードワークをこなすわりには、綺麗なバラ色をした肌。派手過ぎることのない、ぱっちりとしたアーモンドアイにカールの付いた長めのまつげ。大きすぎることも小さすぎることも無い、筋の通った鼻。今の顔立ちによく似合う亜麻色の髪。
どれもこれも、野極 光だったころの自分よりは気に入っているものばかりだ。
自分で言うのもなんだが、客観的に見てなかなか良いルックスだと思う。この見た目であれば、きっと容姿でいじめられることは無かっただろう。
そう思った瞬間、私はふと気付いた。
――そう言えば、私の記憶って学生時代で終わってない?
湧きあがる疑問を解消すべく、前世の最後の記憶を何とか必死に思い出す。そして、いわゆる最後の瞬間を思い出した私は、思わず自身の額に出来た傷のある箇所を手で押さえた。
「っ……! 同じ場所だわっ……」
私が思い出した前世の最後の記憶。それは、このあいだの木剣のように何かが飛んできて、学校から帰宅途中の私の額にぶつかったものだった。
しかも、ヒストリッド帝国で生まれた今の私の年齢は十八歳。覚えている前世の最後の記憶も、十八歳で止まっていることに気付いた。
「こんな偶然ってあるの……?」
前世と同じ年齢で、同じ場所に傷を負った。
前世の記憶はそこで遮断され、再びぶつけられたことにより前世の記憶を思い出した。
とても、偶然とは思えない。
それにより、私は一つの確信を得た。
前世で亡くなった私は、新たにヒストリッド帝国で生を受けた。つまり、転生したに違いないということだ。
すべての謎が解明されたような気持ちで、額から手を放して鏡を机に伏せる。そして、使用人用の簡易ベッドにボフリと腰をかけた。
「まあ、それが今更分かったところでね……」
前世でいわゆる転生ものの作品を見たことはある。だけど、それらの作品のように、貴族のご令嬢として生まれたわけでも、特殊能力を持って生まれたわけでもない。
私は本当にただただ仕事が好きなだけの、ヒロインたらしめる要素の無い、平凡な平民メイドなのだ。だから、これから人生を好き放題無双するなんてこともない。
だけど、それでもいい。だって、今の生活がすごく楽しいのだ。
確かに、前世と違い面倒なことも多い。何をするにも手間暇のかかりようが違う。機械やロボットも無いから、生活するうえで男女問わず重労働が必至だ。
前世では分からないことがあれば、検索すればすぐに答えが出てきた。それでも分からなければ、本で調べるという手段が容易に取れた。
だけど、今世では自分でその答えを見つけるしかない状況が多い。とっても不便なのだ。
しかしそれを差し置いても、私にとっては今の暮らしの方がずっと性に合っていた。とにかく優しい人々に囲まれているし、メイドという天職を見つけて働けているからだ。
私の目の色は他の人には無い色。けれど、亜麻色の髪だから周囲にも馴染めている。気持ち的に充実しているからか、光のころの私よりもずっと健康的な顔をしている。
それに、前世では父子家庭であることを揶揄されたが、ここでは拾い子にも関わらず前世のような扱いを受けたことは無い。
だから記憶を思い出しはしたものの、私は前世に恋い焦がれることはなかった。その代わり、むしろ今世をより楽しく生きて行こうと心に決めた。
それから三日後、ついに仕事の再開日がやって来た。私は働けると言っていたのだが、念のためにと三日間休ませられていたのだ。
「今日は部屋の清掃担当の日だったわよね。よし……頑張ろう!」
久しぶりの仕事を乗り切るため気合を入れる。そんな私は制服に身を包み、意気揚々と部屋の扉を開けた。
――前世の世界なら、私ってとんでもない変わり者ね。
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