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20 できること探し

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 ここに来てから約一カ月が経ち、その中で私は着実に仕事を覚えていった。その成果もあり、仕事のリズムにもある程度慣れた。

 アールやベリーとの距離も縮めることができたし、雇用主であるシドの性格も何となく分かってきた……と思う。

 そんな私はシドに言われた言葉を胸に、ここ最近できること探しを始めていた。

――お風呂の掃除はしたでしょう?
 キッチンの掃除もしたし……。

 建物の外に出ることは禁止されているため、私は家の中でできる仕事を探していた。しかし、なかなかすぐには思いつかない。

 そう思っていたのだが、ふとある部屋が目に留まった瞬間、閃いてしまった。

――これだわ!
 アールとベリーにも手伝ってもらおう!


 ◇◇◇


 集めた二人は、私のやる気に不思議がる反応をした。

「オーロラ、どうしたの?」
「オーロラさん、何か楽しいことでもあるんですか?」

 息を合わせてきょとんと首を傾げる。そんな二人に、私は今日の計画を告げた。

「今から三人で協力して、シドの部屋を大掃除しましょう!」

 そう、私がこんな提案をした理由。それは、シドの部屋を初めて見た時に受けた衝撃が原因だった。

 机の上には書類の山が積み上がり、その一部は溢れて床に雪崩落ちている。本はどこにでも積み上げられ、どこに何があるのか分からない。

 要するに、部屋中にモノが散乱して汚すぎる状態だったのだ。

 すると、ベリーもアールも同感だったんだろう。二人は私の提案に即座に乗ってくれた。

 そのため、私たちはさっそくシドの部屋掃除に取り掛かった。

――ペーパーレスとか、そんな概念無いでしょう!?
 って……そんな文明ないのか、多分。

 私は目の前を埋め尽くす書類の山を見て、絶句した。

 なぜこんなに書類があるのか。それに、この本はいったい何の本なのか。

 手に取ってパラパラとめくってみる。どうやら何かの専門書らしい。しかし、私には読めない言語で書かれていたため、内容はさっぱりだった。

「この本は、全部同じ種類の本かしら?」
「うん、そうだよ」
「これはシド様の研究本なんです!」
「研究本?」

 開いていた本を閉じ、改めて表紙をまじまじと見つめてみる。何の研究本なのかは分からないが、どこか神秘的な感じがする。

「神聖なものなのよね、きっと……」
「神聖だし、何よりシド様の大切なモノだよ」

 ベリーがそう言うと、隣で書類を抱えたアールがうんうんと頷いた。

「じゃあ、なおさらきちんとしてあげないとね。どこに何があるか分かりやすくまとめましょう」

 私の言葉に、二人は息を合わせて相槌を打った。そして、文字が読める二人の意見を参考にしながら、私たちは仕分け作業を進めた。

 散らかった書類や本はどこに何があるかすぐわかるようにまとめ、部屋全体の掃除とベッドメイキングを済ませたのだ。

 すると、見る見るうちにシドの部屋は、先ほどまでと同じ部屋とは思えないほどの美しさを取り戻した。

「こんなにピカピカなシド様の部屋、ぼく初めて見ました!」
「ボクもだよ。……喜んでくれるかな?」
「きっと喜んでくれるわ! あとはシドの帰りを待ちましょう」

 こうして、私は晩御飯やお風呂の用意を済ませ、シドの帰りを待った。

 それからしばらくし、ついに目的の人物であるシドが帰ってきた。

「ったく、本当にしつこいんだけど。あいつら、ヴァルド様の部下だからって偉そうに――」
「おかえりなさい、シド!」
「うわっ! なんだ、あんたか……」

 何やら怒った様子で独り言ちている様子だったが、早く部屋を見てもらいたくて迎えの言葉をかけた。

 シドはそんな私の声がけに、ビクッと肩を跳ねさせる。どうやら思った以上に、驚かせてしまったみたいだ。

 だが、シドは直ぐに冷静さを取り戻した。そして、不審げに眉を顰めた。

「びっくりさせんなよって……何、その顔?」

 そう言うと、シドは私の顔を見た後、隣にいたベリーとアールにも視線を向けて、なおさら怪訝そうに顔を歪めた。

「三人で何か企んでるの?」
「ふふっ、こっちに来てください!」
「シド様! 行きましょう!」

 私が先頭を歩くと、双子がそれぞれシド様の左右の手を掴んで引っ張り、後ろについて来た。

「三人揃って何なんだ?」

 シドは混乱したような声を出す。しかし、諦めたように「はぁ」と息を吐くと、そのまま素直について来た。

 そして、ついに目的の部屋に辿り着くと、シドはますます訳が分からないと言った様子で、不安そうな声を出した。

「何? 俺の部屋?」

 不審がったようなシドの視線が、私の顔を貫く。

 だが、彼は私の顔を見ても埒が明かないと思ったのだろう。見た方が早いとばかりに、ドアノブに手をかけた。

 そして、扉を開いた直後に彼はフリーズした。

「シド! どうで――」
「何だこれっ!!!!!!!!」

 少し間を置き、狭い空間にシドの大きな声が響き渡った。

 あまりの驚きに、今度は私の肩がビクンと跳ねる。隣にいた双子も驚いたのか「わっ!」と声を漏らした。

――気を取り直して説明を……。

「シド、どうですか? 三人で協力して綺麗にしたんですよ?」

 そう声をかけるも、シドは未だフリーズしたままだった。だから、私も意気揚々と話を続けた。

「私、お掃除は得意で、お城でもお掃除当番でよく褒められて――」
「おい……」

 黙りこくっていたシドが、僅かに漏らした声を聴き取り話を止める。

 すると、部屋の中に目を向けていたシドのギロリと睨む瞳と視線が交差した。

「おい……なに勝手なことしてくれてんだよっ……!?」

 振り返った彼の瞳の奥、そこには誰が見ても分かるほどの怒りが宿っていた。
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