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第21話
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「わ、わたしは・・・う、嘘をついていました」
震えたトリードの声は、学友に囲まれているときとは違い、小さく掠れている。
「わ、私の弟のビュワードは、家で暴力を振るったり、私の勉強を妨害したり、悪辣なことをすると。成績がいいのはカンニングをしているからだと」
教師たちも勿論よく知っている。試験では厳重に監視をしたが、毎回裏をかかれたような成績を取るため、採点不可としているのだ。
一層声が小さくなる。
「そ、それ、それはう、うそで」
「「「・・えっ?ええっ⁉えーっ!」」」
愕然とした顔をする者、瞬時に怒りを浮かべる者、怒鳴りそうになった者と様々だが、アクシミリオの視線に平静を保って口を閉じた。
「も、申し訳ありません、家で暴力を振るったり、勉強を妨害したのは、わ、私です。弟が入学する前に悪い噂を流せと、母が私に。これは本当です、本当なんです、私は悪くないんです!」
「トリードっ!黙れ」
スミール伯爵がバシッと強くトリードの頬を叩いた。
教師たちは聞いた話に驚きすぎて、ぼんやりと立ち尽くしている。
「今愚息が話したことはすべて事実です。お恥ずかしながら私は、私も愚妻と愚息の嘘を真に受け、自分の目で耳で確認することもなく、当の妻と長男から虐待されていた次男を放置しておりました・・・。留守がちだったからと言うのは言い訳にもならないと猛省しております」
─虐待─
その言葉に教師たちはゾッとする。
嘘を真に受け、放置したのは自分たちも同じだ。どれほど叱られても反省もしない悪いこどもだから、誰にも相手されなくても仕方ないとしか考えていなかった。
言われてみれば確かに、ビュワード・スミールはいつも不自然なほどに汚れていた。貴族としては有り得ない姿だったのに、何故、あの少年に深い事情があるのではないかと、誰も疑わなかったのだろう?
暴力を振るったり暴言を吐いたりしているのを、誰かが実際に目にしただろうか?
いや、それどころか痩せこけた少年は、いつも人目を避けるように隅に隠れていたではないか。
「そ、それではビュワード・スミールはカンニングもしていなかったというのかね?」
「は、は・・・ぃ」
「なっ!なんていうことを私たちは・・・」
教師たちは学長と騒ぎ出した。
入学から数年に渡り、明らかに家族に虐待されている様子が見て取れたこどもを放置しただけでなく、加害者の言葉を信じて不正の調査をすることもない、あろうことかその成績まで取り上げていたのだから。
「これは・・由々しき事態だ」
学長が呟いた言葉に、教師たちもその身に迫るだろう誹りを想像してぶるりと震えた。
震えたトリードの声は、学友に囲まれているときとは違い、小さく掠れている。
「わ、私の弟のビュワードは、家で暴力を振るったり、私の勉強を妨害したり、悪辣なことをすると。成績がいいのはカンニングをしているからだと」
教師たちも勿論よく知っている。試験では厳重に監視をしたが、毎回裏をかかれたような成績を取るため、採点不可としているのだ。
一層声が小さくなる。
「そ、それ、それはう、うそで」
「「「・・えっ?ええっ⁉えーっ!」」」
愕然とした顔をする者、瞬時に怒りを浮かべる者、怒鳴りそうになった者と様々だが、アクシミリオの視線に平静を保って口を閉じた。
「も、申し訳ありません、家で暴力を振るったり、勉強を妨害したのは、わ、私です。弟が入学する前に悪い噂を流せと、母が私に。これは本当です、本当なんです、私は悪くないんです!」
「トリードっ!黙れ」
スミール伯爵がバシッと強くトリードの頬を叩いた。
教師たちは聞いた話に驚きすぎて、ぼんやりと立ち尽くしている。
「今愚息が話したことはすべて事実です。お恥ずかしながら私は、私も愚妻と愚息の嘘を真に受け、自分の目で耳で確認することもなく、当の妻と長男から虐待されていた次男を放置しておりました・・・。留守がちだったからと言うのは言い訳にもならないと猛省しております」
─虐待─
その言葉に教師たちはゾッとする。
嘘を真に受け、放置したのは自分たちも同じだ。どれほど叱られても反省もしない悪いこどもだから、誰にも相手されなくても仕方ないとしか考えていなかった。
言われてみれば確かに、ビュワード・スミールはいつも不自然なほどに汚れていた。貴族としては有り得ない姿だったのに、何故、あの少年に深い事情があるのではないかと、誰も疑わなかったのだろう?
暴力を振るったり暴言を吐いたりしているのを、誰かが実際に目にしただろうか?
いや、それどころか痩せこけた少年は、いつも人目を避けるように隅に隠れていたではないか。
「そ、それではビュワード・スミールはカンニングもしていなかったというのかね?」
「は、は・・・ぃ」
「なっ!なんていうことを私たちは・・・」
教師たちは学長と騒ぎ出した。
入学から数年に渡り、明らかに家族に虐待されている様子が見て取れたこどもを放置しただけでなく、加害者の言葉を信じて不正の調査をすることもない、あろうことかその成績まで取り上げていたのだから。
「これは・・由々しき事態だ」
学長が呟いた言葉に、教師たちもその身に迫るだろう誹りを想像してぶるりと震えた。
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