和歌浦グラフィティ
レーズンの家の近くには二軒の本屋がある。雑誌を読むにはもっぱら大浦街道に面した大きい方を利用することにしている。倉庫のような白い建物にそれを照らすライティング設置用の黄色い鉄骨、看板には赤く大きな文字でBooKとある。その中にあったアイスクリームを主に売るテナントはオープンして三年程で消えた。レーズン達はよくそこで水風船を買いアイスクリームを頬張った。そこで覚えたラム・レーズンの味は最高。僕のニックネームはレーズンに決まった。 これから何度と淡い春が来て、その度にまた厳しい冬を乗り越えようとも、もう、あの頃と同じ情熱を感じることはないのかもしれない。僕は決して誠実な人間ではないけれど、あの時代に感じていたすべてを忘れることはないだろう。目一杯満喫したから二度と振り返らないなんて言わないし、サヨナラの手を振るつもりもない。あの頃からいろいろと吸うものは変わったけど、カクテルグラスに刺さった安いストローや、濃度の高い煙に巻かれながら、僕らは、この胸、深いところと共謀し、センチメンタルという一生懸命に甘くて、精一杯に酸っぱく苦しいドロップを互いの口に放り込む計画を立てている。かつて、僕のことをレーズンと呼んだあの悪ガキ達の残像が摺り寄って来ては、僕の横腹を突つきニヤっとささやくと、今、僕の横に掛けているのはあの頃とちっとも変わらないチャーミングな女の子。
それは、たった一度の魔法で、僕らはそれを初恋と呼んだ。
それは、たった一度の魔法で、僕らはそれを初恋と呼んだ。
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