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「どうしてですか? もし会いたいと思っていたくださっていたなら私……すごく嬉しいのに」
「……俺を困らせないで。とにかく、聞かなかったことにしてほしい。ごほっ、ごほ……」
「…………」

 ロアンはルサレテへの好意をあと一歩のところで隠そうとする。甘い表情を見せて、優しくして、思わせぶりなことはするくせに、肝心なことは何も言ってくれない。

 苦しそうに咳き込むロアンは、きまり悪そうにごめんねと謝罪を口にした。
 すると、ルサレテの目の前に3つの選択肢が現れた。

『①きっと元気になると励ます ②静かに抱き締める ③話題を変える』

 それらの選択肢を見たが、ルサレテはどれも選ばなかった。彼の手を上から握る。

「私……ロアン様のことが――好きです」
「…………」

 彼は少し目を見開いたあと、戸惑い、悲しげに目を伏せた。この攻略で、好感度メーターが満たされる前に告白するのは反則かもしれない。けれどたぶん、ゲームではない現実にいるロアンは……ルサレテを好きになるのを理性で留めている。

「駄目だよ、ルサレテ。俺なんか好きになっちゃ」
「それは、ロアン様が病気だからですか?」
「そうだよ。俺は君の元を早く去っていく人間だから。……君に悲しい思いをさせたくはない。分かるでしょ?」

 今のままでは、ロアンの寿命は普通よりずっと短い。彼にもその自覚がある。想いを通わせたところで、必ず遠くないうちに残酷な別れがやって来て、ルサレテは傷つき、悲しむことになる。
 あと一歩のところで、彼がルサレテへの好意を抑え込んでいたのは――そのことに負い目を感じているからだろう。

 ルサレテも前世で病に伏せってばかりだったころ、周りに迷惑をかけることに負い目を感じていたし、恋人を作ることもしなかった。誰かを傷つけないためにひとりぼっちでいることを選んだルサレテには、彼の気持ちが手に取るように分かる。

(病気を患っている人に必要なのは、口先だけの励ましや慰めじゃない。離れずにそばにいてくれる……大切な人)

 ルサレテはにこりと笑顔を浮かべて言った。

「もしいつか……ロアン様を失って傷つくことになったとしても、私はその傷ごと愛せる自信があります。だってそれは、ロアン様の傍にいて幸せだった証だから」

 先のことはロアンだけではなく、誰にも分からない。たった今空から隕石が降って来るかもしれないし、明日事故に遭うかもしれない。だから本当に大切なのは、先のことを心配するのではなく、今このときを大切に味わい、めいいっぱい楽しむことだと伝える。

「好きです。ロアン様のことが、好きです。病気があるからなんだっていうんですか。一緒にいたいと思う気持ち以外に、大事なことはありませ――わっ!?」

 次の瞬間、ロアンの腕の中にいた。
 彼の体温と胸の鼓動が伝わってきて、脈動が加速する。ロアンは優しくルサレテのことを包み込みながら、耳元で囁いた。

「せっかく手放してあげようと思ったのに。後悔しても知らないよ」
「後悔なんてしません」
「……俺も君が好きだよ。先が長くなくても、最後まで、離れずにそばにいてほしい」
「はい……っ。喜んで」

 そう答えたとき、ルサレテは本気で覚悟をしていた。好感度メーターが100にならなくて、病気を治すことができなかったとしても一緒にいようと。彼との別れを想像して目頭が熱くなる。
 彼の背中に手を回し、力を込めたそのときだった。ロアンの好感度メーターが100を示した。
 空中ディスプレイの中からシャロがあらわれて、「クリアおめでとう」とクラッカーを鳴らす。しかし、ロアンにはシャロの姿は見えていない。

「いやあ、最後まで楽しく観察させてもらったヨ。以上でボクたち妖精族の検証はおしまイ。約束通り、彼の病気を治してあげヨウ!」

 こくんと頷くと、シャロは光の粒を放出しながらくるくるとロアンの周りを旋回した。

「これで大丈夫! 少しずつ体力も戻って元気になるヨ! ――ボクからのサービスで、ふたりが健やかに幸せに過ごせるように妖精の加護もあげちゃウ!」

 ぱちんとシャロが指を鳴らせば、部屋中が光に満たされ、ルサレテの頭上にも暖かな光の粒が降り注いだ。不思議な力のある妖精の加護だ。きっと幸せに導いてくれるような気がする。
 一方、体の変化に気づいたロアンは、腕を動かしたり手のひらをかざしたりして不思議そうに言う。

「不思議だ。なんだか急に体が楽になった。……君と両想いになれて、力が湧いたのかな?」
「ふふ。そうかもしれませんね」

 ……なんて答えて微笑んだあと、もう一度ふたりで抱き合う。
 そのすぐそばを浮遊しながら、シャロが目配せしていた。
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