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外資系の大きな会社で働く俺、赤峰智紀(32)は、昇進の辞令を鞄に入れて帰宅した。 金曜の夜。差し出した花を見ずに、妻の佳澄は窓のほうを向いた。隣で、親友の結華が鼻で笑う。 「失業したのよね。エルヴァント・ジャパンで、部がひとつ丸ごとなくなったって」 言いかけた言葉は遮られ、出てきたのは妻の欄が埋まった離婚届と、離婚協議書。 預金は折半。車は買値で、28階の家はローンの利息まで足した総額で、半分ずつ。そこへ5年分の生活費。合計8260万。 「あなたは今、何も持っていない。これ以上、私の若さを無駄にさせないで」 言えば、この紙は引っ込む。だから俺は黙って、紙の数字を最後まで聞くことにした。 辞令が全社に流れるのは月曜の9時。けれど同じ夜のうちに、親友のスマホが鳴る。 「……昇進したんだって? 年収3000万」 すがりつく妻。その妻が、今度は親友の髪を掴む。最後に妻が差し出したスマホには、6年分のトークが残っていた。 全八話。
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年の瀬、家族LINEに従兄の崇史が写真を貼った。 『紹介します。彼女の乙部瑠衣です』 相手は国民的女優。祖父母も伯母も、次々に祝いの言葉を並べる。 同じころ、鷺沢征吾はホテルの部屋でその写真を見ていた。横から画面を覗いているのは、写真と同じ顔だ。 「今年の正月は、ご両親に会わせてくれないの?」 実家の征吾は、安い車に乗る「底辺のサラリーマン」扱い。祖父には崇史と比べられ、大学院まで行かせた父まで責められる。父は、頷くだけ。 家族LINEで『生活写真は、ないの?』と聞いただけで、グループから退会させられた。 征吾は父のスマホを借りて頼む。正月2日の新年会に、彼女さんを連れてきてくれ、と。 『連れてくるよ。恥をかくのは誰かな』 新年会の座敷で、崇史が配った名刺には、どこかで見た社名が刷られていた。 卓の下で、瑠衣から『あと10分で着く』。 征吾は『来るな』と返す。既読は、つかない。 全八話。
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深夜2時、出張先のホテルに通知が届いた。 『異常荷重を検知:130kg』 商品企画の社員モニターとして、自宅の2階に付けた温水洗浄便座。座った人の体重まで記録するその機能を、夫は知らない。 私は60kg、夫は85kg。この家に、130kgの人間はいない。 設置から3か月のログには、130kg台の記録が37回。どれも、私が留守にしていた日だった。 130から85を引くと、45。 「実家にいる」と言う夫の電話の向こうで、子どもが「ママ」と呼んだ。 私は、夫を問い詰めなかった。 数日後、駅前のホテルで義母の還暦祝いが開かれる。親戚は50人。祝儀袋を「たった2万?」とテーブルに叩きつけた義母は、亡くなった父が建てた私名義の家の贈与契約書を差し出した。立会人の欄には、夫の署名。 「この家を、私の名義にしなさい。それが還暦祝い」 宴の途中、スマホにまた通知。 『異常荷重を検知:131kg(継続中)』 「判を押すなら、家で押します。皆さんにも、お義母さんが住むおつもりの家を見ていただきましょう」 還暦祝いは、親戚50人そろっての我が家の内見になる。 全六話。
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