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第四章 ラブコメって言ったら学園じゃね…

第442話 木村君のお仕事 (5)

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「ほうほう、それでその後どうなったん。」

いや~木村君の話し超凄いんですけど、何その現場、大スペクタクルなんですけど。
そりゃ疲れるよね、バイオなハザードだよね。アミューズメントパーク内の全ての観客から襲われるってどんな状況よ、意味解んない。ゾンビもののパニック映画じゃないんだから、しかもこっちから手出し禁止って縛りきつすぎ。ゲームだったら糞ゲー認定間違いなしでしょう。

「あぁ、そこから先は俺も覚悟を決めて一切逃げるのをやめた。大崎先生がいつも言ってただろう?自分が何のためにそのランウェイを歩くのかよく意識しろって。
各ショーごとのデザイナーの意図をちゃんと意識して、服を見せるだけじゃなくそのメッセージを伝えて初めてモデル足り得るって。
今回のショーのコンセプトは”王子の凱旋”。激戦激闘を勝利した究極の王子が自らの城に戻って行くんだ、逃げたり隠れたりするのは変だろう?
民衆は熱狂するだろう、王子に近付きたいと群がるだろう。だが彼の行く手を阻むことは許されない、俺が許さない。それが騎士であり俺の使命。
騎士たるものその覚悟が無ければ務まらない。歩みの一つ一つ、指先の動き一つに渡るまでしっかりと意識し、デザイナーの意図を表現し切って見せたさ。」

おぉ、木村君、その領域は世界のランウェイのソレだから。実際に経験しないでその領域に達するって木村君どれだけ凄いのよ。

「いやいやいや、俺なんかは今までの経験やお前って見本があったから出来た事だ。とんでもないのは高宮の方だ。アイツ完全に王子様に成り切っていたぞ。いや違うな。あいつのあれは王子様に成り切るんじゃない、そのものに成ったんだ。
これからのあいつはヤバいぞ、世界に通用する王子が生まれたんじゃないか?」

げっ、マジかよ。益々ひろし君旋風が吹き荒れるじゃん。これからひろし君全国ツアーとか控えてるのよ、観客の整理とかどうするのよ、彼の警備うちの仕事なのよ。

「あぁ、その点は大丈夫じゃないか?あいつ本気で半端なかったからな。」


(side:木村英雄)

中央都ディスティニーランドのシンボル、プリンセス城。今やその周辺はアリの這い出る隙もないほどの混雑を迎えていた。
彼女たちの目的はただ一つ、”hiroshi”君である。
”hiroshi”君がこのアミューズメントパークの取材に来ているという情報は、SNSを通じて全国に一斉に広がって行った。その後の”hiroshi”ファンの行動は早かった。時間を追うごとに増える観客、中にはリニア新幹線を利用して逢坂から来たという猛者も。すべてはただ一目でもいい、”hiroshi”君に会う為に。
だが彼女たちの思いはそんな程度では収まらなかった。
一目会いたい、触れ合いたい、彼の全てをものにしたい。
膨らむ欲望は狂気へと。中央都ディスティニーランドパーク内における”hiroshi”君捕獲合戦は、もはや誰にも止められない熱狂へおちいってしまった。

”ダンッ”

「道を開けよ、王子の凱旋である!!」

鋭い一言が会場に響く。あれだけざわついていた観客が、熱に浮かされていた人々が。
熱いナニカが走る。道が、群衆が割れ、そこに一本の道が現れる。

”カツンッ、カツンッ”
鋭い足音が響く。一人の騎士が歩く。その歩みは力強く、主人をすべての厄災から守り切る決意と意思が感じ取れる。

”パタンッ、パタンッ”

彼はその亜麻色の髪を風になびかせながら現れた。広がる甘い香り、それは全ての女性を幸せにする天使の祝福。

「みんな、俺の為に集まってくれてありがとう。でもみんなが立っていては後ろの者は見えないんじゃないかな?さあ、座っておくれ。」

王子様の甘いささやきが響く。群衆野獣の群れは乙女へと変わる。
前列の者から一人、また一人と次々に座って行く。
やがて会場は大人しく座り込んだ乙女たちによって埋め尽くされた。

「殿下、参りましょう。」

騎士様の低くそれでいて優しい声音。

「あぁ、待たせたね。では行こうか、我が城へ。」

王子が歩く。その一歩一歩に彼女たちはため息を吐く。ここに来てよかった。
幸せの思いが波のように広がって行く。

「ご心配をお掛けしました、遠野ディレクター、吉野さん。木村高宮班、只今戻りました。」

「あ、うん。無事に戻って来てくれてよかったよ。でもこの後一体どうしたらよいのか。」

「その事ならご心配はいりませんよ、我々には世界的スターの松村紫音先輩が付いてるじゃないですか。ねぇ、松村先輩。」

「な、お、おう。こ、こんなのいつものステージに比べたらどうと言う事はないな。」
引き攣る顔の松村紫音馬鹿二号。まあ無理しているのはまるわかりだが。

「本来なら松村先輩に一言頂くだけで場は収まると思うんですが、ここで先輩にその様な図々しいお願いをするのは筋違いかと。こんな失態を犯したのは我々ですし。
ですのでここは我々が歌を歌う事でファンのみんなに納得してもらってはと思うのですがいかがでしょうか?出来れば先輩にもご協力いただけると心強いのですが。」

「ま、まぁ、協力するくらいなら構わんが。どのみちこれだけの騒ぎを放置も出来んだろうしな。」

「流石先輩、器が違います。ありがとうございます。そこで歌はジャイアントの歌とお願いしたい所ですが流石にそこまで厚顔無恥にもなれませんし、ジャイアントの名曲を我々如きが歌いテレビの電波に乗せるなど恐れ多い事です。ですのでここは責任を取ると言う事で、この”hiroshi”の歌”Summer Beach"ではいかがでしょうか?それでしたら先輩もカラオケ感覚で参加できるのではないかと思うのですが。」

「そうだな、俺らの歌なんて糞生意気な事を言うようならぶん殴っている所だが、そう言う形なら協力してやらん事も無い。」

「そうですか、ありがとうございます。遠野ディレクター、吉野さん、そう言う事ですので準備の方をお願いします。」

ふぅ、何とかなったか。
そうそう、吉野さん、帰りに高宮の奴にニッキーのぬいぐるみを準備して貰っていいですか?代金は俺が払うんで。すみませんがよろしくお願いします。

「木村、お疲れさん。大変だったな。」

あ、石川先輩も御疲れ様です。石川先輩いつもこんな感じなんですか?先輩の苦労が少しわかった気がします。

「ハハハ、その言葉マジで嬉しい。”hiroshi”の相手はシャレにならんからな。でもお前の手口、佐々木そっくりだったぞ。」

先輩、それ全然嬉しくないです。でも誉め言葉と受け取って起きます。
さあ、ステージが待ってます。

ステージではニッキーをはじめとしたディスティニーランドのキャラクターたちが会場を盛り上げている。

松村先輩、石川先輩、皇先輩、高宮、行きましょう。

”歌っていただきましょう。曲は「Summer Beach」”
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