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第4話

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「一体どうして、婚約を破棄されたんだ?」
「騎士団長になる男が妻よりも弱いとなったらマズイから、だそうです」
「なんてくだらない理由だ、それは」

 話を聞いて顔をしかめる師匠。彼も、私と同じような感想を抱いてくれた。それが嬉しかった。

「君の婚約相手というのは、クリストフ君だったか。確かに学生の中ならば優秀だと思うが……。少し不安だなぁ」
「私も、そう感じます」

 才能はあるけれど、向上心があまり無い。騎士団長として務まるのか不安である。騎士団長は本当の実力ではなくて、コネや仕来りによって選ばれることも多かった。クリストフ様も、その基準で選ばれた。

 騎士団が戦争や内乱に駆り出されるということは、ほぼ無い。彼らの主な仕事は、他国と交流したりする際に剣術の訓練を披露することぐらい。剣術の知識が無い者が見れば、立派に見えるかもしれない。だが、実力がある者が見ればどうなるだろう。だからこそ、剣術の腕は常に磨いておいたほうが良いと思う。



「そうか……。すまなかったな、セレス」
「なぜ、謝るのですか?」

 師匠から急に、申し訳無さそうな顔で謝られた。謝る理由が分からず、私は聞く。なぜ謝るのかと。

「君の才能に惚れて、剣の道に引きずり込んでしまったのは俺だからな。くだらない理由だと思うが、婚約破棄された原因になってしまったようだし。だから、スマン」
「いいえ、師匠。私はとても感謝しています。剣と出会わなかった人生なんて、何の価値も無いと思えるぐらいに」
「そう言ってもらえると、助かるよ。ありがとう」
「嘘じゃないです。本当ですよ」

 まさか、そんなことで謝られていたとは思わなかった。私は全く後悔していない。剣を極める道を、毎日楽しく過ごしている。これが私の生きる道だと信じて。師匠と一緒に訓練して、成長する日々が嬉しかった。

「婚約相手が居なくなったとなると、色々と大変そうだな」
「そうですね。家のために、別の婚約相手を探して……」

 私の代わりに妹がクリストフ様と結婚するらしくて、家同士の話し合いも終わっているらしい。それなら後は、私の両親が別の婚約相手を見つけてくれるか、それとも私自身で相手を探す必要があるのかもしれない。

 そう考えた時、フッとひらめいた。

「そうだ。師匠、私と結婚して下さい」
「は?」
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