『幸せを見下していた私へ』 夫の死後、遺族年金10万円で知った本当の孤独

『幸せを見下していた私へ』

――夫の死後、遺族年金10万円で知った本当の孤独――

 私は、満ちていると思っていた。
 人より少しだけ、上にいると信じていた。
 静かな優越は、声に出さなくても滲むもので、
 それを「努力の結果」と呼んでいた。

「うちは大丈夫」
 そう言うたび、何かを守っている気がした。
 誰かより、少しだけ安全な場所に立っていると。

 けれどそれは、私の場所ではなかった。
 借りていただけの、椅子だった。

 ある朝、
 その椅子は、何の音もなく消えた。
 呼んでも、揺らしても、戻らない。
 残ったのは、冷えた空気と、
 私が知らなかった現実だけ。

 十万円。

 たったそれだけの数字が、
 私の人生の輪郭をはっきりと描いた。
 それまで見えなかったものが、
 一斉にこちらを見てくる。

 管理費。
 税金。
 医療費。
 当たり前に使っていたお金たちが、
 急に、私を測る物差しになった。

 私は初めて知る。
 何も知らずに、安心していたことを。
 知らないことを、誇っていたことを。

 人の話を、聞いていなかったことを。

「大変ね」
 そう言ったときの私の声は、
 本当に相手に届いていただろうか。

 届いていなかったのだろう。
 だから今、誰の言葉も、深くは届かない。

 優しい言葉はある。
 けれど、そこには距離がある。
 あの頃、私が無意識に置いていた距離と、
 同じ幅の沈黙がある。

 孤独は、突然やってくるものではなかった。
 少しずつ、静かに、積み重ねていたものだった。

 見下したつもりはなかった。
 ただ、見ていなかっただけ。

 その違いを、今になって知る。

 椅子は、まだそこにある。
 けれど座っても、私の体には合わない。
 広すぎて、深すぎて、
 誰かの重さが残っている。

 私はそこに、収まらない。

 ならば、立つしかないのだろう。
 小さくても、自分の足で。
 不安定でも、自分の場所で。

 誰かの上にではなく、
 誰かの隣に。

 同じ高さで、同じ空気を吸いながら。

 それはきっと、
 以前よりずっと寒くて、
 少しだけ、あたたかい。

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