「冷徹な辺境伯は怖いと聞いていましたが、嫁いだら不器用に溺愛されました」

冷徹な辺境伯は怖いと聞いていましたが、
嫁いだら不器用に溺愛されました


雪の降る土地へと
私は捨てられるように来た

誰も見送らず
誰も振り返らず
ただ「役に立て」と言われただけの旅

待っていたのは
噂通りの人でした

言葉は少なく
視線は鋭く
その沈黙は、冬より冷たくて

「……好きにしろ」

それだけで
すべてを拒まれた気がしたのに

あの夜
寒さに震える私に
無言で掛けられた毛皮だけが
やけに優しかった

それから少しずつ
この土地に色がついていく

雪の下で甘くなる野菜
帰ってくる魚
人の笑い声

そして

「余っていた」

そう言って渡される甘い菓子

「拾った」

そう言って差し出される宝石

不器用すぎて
嘘が下手で
優しさが隠しきれていない人

怖いはずなのに
気づけば

一番、安心できる場所になっていた

血に染まったその手で
誰よりも強く守ってくれて

「……怪我はないか」

その一言に
胸の奥がほどけた日

私はもう
戻れなくなっていた

奪われそうになったとき
差し出されたその手が

「この女は俺の妻だ」

と、世界に告げたとき

やっと分かった

ああ
この人は

こんなにも
まっすぐに
私を選んでくれていたのだと

だから私は答える

雪が溶けて
春の匂いがしたあの日

「……一生、俺のそばにいてくれ」

その言葉に

「はい、喜んで」

怖い人だと聞いていましたが

本当はただ
誰よりも不器用で

誰よりも優しい人でした

そして私は今日も
その人に

静かに、深く、溺れていくのです


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