『「お姉様は我慢が仕事でしょう?」と婚約者を妹に譲らされましたが、私が辞めたら領地の帳簿が火の車だと今更気づいても遅いです』

我慢という名の仕事

「お姉様なんだから」

 その言葉はいつも柔らかく
 けれど刃のように正確に
 私の分を削っていった

ドレスも
宝石も
時間も
心も

そして、最後には
人まで

 

「我慢が仕事でしょう?」

 ええ、そうね
 それが“仕事”なら

 私は随分と優秀だったのでしょう

 

あなたたちの贅沢は
私の沈黙で出来ていた

あなたたちの笑顔は
私の計算で支えられていた

あなたたちの“当然”は
私の犠牲で成り立っていた

 

それでもあなたたちは言うのね

「誰でもできる簡単なことだ」と

 

だから、やめたのです

 

ペンを置いて
帳簿を閉じて
私をやめた

 

その瞬間から

数字は嘘をつかなくなり
赤は赤のまま広がり
空白は埋まらなくなった

 

「どうして?」と
「なぜだ?」と
「元に戻せ」と

 

遅いのです

 

私がいたから回っていたものは
私がいなくなれば止まる

それだけの、単純なこと

 

あなたたちは
“我慢”を仕事だと思っていた

 

私は今
“選ぶ”ことを仕事にしている

 

譲らないこと
手放さないこと
切り捨てること

 

火の車の向こう側で

私は初めて
自分のために
生きている

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