『優しさの牢獄 〜私が「最高の夫」を捨てた本当の理由〜』

優しさの牢獄

~私が「最高の夫」を捨てた本当の理由~

---

あなたはいつも
正しかった

声を荒げることもなく
誰も傷つけない言葉だけを選び
私の前に差し出した

その手はあまりに穏やかで
私は何度も
「幸せな人ですね」と言われた

---

あなたは私を守った
転ばないように
迷わないように
傷つかないように

だから私は
転ぶことも
迷うことも
傷つくことも

できなくなった

---

「大丈夫、僕が全部やるから」

その一言が
こんなにも重い檻になるなんて
誰が想像しただろう

優しさは
鍵のかからない牢屋だった

逃げようとすれば
自分が間違っている気がしてしまうから

---

あなたは私を否定しなかった
けれど一度も
選ばせてはくれなかった

「君のために」という言葉で
私の“したい”は
静かに消されていった

気づけば私は
あなたの中で生きる
都合のいい私になっていた

---

誰も気づかない
あなたはいい人だから

誰も信じない
私は恵まれているはずだから

だから私は
声を持たないまま
少しずつ
いなくなっていった

---

ある日
鏡の中の私が
知らない人に見えた

名前を呼ばれても
それが自分だと
思えなかった

---

ねえ
あなたは悪くない

本当に
悪くないの

ただ少し
優しすぎただけ

ただ少し
私を見なかっただけ

---

「僕が何をしたの?」

その問いに
答えられなかったのは

あなたが何もしていないからじゃない
あまりにも
静かに奪われていたから

---

私は出ていく

あなたの優しさから
あなたの正しさから
あなたの世界から

はじめて
誰のためでもなく
自分のために

---

小さな部屋で
カーテンを選びながら

私は思う

風はこんなに
軽かっただろうかと

---

名前を呼ばれるたび
胸の奥で
何かがほどけていく

---

私は
やっと

私になった

24h.ポイント 16,203pt
3
小説 78 位 / 220,438件 現代文学 4 位 / 9,279件

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あのひとのいちばん大切なひと

キムラましゅろう
恋愛
あのひとはわたしの大切なひと。 でも、あのひとにはわたしではない大切なひとがいる。 それでもいい。 あのひとの側にいられるなら。 あのひとの役にたてるなら。 でもそれも、もうすぐおしまい。 恋人を失ったアベルのために奮闘したリタ。 その恋人がアベルの元へ戻ると知り、リタは離れる決意をする。 一話完結の読み切りです。 読み切りゆえにいつも以上にご都合主義です。 誤字脱字ごめんなさい!最初に謝っておきます。 小説家になろうさんにも時差投稿します。 ※表紙はあさぎかな先生(@yatusiro1)にコラージュアートを作成していただいたものです。 (*´˘`*)シアワセデスッ

貴方に私は相応しくない【完結】

迷い人
恋愛
私との将来を求める公爵令息エドウィン・フォスター。 彼は初恋の人で学園入学をきっかけに再会を果たした。 天使のような無邪気な笑みで愛を語り。 彼は私の心を踏みにじる。 私は貴方の都合の良い子にはなれません。 私は貴方に相応しい女にはなれません。

あなたの愛はいりません

oro
恋愛
「私がそなたを愛することは無いだろう。」 初夜当日。 陛下にそう告げられた王妃、セリーヌには他に想い人がいた。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。