お前の辞書に自重って文字を加えてくれないかな!?

かむかむ

文字の大きさ
69 / 107
イベント等

旭陽生誕8 腕のなかの、幸い

しおりを挟む
「ッは、ァ……っふ……ッ、ぁ……っぁ゛、ぁ……ッ」

 全身を巡る高熱に、薄らと意識が浮上する。
 さっきからぼんやりと意識が戻っては、目が覚めきる前にまた沈むことを繰り返している。

 あつい。
 全身の震えが止まんねえ。
 殆ど一日中イき続けてた体が、絶頂癖じみた状態になっていつまでも収まらねえ。

 晃の声を聞いてる間はそこまでじゃなかったんだが。
 晃が寝てから徐々に疼きが酷くなり、甘イキを繰り返し始めた。

 今はイきっ放しに近い。
 つっても絶頂の残骸に似た、甘ったるいばっかの軽いイき方だ。
 ずっと終わんねえだけで、いつもの快感とは比べもんにならねえ程度の淡さでしかない。

 だから耐え難いってわけじゃねえ。
 ただ半端すぎて意識を飛ばせるほどじゃなく、いつまでもまともな眠りに沈めないってだけで。

 疲弊している体は休息を要求している。
 だがイってる最中に、失神以外で寝れるほど鈍い体でもねえ。

「っぁ、ん、ンぁ……っ、……ぁ、き、……ッ」

 いつもなら、おれが悶えてりゃ晃はどれだけ熟睡してても飛び起きる。
 けど今日ばかりは、まず起きないのは分かっていた。

 おれが殆ど全ての衝撃を受け止めたとはいえ、魂の本質が塗り変わったのは晃のほうだ。
 体力やら精神力やら、表面に出る部分以外が酷く疲弊したはず。
 現に、寝落ちてからは寝息すら聞こえないほどの深い熟睡に沈んでいる。

 おれを抱き締めて寝ている男の髪に、熱い頬を擦り寄せる。
 いつの間にかまた流れ出していた涙が、飴色に何滴も付着した。
 反応がないのを承知の上で、晃の名前を震える喉から絞り出す。

「ん……あ、さひ……、……」

 反応はない、はずだったのに。
 死んだように眠り続けていた男が、俄に呼吸の音を零した。

 少し辿々しい、甘い声で呼んでくる。
 腕が小さな反応を示して、おれを抱き締めている手に力が籠もった。
 ゆっくりと髪に指が絡んできて、後頭部を撫でられる。

 まさか、起きたのか?
 そう思って顔を覗き込んでも、瞼は固く閉じられている。

 ……寝てる、な。
 寝言か?
 直前まで寝息すら立ててなかったのに?

「あきら……」
「ぁ、さひ…………」

 顔を近付けて、もう一度呼んでみた。
 唇がふにゃりと綻び、幸せそうに微笑む。

 柔らかく髪が撫でられて、顔が僅かに動いた。
 額が微かに触れ合う。
 晃の顔が上向いて、鼻先に唇が触れてきた。

「す、き…………」
 不明瞭な声で呟き、また動かなくなる。


 ……そういうの、あざといって言うんじゃねえのか。
 心の中で呟いてみても、勿論晃は起きない。

 自分の唇から締まりがなくなっていくのが分かった。
 寝ててもおれのことしか頭にねえんだよな、晃は。
 ほんと、かわいい。

 なあ、分かってるんだぜ。
 おまえがおれの生まれた日に、ゆりかごに行きたがった理由。

 おれが地球に戻りたがってねえか、晃はまだ不安なんだろ。
 おれが生まれた日に、もう絶対に戻れない決定打をおれへ打ち込みたかった。
 おれが生まれた日に、おれを地球の全てから確実に奪い取りたかった。
 そんなとこだろ?

 生だけじゃなく、死の先も離さない。還してやらない。
 おれの全部を欲しがる晃の執着は、そこまで達していたらしい。

 魔王の魂は、死ねば自動的にゆりかごに引かれて収まる。
 伴侶の魂も、魔王の伴侶となった瞬間から同じ性質を帯びるようになる。
 それはゆりかごの前で体液を交わした時、魔王と伴侶の魂が結び付くからだ。

 生きている間も、死んでからも、決して解けることはない繋がり。
 晃が欲した、死の先も確約された拘束。

 ……ばかだなァ。捕まったのはおまえのほうだってのに。
 誕生日なんざ、何の意味もねえ日付だと思ってたけどよ。
 こんな心地良い贈り物を――晃自身を、丁寧に差し出してくるなんざ。
 流石に嬉しいって感じちまうな。

 重い腕を持ち上げて、飴色に引っ掛かっている白い花弁に触れる。
 散々動いたはずだが、おれが髪に差した時から殆ど動いていない。
 当然だ。飾る時、魔力で補強したからな。

 穏やかな寝息を立て始めた男の髪系へ、無数の白が静かに絡み付いている。
 カラスウリ。
 夜にしか開かねえ、一部の昆虫にしか蜜を吸わせねえ花。
 植物に興味はねえが、これは一度晃に飾ってみてやりたかった。

 ああ。悪くねえな、やっぱ。
 改めて見れば、満足が胸に広がった。

「っぁ……ァッ、ふ……っ」

 身動ぐたびに、快感の波が大きくなる。
 何度も震える足でシーツを掻きながら、両腕を持ち上げて晃の頭を抱き寄せた。

「ん…………」
 あさひ、と晃がふやけた声で呟く。

「ッヒ、ぁあっ!」
 不意に大きな波が体を貫いて、雄からどろりと透明の体液が溢れた。

「っぁ、あ……っ?」

 見下ろせば、抱き寄せた晃の頭が胸元に触れている。
 睡眠の中でもおれの体温に気付いた晃が、顔を上げて慣れた感触の突起に唇を押し当てていた。

「ッひっあ、アあっ! あッぁうっあッ! ヒぃっ!」

 深夜からずっと甘イキし続けていた体は、乳首に吸い付かれるだけで容易く強い絶頂に陥った。
 弱い力で舌を押し付けられるだけで、どろどろと薄い精が流れ出していく。

「ッぁ゛、ぁッき、ッひヤぅうー……ッ!」

 ガクガクと全身が震えて止まらない。
 視界が白く染まっていく。
 晃の頭を抱えている腕に力を込め、飴色に顔を寄せた。
 背中を抱いてきている晃の腕も、応えるように少し力を増す。

 ああ、やっと意識が飛ばせそうだ。
 溢れ出す涙を晃に押し付けながら、ほっと息を吐く。

 悪くない一日だった。
 来年は、どう祝ってくれんだろうな。
 次を楽しみにするなんざ、初めてだ。

「ッひ、ぁ、あ゛ッアっ! ッぁ、ぁっ……ん……ッ――」

 何処か浮つく心地を抱きながら、ふつりと意識が途切れた。

 おやすみ、晃。
 起きたら褒めてやるよ。

 おまえはいつも、おれの知らねえ感情を運んでくる。
 その度にまた恋してるって、晃は知らねえだろうけど。




◇◇◇

カラスウリ:花言葉「よき便り」「誠実」
(11月11日誕生花)
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

超絶美形な悪役として生まれ変わりました

みるきぃ
BL
転生したのは人気アニメの序盤で消える超絶美形の悪役でした。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完結】白豚王子に転生したら、前世の恋人が敵国の皇帝となって病んでました

志麻友紀
BL
「聖女アンジェラよ。お前との婚約は破棄だ!」 そう叫んだとたん、白豚王子ことリシェリード・オ・ルラ・ラルランドの前世の記憶とそして聖女の仮面を被った“魔女”によって破滅する未来が視えた。 その三ヶ月後、民の怒声のなか、リシェリードは処刑台に引き出されていた。 罪人をあらわす顔を覆うずた袋が取り払われたとき、人々は大きくどよめいた。 無様に太っていた白豚王子は、ほっそりとした白鳥のような美少年になっていたのだ。 そして、リシェリードは宣言する。 「この死刑執行は中止だ!」 その瞬間、空に雷鳴がとどろき、処刑台は粉々となった。 白豚王子様が前世の記憶を思い出した上に、白鳥王子へと転身して無双するお話です。ざまぁエンドはなしよwハッピーエンドです。  ムーンライトノベルズさんにも掲載しています。

処理中です...