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第17話 必須アイテム、ポイっとな。
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しおりを挟む今は、リリーネの優秀で善良な弟夫婦が仕事を手伝ってくれている。夫レオポルドの親類は表面上は心配をしているが、裏では伯爵位を狙ってディオンが心を病んでいるという噂をせっせと流している有様だ。
金魚という生き物の噂を聞いて、誰も見たことがない生き物ならばディオンも興味を示すかと淡い期待を抱いて招待もないのに押し掛けてしまったが、ミッセル商会の主は親切だった。今後は贔屓にさせて貰おう。
「それから、なんといったかしら?……ああ、ゴールドフィッシュ男爵の……」
あの場にいた男爵家の跡取りと令嬢は、ディオンとそう変わらない年齢だった。いかにも田舎から出てきたという粗末な格好をしていたが、きらびやかに着飾った令嬢よりああいった素朴な娘の方が今のディオンを慰められるかもしれない。
「お茶に招待してみようかしら?金魚のことでお礼とお話がしたいとでも言って」
暗く沈んだ家に、若い令嬢が来てくれれば少しは華やぐかもしれない。
ディオンに引きずられて使用人達さえ暗い雰囲気に染まってしまっているこの家に、ほんのわずかでも違う空気を入れたいと、疲れ果てたリリーネは思った。
翌朝、リリーネはいつものようにディオンに朝の挨拶をするために部屋を訪れた。
リリーネが訪れても、ディオンはたいてい暗い部屋でベッドに横になっている。リリーネが命じて侍従にディオンを起こさせ着替えさせ、食事を持ってくるように命じなければずっとそのままだ。
だが、ディオンの部屋を訪れたリリーネは、いつもと全く違う光景に息を飲んだ。
事故以降、ずっと閉ざされていたカーテンが開けられ、ディオンは既にベッドから出て椅子にぐったりと座っていた。
「誰がカーテンを開けたの?」
控えていた侍女に尋ねると、彼女はこう答えた。
「坊ちゃまが、開けるように、と。その、暗くては魚が可哀想だからと」
リリーネは朝陽を受けてきらきら光る水槽の中を泳ぐ、赤い小さな魚をみつめて体を震わせた。
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