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第四章 これから先の人生はイージーモードでお願いします
何でこうなった!?
しおりを挟むーー何でこうなった!?
文句を言いたいけど、今は何も言えないわ。だって、敵が近くでウヨウヨしているからね。あ~魔犬じゃないわよ。とても弱いけど、厄介な面倒くさい奴らよ。私一人なら簡単に倒せるけど、一人じゃないしね。
なので、木の影に隠れしゃがみ込んでいる。保護した幼児二人と共にね。
「シッ!! 音をたないで。このまま野盗をやり過ごします」
【認識阻害】の魔法を私と幼児二人に掛けてるから、奴らは全く気付かない。大きな声を出さない限りね。
幼児二人は涙目のまま、私を見詰め小さく頷く。本当、可愛いわね。そして、めちゃくちゃ偉い。私はにっこりと微笑むと、二人の頭を撫でた。
私一人なら野盗たちを簡単に倒せるけど、万が一ってことがあるからね。仕方ないけど、ここは放置ね。ただし、ちゃんと印は付けとくわよ。お仕置きは後でみっちりとしてあげるわ。
野盗たちは怒りを顕にしながら森の中に消えて行く。
「どうして、たおちゃないの?」
小さな声で訊いてくるのは男の子の方。
「君たちの側から離れるわけにはいきませんからね。でも、安心してください。印は付けていますので、後で捕まえることができますよ」
安心するように伝えた。
「わかった」
さすが義兄様の子ね。幼児なのに肝が座ってるわ。二人とも泣かずに耐えてる。
「それよりも、今はここから離れますよ。しっかりと摑まっててくださいね」
そう告げると、私は【身体強化】の魔法を自分に掛け、幼児二人を抱き上げる。
そして、森を脱出した。
「……取り敢えず、この子たちの身柄を保護するのが先決ね」
コットに戻るしかないわね。
「コットにもどらなくてもだいじょうぶだよ」
「うん。だいじょうぶ」
ほらって、手を伸ばした先にいたのは、私がよく知る人物でした。まぁ、この姿の私は知らないからバレることはないけどね。できれば逃げだしたいけど、幼児二人がしっかりと私の服を掴んでるからできない。
関わりたくなくて、アクセに行かなかったのに、向こうからやって来たよ……
「マリア!! アイン!!」
「マリア様!! アイン様!!」
綺麗な貴婦人がドレスの裾を上げて駆け寄って来る。護衛騎士よりも速いってどうなの?
「「おかあちゃま!!」」
掴んでいた手を離して、貴婦人に抱き付き号泣する幼児二人。
やっと追い付いた騎士が私に向かって恫喝した。
「貴様も、野盗の仲間か!?」
「違いますよ。仲間なら、ここにはいませんよ。魔犬を狩りに来たら、木の影に隠れている二人を発見し、保護しただけです」
「ハンターカードを見せてもらえるか?」
「わかりました」
仕方なく、私はハンターカードを騎士に手渡す。
「はぁ!? Fランクが魔犬狩りだと!?」
口が悪い騎士ね。
「悪かったですね。ハンターになったのは、昨日なので」
そう答えたら、ますます疑われたわ。まぁ、怪しいのは確かだからね、仕方ないけど。しばらく、魔犬狩りには行けそうにないわね。
「フランク!! おねぇちゃまにしつれいだぞ!!」
「そうよ!! しつれいよ!!」
私と騎士の間に立ち、私を庇う幼児。君たちの方がよっぽど騎士だわ。
途端に困り果てる護衛騎士。
仕方ないわね。私はしゃがむと、マリアとアインに視線を合わせる。
「マリア様、アイン様、失礼なことではありません。これは当然なのです。わずかでも疑いがあれば、徹底的に探る。それが、彼らの仕事なのです」
すると、マリアとアインは首を傾げながら言った。
「どうして? おねえちゃまはかぞくなのに?」
えっ!? もしかして気付いてる? そんなことないよね!? 一瞬、固まり掛けたわ。危ない、危ない。王太子妃教育、真面目に受けててよかった~~
「……もしかして、私とそっくりな方がいるのかな?」
「「いないよ。マリエールおねえちゃま」」
ニコニコ顔のマリアとアイン。
「…………マリエールちゃんなの?」
唖然としながらも呟くのは、義姉様。護衛騎士は硬直してるわね。
「いえ。ちが……」
ジーと目を潤ませながら見上げる甥っ子と姪っ子。
あ~~もう!!
「ご無沙汰しております、義姉様。二年振りですね。皆、元気でお過ごしでしょうか」
腹を据えて挨拶をすると、今度は義姉様が抱き付いてきた。足元にしがみつくのは、甥っ子と姪っ子。動けない。
「よかった……本当に、よかった……どうして、真っ直ぐ帰って来ないの!? その姿はいったい!?」
泣きつかれた後は怒られた。っていうか、少しは疑問を持って欲しい。
「まぁ、いろいろ理由がありまして……そろそろ、離してくれませんか?」
「離したら、逃げるつもりね!!」
腕を掴まれたまま告げられる。義姉様ってこんな人だった? お淑やかなイメージだったんだけど。
「……逃げませんわ。野盗を捕まえなければならないので」
捕まえたら、さっさと逃げるけどね。
「野盗の居場所を把握しているのですか!?」
野盗の言葉に反応したのは護衛騎士。しないとおかしいよね。
「「マリエールおねえちゃまがしるしをつけたの!! しゅごいよね!!」」
キラキラした目が眩しいわ。
「「印?」」
義姉様と護衛騎士が尋ねる。
「魔力を一部付与しただけです。たいしたことではありませんわ。狩りは深夜に行います」
そう答えると、二人は黙り込んでしまった。特におかしなことを言った覚えはないけど。
「………………確かに、マリエールちゃんだわ」
ポツリと呟く義姉様。
それ、どういう意味です?
取り敢えず、一旦、コットに戻るしかないわね。でもその前に、これだけは言っとかないと。
「私がマリエールであることは、誰にも言わないでください。お母様にも、アルフ兄様にもオルガ兄様にも。お願い致します」
バレたら、面倒くさいことになるのが目に見えてるからね。
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