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第五章 呪いが解けるまで楽しむ予定です
真夜中の来訪者
しおりを挟む夜中、テラスの窓をノックする音がした。私は立ち上がり窓を開ける。
「はい、どうぞ」
「マリエール、確認しなくて窓を開けるでない」
魔王様に怒られてしまった。
「大丈夫ですよ。魔王様だってわかってますから。それに、神獣様も寛いでますからね」
神獣様はベッドの上で伸びている。マジで可愛くて天国。もし私を害する者が来たのなら、今頃、間違いなく窓は吹っ飛んでるわね。テラスも原型を留めてないんじゃない。それに、魔王様の魔力を覚えたので、尋ねて来たのが魔王様だってすぐにわかった。
「……一緒に寝ているのか?」
何故か、魔王様はジトっとした目で神獣様を見ている。すると、神獣様が尻尾を垂れながらベッドから下りた。
何で? 別に寝たままでもよかったのに。
「ええ。いつも一緒に寝てますよ」
隠すことじゃないので、素直に答えた。
「マ、マリエール!!」
慌てたのは神獣様。
どうして、神獣様が慌ててるの?
「そうか……わかった。マリエール、今から儂の部屋に来い」
「魔王!!」
神獣様がさらに慌てる。
「えっ!? 魔王様の部屋にですか? もちろん、神獣様も一緒ですよね」
「こやつはこの部屋で十分じゃ」
え~~それだったら、毎朝のモフモフタイムがなくなるじゃないですか!!
心の声をはっきりと聞いた魔王様は、ジーと神獣様を凝視している。
「我は、な、何もしておらん!!」
「しておるではないか。未婚の娘と同衾とは……」
「ま、魔王様!? な、何言ってるんですか!?」
同衾って、同衾って。異性とベッドを共にすることよね。た、確かに、神獣様は雄だけど、異性になるの!? えっでも、よく、朝顔を舐めてくれるけど……
「神獣」
魔王様の声がとても低い。
「マ、マリエール、落ち着け。我は仲間であり家族のようなものだろ」
神獣様が焦りながら言ってきた。
「そ、そうですよね。家族であり仲間ですもの、特におかしなことではありませんよね」
魔王様ったら、大袈裟なんだから。そもそも、同衾って、種族が違うわ。なので、当てはまりないよね。そういった、行為はできないんだもの。
「神獣……まぁよい。ならば、儂もこの部屋で寝るかの」
凄く疲れた声で、魔王様は呟いた。
「はい。三人でも余裕で寝れますから、一緒に寝ましょう」
私がそう答えると、神獣様が大きな溜め息を吐いた。
「寝る前に、これを食べぬか?」
落ち込む神獣様を無視して、魔王様は私に見覚えがある紙袋を見せた。
「いいんですか? それ、没収されたものですよね」
「いらぬのか?」
まるで悪戯っ子のような笑みを浮かべながら、反対に訊いてきた。
「いります!!」
「ふむ。素直でよいの」
「お茶淹れてきますね」
「お茶なら持ってきておる」
そう言いながら、何もない空間から食器とポットを取り出す。そして、近くにあったテーブルに並べた。
「美味しい!!」
「真夜中の菓子は、罪悪感があってなかなかよいのう」
魔王様、わかってらっしゃる。
「ですよね。……どうかしました?」
手が止まった魔王様に尋ねる。
「……マリエール、今日は助かった。礼を言う」
「礼ですか? 私、何かしましたか?」
思い浮かばなくて、首を傾げる。
「助けてくれただろう。食人鬼を」
少し呆れながら、魔王様は教えてくれた。
「助けたといっても、庇って、治癒魔法を掛けただけですよ。礼を言われることではありませんわ」
「いや、じゅうぶんだと思うが。あやつの命を助けたのはマリエールじゃ」
「魔王様は、あの食人鬼を死なせたくなかったのですね。でも、上に立つ者として裁かねばならなかった。魔族って、力が正義って面があると聞いたことがありますから」
そう言うと、魔王様は苦笑する。
「脳筋が多いのは事実じゃな。魔王なぞ、魔族の中で一番魔力がある者がなるしの。その中で、あやつは、側近の中でも一番弱い。じゃがのう、誰よりも真面目で仕事をこなす。嫌だとか、しんどいとか口にしたことはないのじゃ」
「……強さって、何ですかね? 魔王様。魔力が多い者は確かに強いです。例え魔力が低くても、武力を鍛えた者も強い。でも、魔力も少なく武力がない者は弱いのでしょうか? 国を支えるのは、魔力が強い者や武力が高い者だけではありません。書類を事務作業を真面目に処理する方がいなくては、国は成り立ちません。その面からみれば、彼もまた大事な戦力ではありませんか? 私は、彼がとても強い方だと思います」
そんなに驚くようなことを言ったかな? もしかして、気悪くした? 魔王様に意見するなんて、おこがましいことしたから?
今度は私が慌てる。
「いや、良い意見を聞かせて貰った。感謝する」
クシャと笑いながら、魔王様は二度目の礼を口にした。
「……その姿になるのは、何百年振りだ? 神獣」
友の声は呆れと心配が入り混じったものだった。
「獣の姿では、マリエールを運べないからな」
「その姿をマリエールに見せる気はないのじゃな?」
友の質問に、我は無言で頷く。
「……我はマリエールの幸せを一番に願っておるのだ。マリエールがずっと笑ってくれるのなら、我を選ばなくてもよい。獣のままでよい」
マリエールの寝顔を見詰めながら、我は答える。近くで寝顔を見れるだけで、我は幸せだ。自然と口元が緩む。友はそんな我を見て、大きな溜め息を吐いた。
「狼は悲しいほど一途よのう……友としては、神獣の幸せを心から願っておる。互いに名前を呼び合える日が来るといいのう」
「ああ……」
我はそう答えると、マリエールをベッドにそっと降ろした。
寝ぼけたマリエールが我の頭を撫でる。その手の温かさに我は微笑む。胸に鋭い痛みを抱きながら。
「仕方ないのう。儂は自分の部屋に戻るか。くれぐれも、一線は超えるなよ」
「わかっておる」
「なら、いいが」
そう言い残し、友は姿を消した。
我はマリエールの頬を撫でてから獣の姿に戻る。そして、マリエールの隣に体を滑り込ませる。マリエールがいつもと同じように抱き付いてきた。規則正しい寝息を聞きながら、我も目を閉じた。
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