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2.はじめて
3.夜景
しおりを挟む薄暗く大人の危険な香りが立ち込めるラウンジは、大人になったからといって軽々しく立ち入れる場所に思えないのは何故だろうか……?
「それは、精神的にまだお子ちゃまだからだろう」
初めて入る大人の世界に、キョロキョロと360度隈なく見渡せば、千景の心の声を聞いたのか芹澤がボソッと答えた。
もう既に、おのぼりさん化している千景の腰を抱き、エスコートする芹澤の大人レベルに感嘆の息しか出てこない。
ラウンジの窓側の席は、一段低くなっており、ガラス窓を正面にしてテーブルと背もたれが少し高い二人掛けの半円の落ち着いたお洒落なソファーが置いてあった。一段下がると、ソファーの背もたれが邪魔をして通路から覗けない作りになっていて、半個室のような感じになる。
ガラス窓の外はネオンの光がまるで散りばめられた宝石のようにキラキラ輝いていて、こんな場所でお酒を飲むことができるなんて素敵だと、千景は芹澤に誘ってくれたことに感謝した。
あんなに大勢の女性に囲まれていたのに、私を誘ってくれるのは正直に言って嬉しかった。
「美味しい!」
芹澤が頼んでくれたお酒は甘くてとても飲みやすかった。
「気に入ってもらえて良かった」
無表情な顔をして『良かった』という芹澤に、本当に良かったと思っているのかと疑問に思うも、この素敵なお店に連れてきてくれたことは嬉しいので、美味しいお酒と一緒に飲み込んだ。
美味しいお酒に綺麗な夜景、一緒に飲む相手がイケメンなんて……こんな酒が進むシチュエーションはなかなか無いね。
思わず、中年オヤジのようなセリフが出た自分に苦笑する。
「あなたのような素敵な人が、どうして恋活パーティーに参加したんです?」
―――あなただったら、こんな所に来なくても女性に不自由しないと思うのに……と、これは失礼にあたるかもしれなので心の中で付け加える。
「知人から、ある女性がこのパーティーに参加すると聞いたんだ。参加すれば、少なからず知り合い程度にはなれると思ったんでね」
「ある女性―――とは、想い人ですね?」
「……さぁ、なんだと思う?」
不敵に笑って、芹澤は口元に持っていったグラスを傾ける。
千景は、質問を質問で返すなー!と思ったが、聞かれたくないのなら聞くのはやめよう。
「それで…知り合い程度な関係にはなれました?」
芹澤は顎に手を当てて、少し考えている。
「……そうだな、知り合えることは出来た」
「そう、それは良かったですね」
「ああ、ありがとう」
もしかしたら、この人は百戦錬磨の手練れと見せて、実は凄く純粋な人なのかもしれない。お目当ての女性と知り合いになれたことを嬉しく笑う顔を見て、千景はそんな芹澤が可愛いと思った。
カラン…と、グラスの中の氷が音を立てた。
芹澤の空になったグラスに気づき、
「何か頼みましょうか?」
と、彼の顔を見れば……芹澤の熱く潤った瞳が千景の瞳と絡み合い、千景の心臓がドキンッと勢いよく跳ねた。……不整脈?
慌てて左胸に手を当てて、今日はよく飛び跳ねる心臓の鼓動を確かめる。……正常に機能してる。
「ん?……ああ、そうだな。同じものを頼むよ」
ウエイターを呼び、芹澤は先ほどと同じものを注文する。
「あんたも、同じものでいいか?」
「え?あ!はい」
心臓が気になり適当に相槌をして、千景はしまった!と思った。注文せずに帰れば良かった。急に鼓動が早くなったりする心臓に、何らかの病気のサインではないのかと心配になってきた。
あと、一杯だけ飲んで帰ろう。
再度、運ばれてきたグラスが空になった頃、千景はお手洗いに立った。
美味しいお酒に美味しいおつまみに隣に座るイケメン……至福の時に満足し、またほろ酔い感がまた気持ちよくて、洗面台の鏡に映った自分を見ながら、ふふっと笑いが出てしまう。
芹澤の第一印象は、無口で怖い人だったが、話をしてみたら会話がきちんと成立してしかも面白い。想い人がいるのが分かった時は可愛いと思ってしまった。見た目とのギャップの違いに、本人の目の前で笑うのは失礼だから我慢していたが、一人になって千景は笑いが漏れてしまったのだ。
席に戻ろうとトイレを出ると、芹澤が待っていた。千景をジッと見ている。
「どうかしたんですか?」
「帰るんじゃないかと思ってな」
「そんな、黙ってなんて帰りませんよ」
苦笑して返せば、芹澤が一歩距離を詰める。
「先ほどのパーティーでは、途中で黙って帰ろうとしただろう?」
ギクッと体が硬直した。……なんか、バレてる。
「あはははは……」
乾いた笑いで誤魔化してみるも、芹澤はまた一歩距離を詰めた。
本能でマズイと感じたのか、千景はトイレの扉から離れ壁際により、壁に沿って横歩きで素早く彼の横を通り過ぎようとすれば、彼の腕で進路を塞がれた。
「逃がすかよ」
これが世にいう『壁ドン』なのか、と頭の片隅で初の壁ドンに感動している自分がいた。
じりじりと距離を詰める芹澤に、千景は逃げようとしても壁が邪魔をして距離を保つことも出来ない。
この追い詰められた状況で、何故か過去の恋愛遍歴が駆け巡る。
「考え事なんて余裕だな」
低く艶のある声と、獲物を捕らえて離さない猛獣の瞳。なのに、千景に触れる手は驚くほどとても優しい。
「…ん、」
最初は何が起きたのか分からなかった。唇を塞がれて息が出来ず苦しくなって漸く、千景の唇を芹澤の唇で塞がれているのが分かった。
頭を振っても、彼の唇は執拗に千景の唇を塞ぐ。
千景の心臓が痛いくらいドクンドクンと何度も跳ね、腰のあたりがぞくぞくとした。
塞がれた唇は優しく二度、三度とついばまれ、それが気持ち良くその行為に全部の意識が持っていかれた。
「……ん、はぁ…」
酸素を求めて口を開くと、その隙間に彼の舌が滑り込む。優しくついばむ口づけから一転して、舌先が深く彼女の口内に押し込まれ彼女の意識さえ翻弄し飲み込んでいく。
彼に見つけられた千景の舌先を絡み取られ、吸われ、舌の裏側をなぞられ、そしてまた吸われる。舌が離れたと思ったら、今度は角度を変えて攻め立てる。
飲み込めない唾液が千景の頬を伝って零れ落ちる。
互いの口からぴちゃぴちゃと聞こえる水音は厭らしく千景の聴覚を刺激した。
軽い酸欠で体が力が入らない。立っていられないと、千景は無意識に芹澤の首に腕を回した。
触れた唇が離れ、一息つくも千景は堪らず自分から彼の唇を求めて触れる。芹澤はその行為に欲情した。千景の背中と腰に腕を回し、彼女の足の間に自分の膝を入れる。
朦朧とする意識の中、千景の身体の奥から何かが這い上がってくるのが分かった。
「……ん、い……やぁ」
這い上がってくるのが何なのか分からずに、得体の知れないものの恐怖に口づけを拒もうとしても、欲情に駆られた男の攻めは止まらない。
彼は執拗に千景の唇を求め、欲のままに彼女の口内を犯し続ける。彼の胸を両手で押し返そうとするが、力が入らないほどの快楽に溺れた彼女の腕ではびくともしない。逃がさないといわんばかりに、彼の腕に力が入り、きつく抱きしめられた。
「……んん、んむぅ……」
突き抜ける白い弾ける快感に、ビクビクッと千景の身体が痙攣し、意識を飛ばした。
芹澤の腕の中で果てた千景を見つめ口づけ余韻に浸る。口づけのみだったが、慣れていない彼女の反応にひどく興奮させられた。唇を離したが興奮は醒めることなく続いている。腕の中の彼女をめちゃくちゃにしたい衝動を何とか押さえつけ、彼女の頬に触れる。
イッた後のせいか、紅潮した頬がとても扇情的に見えた。
芹澤は彼女を抱きかかえラウンジを出た。
エレベーターに乗り、予めに予約を入れていた部屋へ向かった。
「知り合い程度で終わらせるつもりなどないんだよ」
エレベーターの中での独り言は誰にも聞かれることなく虚空に消えた。
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