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第351話 依頼主と請負人

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 ──大都市エルクステン
      聖教会・ノアの部屋──

 彼女にしては、かなり遅い起床だ。
 だが、そんなことは気にせず、顎に手を当て呟く。

「-2と+2。これは荒れそうかな。一人は心当りがあるけど、後もう一人は誰かな?」

 ノアは珍しく首を傾げる。

「まあ、今は分からないか。だしね」

 ベッドから起き上がりノアは──

「あはは、もうお昼だね。神託を見てたとは言え、ヴィクトリアさんに怒られちゃうかな」

 と、急ぎ服を着替え部屋を飛び出すのだった。

 *

 ──フェフジンテの街
      街外れ・シナノの家。

「お、帰ってきたな」

 シナノの家の扉が開き、シナノとその後ろからクレハが入ってくる。

「ユキマサ君、もぅ、ビックリしたよ」
「思ったより早く見つかりました……」

 シナノはガッカリした様子だ。
 あー、時給があまり稼げなかったからか。
 時間にして約1時間ジャスト。銀貨1枚の報酬だ。

「悪かったなクレハ、あの後すぐに〝仙極せんごく〟に襲われてな?」
「うぇ、何か聞きたくない言葉ワードが聞こえた気がします。いえ、聞かなかったことにします」

 シナノが耳を塞ぐ。関わりたくないらしい。

「あーダメです。気になります! 何で六魔導士に追われてるんですか!」
「話していいのか?」
「……やっぱいいです。関わりたくないので」

「どっちだよ。つーか、俺が悪人だと思わねぇのか? 自慢じゃないが、六魔導士に追われてるんだぜ?」
「そこは私の直感です。ド貧乏暮らしだと悪い奴を一瞬で見抜けないと甘い話で騙されたりしますからね。素直にお金も払ってくれましたし、私に取ってはユキマサさんは良い者ですよ」

 サバサバとした言い方だが、最後は少し笑ってくれた。

「で、ユキマサさん、成功報酬は期待してます」
「お前、金の話しばっかだな。分かりやすくていいけど」
「当たり前です。貧乏ですから。それにお金はどれだけあっても基本的に困る物ではありませんし。まあ、貯金なんて大層な物は私にありませんけど」

 所詮、その日暮らしですよ。と、下を向く。

「えーと、ユキマサ君、どういう関係?」
「依頼主と請負人うけおいにんだ」

 俺とシナノのやり取りをクレハが首を傾げながら、少し困った顔で様子を見ている。

「あ、報酬です。忘れない内にください」
「丁度1時間だから銀貨1枚な」

 〝アイテムストレージ〟から取り出した銀貨1枚をシナノに渡すとシナノは嬉しそうに銀貨を受け取った。

「そうだクレハ、街の様子はどうだった?」
「あー、うん。手配書は貼られてたよ」
「聞こえません。私は何も聞いてません」

 あー、あー! と、耳を塞ぐシナノは多分全部聞こえてるけど、断固として聞こえないフリ。

「でも、今はそれより六魔導士の〝仙極せんごく〟の方が問題だよ。今は下手に動かない方がいいと思う」
「そうか。となると、この街を早く出た方がいいか」

 すると、街を出るかと呟く俺に、耳を塞いで踞っていたシナノが不意に話しかける。

「……なら、ここに一泊してはどうですか? 今逃げても普通に考えて敵のに行動をする事になるだけでしょう。ならば、ここに1日潜伏し、時間を開けてから逃げた方が敵の裏をかけるのでは? ──あ、勿論、宿泊は有料です。食事、布団は無し。トイレは別料金で一泊一人銀貨1枚です。どうしますか?」

 急なド正論の返事に俺は言葉を返すタイミングを失う。てか、全部しっかりと聞いてんじゃん話。
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