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1章妖精の愛し子

6.

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「ようせいしゃん、おきたなの」
妖精から目を離さずにじっと見ていたリリーフィアがそう呟くと、サクラとハヤテが勢い良く振り向いて妖精を見た。

「大丈夫? あなた、名前は?」
サクラは妖精の顔の前まで飛ぶと、妖精の顔を覗き込んだ。
「僕はアロイ。 それよりここは? なんか居心地が良いみたいだけど…」
藍色の羽の妖精ことアロイは辺りを見回す。
「ここはシャロン公爵家の庭だぞ。 リリーフィアは倒れてたアロイに躓いて転んだんだぞ」
「そ、それは…ごめんなさい。 僕が倒れてたからだよね…大丈夫だった?」
アロイはリリーフィアの目をきちんと見ながら頭をさげて謝った。

この世界で頭をさげる行為は相手への忠誠を誓うという証である。
アロイがそれをしたということは、リリーフィアに忠誠を誓ったも同然。
だがまだそんな意味を知らないリリーフィアはなにも気づかずスルーして話を続ける。
「だいじょうぶなの。 ありょいはけがちてないなの?」
「うん、大丈夫だよ。 心配してくれてありがとう、リリーフィア」
アロイは爽やかな笑顔でリリーフィアの頭を撫でた。

「それじゃあ僕はそろそろ行こうかな」
アロイは立ち上がると、垂れていた羽をピンと伸ばして羽ばたいた。
羽が破れていることを忘れているアロイは飛ぼうと思って地を蹴った。
だが、それは叶わず再び地面に降り立つ。
「あれ? 可笑しいな…」
そう言ってもう一度挑戦するが、結果は変わらない。

「なぁアロイ… アロイの羽は千切られてるんだぞ…? もう、空は飛べないんだぞ…」
ハヤテが残酷な現実を苦しそうに打ち明ける。
「は、ははっ… そうだったね、人間に千切られたんだった…。 なにやってるんだろう僕、馬鹿みたい…」
笑いながらそう言ったアロイだったが、その顔は今にも泣き出しそうで、辛そうに歪んでいた。
辺りに重い空気が流れる。

「はねはもうなおりゃないの?」

そんな空気を取り払うかのようにリリーフィアが問う。
「一度破れた羽は一生治らないのよ、リリーフィア」
サクラはそう答えつつも、辛そうにしていた。
仲間が人間に傷つけられたのだ。
どんなに明るく振る舞おうと、限界は来る。

しかし、リリーフィアはそんな空気を読まずに続ける。
「なおりゃないならなおせば良いなの。 神しゃまにおねがいしゅればきっとなおりゅのよ」
リリーフィアはアロイの羽を手にすると、優しく撫でた。
「神しゃま、ありょいのはね、なおちてくだしゃい。 おねがいちましゅ」
だが、なにも変化は起こらない。
「おねがいちましゅ、神しゃま!」
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