褒美で授与された私は王太子殿下の元婚約者

アズやっこ

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尊敬か非情か

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リーストファー様が戻るまでお婆さんと少し世間話をした。その時知ったんだけど、お爺さんとお婆さんには息子さん家族がいる。息子さんは今も騎士としてバーチェル国の辺境を護っている。

この地がエーネ国の国土になると決まった時、息子さん家族は辺境へ移り住んだ。息子さんはエーネ国の国民には絶対になりたくないと言った。

息子さん家族はバーチェル国へ残り、お爺さんとお婆さんはエーネ国の国民になった。

お婆さんは悲しそうな顔で『仕方ありません。自分達家族の暮らしもままならないのに私達年寄りの世話まで見れませんから』そう言った。


「平民が住むこの家に価値はありません。当主が壊せと命じれば簡単に壊される家です。ですが夫にとってはご先祖様が唯一遺してくれた価値のあるものです。

ですが息子にとってこの家は何の価値もないものです。夫もそうですがお義父さんも家を建てていました。代々男児はその職業に就きます。声がかかればどこへにでも行きました。何ヶ月も帰ってこない、そんな事は当たり前です。夫はお義父さんを尊敬していますが、息子は夫を格好悪いと言います。貴族様が住む家を建てた事もありますが、雇われといっても出稼ぎのようなもの、その名を残せる訳ではありません。

この領地は元々辺境の騎士達の訓練場でした。まだ子供だった息子にとって騎士は憧れる存在になりました。息子は父親よりも騎士達に遊んでもらった記憶の方が多いと思います」

「でもそれは家族を養う為に家を留守にしていただけです。家を建てる人がいなければ安全な生活はできません。修復をする人がいなければ家は脆くなります。とても立派な職業だと思います。勿論騎士が立派な職業ではないと言っているのではありません。騎士も立派な職業です。騎士がいなければ治安が悪くなり安全に生活はできません。どちらが尊敬できるかできないか、比べようがありません。どちらも尊敬できる職業です」

「でも息子には騎士が格好良く見えました。父親の背中を見る機会はありませんが、騎士達の背中を見る機会は常にありましたから」


騎士に憧れる男児が多いのは分かる。女性から見ても騎士は格好良く見える。それでも家がなければ雨風をしのぐことはできない。安全な生活をおくる為に家も騎士も必要なもの。それでも身を守り寒さをしのげるのはやっぱり家。仮に外で暮らしていたとして、騎士が常に身を守ってくれる?寒さをしのいでくれる?

騎士達は外で暮らす人達には常に目を光らせている。盗みをしないか、誰かを襲わないか、それに浮浪者は街の景観を損なう。

家を建てても名は残せないかもしれない。騎士の方が名は残せるかもしれない。

息子さんの気持ちも分かるけど…。

確かに人の目に触れにくい職業かもしれない。それでも皆の生活を陰ながら支える縁の下の力持ちだと、ご主人の仕事は尊敬に値すると私は思う。


「元々夫と息子は口喧嘩が絶えませんでした。まだ夫がお金を稼いでいた時は良かったんです。ですが夫が仕事を辞めてから二人の関係は悪化しました」


お婆さんは辛そうな顔をした。


「夫はこの家より家族の方が大事だと、家族は一緒に暮らすべきだと言いました。エーネ国とのあの戦で友人の息子が亡くなりました。孫を亡くした知人もいます。この家も勿論大事ですが、息子と孫と一緒に暮らしたいと、息子家族に付いていこうと私達は決めていたんです。

息子から辺境で暮らす家を買いたいと言われ、父さん達がいつ来てもいいように部屋も用意するからと、夫が長年働き貯めたお金を渡しました。先に移住を決めた息子家族より少し後に私達も息子家族が暮らす家に行こうと決めていました。夫にはこの家と別れる時間が必要だったからです。そしてご先祖様に謝罪と別れをする時間が必要だったからです。

ですがいざ行けば私達の部屋はなく、本当に来たのかと、私達とは一緒に暮らしたくないと、お金も稼げない私達は邪魔だと、自分の家族を養うだけで精一杯なのに私達の面倒はみれないと、一緒に暮らしたいのならどこかで働きそのお金を家に入れろと、父親らしい事を一度もしていないのに老後だけ見ろと言うのは図々しいんじゃないのかと言われました。

夫は声を荒げることもなく静かに『親子の縁を切ろう』そう息子に言いました。『はなからそんなものはない』息子はそう言い、私達はここに戻ってきました。『エーネ国の民になろう。俺はこの家で死にたい』そう夫は言いました…」


俯いたお婆さん。

お爺さんは父親として生活の為に出稼ぎに出ていた。声をかけられ一度でも断れば次の声はかからない。

自分達が暮らす領地の中だけの家しか建てないと言っていたら生活は困窮する。王都や栄えている領地へ、何ヶ月もその地に留まり仕事をする。

父親として妻と息子を家に残し家を空けるのはお爺さんだって心苦しかったはず。それでも一家の大黒柱として家族を支える為に頑張っていた。

確かに他の父親のように毎日家にいる訳じゃない。仕事を受ければ数ヶ月会えない。それでも父親らしい事を何もしていない訳じゃない。家にいる間は家族を大切にしただろう。会えない分まで息子と一緒に遊んだだろう。

この家庭は領民の中でも割りと裕福な家庭だったと思う。食料を買える財力。家を買える蓄え。幼い頃から親の手伝いをしなくても自由に遊べた。だから騎士達の稽古を見に行けたのではないの?

子を捨てる親がいれば、親を捨てる子もいる。

あまりにも非情。

遣る瀬無い思いが私の心を包む。



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