大いなる誘惑者
皇太子の婚約者、ノエル・アシュベリー伯爵令嬢。
十八歳の誕生日を迎えた彼女は、自分が恋愛小説『白き聖女の王冠』の悪役令嬢へ転生していることを思い出す。
このまま原作通り進めば、聖女セレナへの毒殺未遂で処刑される。
――冗談じゃない。
男を取り合って死ぬくらいなら、皇太子との婚約を破棄して自由に生きたい。
しかし二人の婚約は、王家とアシュベリー家の利害が絡む政略結婚のため、ノエル一人の意思では解消できない。
そんな彼女が思い出したのは、王族との婚姻に残された古い制度――《王家の再求婚権》。
婚姻成立前に別の王族から正式な求婚を受ければ、既存の婚約は再審議に入り、本人の意思によって結婚相手を選び直すことができる。
つまり、聖女セレナが現れ、原作通りロアンが彼女へ恋をするまでの間だけ、別の王族にノエルへ求婚してもらえばいい。
そうすればロアン自身の意思で婚約を解消し、その後に新たな求婚も取り下げてもらえば、ノエルは誰とも結婚せず自由になれる。
問題は一つ。
皇太子の婚約者へ求婚できるほどの身分を持ち、なおかつ王家の意向を恐れない男など、この国にはほとんど存在しない。
――ただ一人を除いて。
現皇帝の年の離れた異母弟であり、ロアンにとってはわずか二歳年上の叔父にあたる――ビョルン・ファルシオン公爵。
金髪と神秘的な紫の瞳を持つ絶世の美青年。
女も男も、貴族も商人も、敵国の使者さえ、微笑ひとつで掌の上へ乗せる危険な男。
「公爵様。私を誘惑してくださいませんか?」
幾人もの人間を破滅へ導いたことから、小説の中で人々は彼をこう呼んでいた。《大いなる誘惑者》ーーと。
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男を取り合って死ぬくらいなら、皇太子との婚約を破棄して自由に生きたい。
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婚姻成立前に別の王族から正式な求婚を受ければ、既存の婚約は再審議に入り、本人の意思によって結婚相手を選び直すことができる。
つまり、聖女セレナが現れ、原作通りロアンが彼女へ恋をするまでの間だけ、別の王族にノエルへ求婚してもらえばいい。
そうすればロアン自身の意思で婚約を解消し、その後に新たな求婚も取り下げてもらえば、ノエルは誰とも結婚せず自由になれる。
問題は一つ。
皇太子の婚約者へ求婚できるほどの身分を持ち、なおかつ王家の意向を恐れない男など、この国にはほとんど存在しない。
――ただ一人を除いて。
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女も男も、貴族も商人も、敵国の使者さえ、微笑ひとつで掌の上へ乗せる危険な男。
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