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五章 真実編
アンセルの決意と小ネタ
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君と過ごした時間だけが、きらきら輝いて、それは僕の宝物だった。その時間だけを大切にして生きていこう、そう思ってたのに。
もう一度君の姿を見たら、そんな偽善者ぶった考えは捨て去らずにいられなかった。
プリシラが外出するのはかなり稀だ。
父の知人の娘の結婚式に、僕も行くことになった。乗り気でなかったが、そこに君がいた。多くの着飾った令嬢の中でもプリシラのことはすぐにわかって、心臓が止まりそうになった。非常に稀有な髪色を持っていなかったとしても、僕はきっとすぐに君を見つけた。
ステンドグラスから差し込んだ光がプリシラに当たり、長い魅力的なピンク色の髪が輝いてる。
プリシラはあまりに、あまりに美しくて、そんな君が、誰かの物になるなど、気が狂いそうだった。
横顔をじっと見つめていたら、視線を感じたのかプリシラがゆっくりと振り返った。
そのとき確かに、僕とプリシラは目が合った。
その瞬間、心臓を鷲掴みされたようだった。
ひさしぶりに、二人の時間が交差した。
プリシラは不思議そうに瞬きをして小首を傾げ、またすぐに顔を戻してしまった。
僕はどんなに汚れても、君を手に入れると決めた。
帰宅すると、僕はすぐさま父の仕事部屋に赴いた。
「プリシラと結婚します」
僕の申し出に、父は苦い顔で、
「伯爵に破棄させられただろう。どう説得するつもりだ?」
「非合法なことはしませんので、安心してください」
父はせっかく整っていた髪をかきむしりながら、
「本当にいいのか? ……お前の選ぼうとしている道は、思った以上に苦しいぞ。報われる保障なんか、どこにもない。後悔しないよう、もう一度よく考えて……」
「後悔なんて、するはずがありません」
僕はきっぱりと答えた。
「考えて考えて、プリシラが別の男と一緒になる、そのことのほうが、身を切るほど辛いと痛感しました。想像しただけで狂いそうになる。万一そうなったら、相手の男を殺してプリシラを無理やりでも僕の物にします」
「……アンセル」
「プリシラが僕をどう思うか、なんて関係ありません」
明かすつもりは毛頭ないが、全ての真実を知ったプリシラが僕をいくら憎悪したって、関係ない。プリシラの気持ちがどうであろうと、僕はもう、離すつもりはない。
遠くから見守ろうなんて、そんな生易しい感情はとうに地獄の業火に焼き捨てた。
好きだとか嫌いだとか、もはやそういう次元ではないのだ。僕にとってのプリシラは。
例えるなら、空気。水。食事。
僕が生きることに必要なもの、それがプリシラだ。
やっとの思いで掴んだはずの幸せが、粉々に砕けて、指の間からすり抜けていったあの日。
失われた未来を、どうしたらもう一度取り戻すことができるのか。どうしようもないことなのに、僕はそればかりを考えていた。
「……お前はガンコだからな。プリシラと伯爵をちゃんと説得したのなら、私が反対する理由はない」
「感謝いたします。父上」
渋っていた父をようやく説得し終え、僕は部屋を出た。
「……もうすぐ。僕のものにするからね。プリシラ」
僕は自分の部屋に向かいながら、彼女を手に入れる計画を立て始めた。
小ネタ
「君は男の好みがあるのか?」
寝る支度をしていると、唐突にアンセル様が、訊ねてきた。
(何かしら。いきなり)
不思議に思いながらも、私は少し考えて答えた。
「え?そう、ですね……。背は高いほうがいいです。軽薄だったり、騒がしい方もいやですね。どちらかと言えばお顔立ちも端正な方がいいですし。しいて言うなら、マルス王国のアーノルド・フォン・フィリップ様、でしょうか。年が離れていると甘やかしてくれそうですし」
十歳差もあればさぞ甘やかしてもらえるだろう。
寡黙だけどお優しくて、ヴィオレット様がうらやましい……!かなりの美男美女のご夫婦なので、お子様が生まれたらかなり美形だろう。
私の答えを聞いて、アンセル様の口元がなぜかぴくぴくとひくついた。
「……よし。可愛がってくれる男が好みなんだな?じゃあ、僕が君をかわいがってやる」
(笑顔なのになんか怖い! いや、可愛がってくださる顔じゃありませんよね!?)
「ア、アンセル様!? どうかされました!?」
それから明け方近くまで私はたっぷりと可愛がられた。気絶こそしていないが、さすがにぐったりして起き上がる元気もない。
そんな私を見て、アンセル様はなぜか嬉しそう。
隣に寝そべりながら、
「年下でも、これだけ可愛がれば満足したか?」
私の可愛がって欲しい意味合いとだいぶ違ったのだけれど……。
年下……?
ああそうか。
「いつも落ち着いていて大人びていらっしゃるので、アンセル様が年下ってことを忘れてました。頼りがいがありますし」
割と甘やかされているし、私のほうが年下な気がしていた。
私の言葉に、アンセル様は目を丸くしたあと、優しく細めた。
「ふうん。僕は頼りがいがあるか。そうか。フェンリルには伝えておくから、今日はゆっくり休め」
「は、はい。ありがとうございます」
なんだろう。アンセル様、やたら上機嫌になった。
数時間だけ仮眠して、アンセル様は出勤されたようだけれど、私は甘えてお昼まで眠った。
昼過ぎにやってきたフェンリルに支度をしてもらいながら、アンセル様の昨日の質問の話をした。
私の髪をくしでときながら、
「いや、そこは『プリシラの好みはアンセル様です☆いやだぁー分かっていらっしゃるくせに☆』とか言うところでしょう―? なんでアンセル様と違う好み言っちゃいますかねー」
「私、自分のこと名前で呼ばないし……」
「もう!」っと怒っているフェンリルに、私は突っ込みを入れた。
いや、普通の恋人とか夫婦ならね?相手と明らかに違う好みあげたらまずいって分かるわよ?
でも私たち、ただの契約結婚だから。
逆にアンセル様お好きな方がいらっしゃるし、私に好意向けられていると感じたら困ると思うんだけど。
んんー。難しい。
「だいたいプリシラ様は、ご自分のお立場に胡坐をかきすぎですよ! 今日はアンセル様がお帰りになったらご機嫌をとりましょう」
フェンリルに説教されながら、私は昨日の質問に何と答えれば正解だったのか、悶々と考え続けていた。
★★★
番外編書くと蛇足になりそうな気がしたんですが、結構書いていたのでこれだけ。
小ネタも使いたかったので入れました。
これでプリシラとアンセルの物語は終わりです。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
もう一度君の姿を見たら、そんな偽善者ぶった考えは捨て去らずにいられなかった。
プリシラが外出するのはかなり稀だ。
父の知人の娘の結婚式に、僕も行くことになった。乗り気でなかったが、そこに君がいた。多くの着飾った令嬢の中でもプリシラのことはすぐにわかって、心臓が止まりそうになった。非常に稀有な髪色を持っていなかったとしても、僕はきっとすぐに君を見つけた。
ステンドグラスから差し込んだ光がプリシラに当たり、長い魅力的なピンク色の髪が輝いてる。
プリシラはあまりに、あまりに美しくて、そんな君が、誰かの物になるなど、気が狂いそうだった。
横顔をじっと見つめていたら、視線を感じたのかプリシラがゆっくりと振り返った。
そのとき確かに、僕とプリシラは目が合った。
その瞬間、心臓を鷲掴みされたようだった。
ひさしぶりに、二人の時間が交差した。
プリシラは不思議そうに瞬きをして小首を傾げ、またすぐに顔を戻してしまった。
僕はどんなに汚れても、君を手に入れると決めた。
帰宅すると、僕はすぐさま父の仕事部屋に赴いた。
「プリシラと結婚します」
僕の申し出に、父は苦い顔で、
「伯爵に破棄させられただろう。どう説得するつもりだ?」
「非合法なことはしませんので、安心してください」
父はせっかく整っていた髪をかきむしりながら、
「本当にいいのか? ……お前の選ぼうとしている道は、思った以上に苦しいぞ。報われる保障なんか、どこにもない。後悔しないよう、もう一度よく考えて……」
「後悔なんて、するはずがありません」
僕はきっぱりと答えた。
「考えて考えて、プリシラが別の男と一緒になる、そのことのほうが、身を切るほど辛いと痛感しました。想像しただけで狂いそうになる。万一そうなったら、相手の男を殺してプリシラを無理やりでも僕の物にします」
「……アンセル」
「プリシラが僕をどう思うか、なんて関係ありません」
明かすつもりは毛頭ないが、全ての真実を知ったプリシラが僕をいくら憎悪したって、関係ない。プリシラの気持ちがどうであろうと、僕はもう、離すつもりはない。
遠くから見守ろうなんて、そんな生易しい感情はとうに地獄の業火に焼き捨てた。
好きだとか嫌いだとか、もはやそういう次元ではないのだ。僕にとってのプリシラは。
例えるなら、空気。水。食事。
僕が生きることに必要なもの、それがプリシラだ。
やっとの思いで掴んだはずの幸せが、粉々に砕けて、指の間からすり抜けていったあの日。
失われた未来を、どうしたらもう一度取り戻すことができるのか。どうしようもないことなのに、僕はそればかりを考えていた。
「……お前はガンコだからな。プリシラと伯爵をちゃんと説得したのなら、私が反対する理由はない」
「感謝いたします。父上」
渋っていた父をようやく説得し終え、僕は部屋を出た。
「……もうすぐ。僕のものにするからね。プリシラ」
僕は自分の部屋に向かいながら、彼女を手に入れる計画を立て始めた。
小ネタ
「君は男の好みがあるのか?」
寝る支度をしていると、唐突にアンセル様が、訊ねてきた。
(何かしら。いきなり)
不思議に思いながらも、私は少し考えて答えた。
「え?そう、ですね……。背は高いほうがいいです。軽薄だったり、騒がしい方もいやですね。どちらかと言えばお顔立ちも端正な方がいいですし。しいて言うなら、マルス王国のアーノルド・フォン・フィリップ様、でしょうか。年が離れていると甘やかしてくれそうですし」
十歳差もあればさぞ甘やかしてもらえるだろう。
寡黙だけどお優しくて、ヴィオレット様がうらやましい……!かなりの美男美女のご夫婦なので、お子様が生まれたらかなり美形だろう。
私の答えを聞いて、アンセル様の口元がなぜかぴくぴくとひくついた。
「……よし。可愛がってくれる男が好みなんだな?じゃあ、僕が君をかわいがってやる」
(笑顔なのになんか怖い! いや、可愛がってくださる顔じゃありませんよね!?)
「ア、アンセル様!? どうかされました!?」
それから明け方近くまで私はたっぷりと可愛がられた。気絶こそしていないが、さすがにぐったりして起き上がる元気もない。
そんな私を見て、アンセル様はなぜか嬉しそう。
隣に寝そべりながら、
「年下でも、これだけ可愛がれば満足したか?」
私の可愛がって欲しい意味合いとだいぶ違ったのだけれど……。
年下……?
ああそうか。
「いつも落ち着いていて大人びていらっしゃるので、アンセル様が年下ってことを忘れてました。頼りがいがありますし」
割と甘やかされているし、私のほうが年下な気がしていた。
私の言葉に、アンセル様は目を丸くしたあと、優しく細めた。
「ふうん。僕は頼りがいがあるか。そうか。フェンリルには伝えておくから、今日はゆっくり休め」
「は、はい。ありがとうございます」
なんだろう。アンセル様、やたら上機嫌になった。
数時間だけ仮眠して、アンセル様は出勤されたようだけれど、私は甘えてお昼まで眠った。
昼過ぎにやってきたフェンリルに支度をしてもらいながら、アンセル様の昨日の質問の話をした。
私の髪をくしでときながら、
「いや、そこは『プリシラの好みはアンセル様です☆いやだぁー分かっていらっしゃるくせに☆』とか言うところでしょう―? なんでアンセル様と違う好み言っちゃいますかねー」
「私、自分のこと名前で呼ばないし……」
「もう!」っと怒っているフェンリルに、私は突っ込みを入れた。
いや、普通の恋人とか夫婦ならね?相手と明らかに違う好みあげたらまずいって分かるわよ?
でも私たち、ただの契約結婚だから。
逆にアンセル様お好きな方がいらっしゃるし、私に好意向けられていると感じたら困ると思うんだけど。
んんー。難しい。
「だいたいプリシラ様は、ご自分のお立場に胡坐をかきすぎですよ! 今日はアンセル様がお帰りになったらご機嫌をとりましょう」
フェンリルに説教されながら、私は昨日の質問に何と答えれば正解だったのか、悶々と考え続けていた。
★★★
番外編書くと蛇足になりそうな気がしたんですが、結構書いていたのでこれだけ。
小ネタも使いたかったので入れました。
これでプリシラとアンセルの物語は終わりです。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
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この作品好きで忘れた頃にまた2度目で読んでいました!すみませんが、アンセルが好きだった人の髪色がルビーの様に赤いというのの答え合わせというか、その矛盾がわかる真実のわかる回はどこの回の話でしょうか?見逃したのか探しても見つからずわからずしまいで気になってしまって!(><)
何度も読んでくださり嬉しいですー!
これですね、一応私も読み返したのですが、私が入れ忘れたのでどこにもないです。すみません。:゚(;´∩`;)゚:。
答え合わせ回を番外編ででも入れるつもりだったと思われます……
要するにプリシラの幼少期は赤毛のストレートだったのが、ピンク髪のウェーブに変わっております(• ▽ •;)
鳴らされていない→慣らされていない
隠微→淫靡
です(ΦωΦ)
18禁、難しい言葉が多いですね〜、
頑張ってください。
騎士団長~はようやく本を手に入れました!
田舎だからかなかなか見つからず(笑)
今週末に読みますね(*´ω`*)
途中から忙しくて読みそこねたし…orz
ああー。見返したんですが漏れありましたね(;´Д`)ありがとうございます!後ほど修正します!
ご購入もありがとうございます(*´∀`)
ウェブからめっちゃ改稿頑張ったので、楽しんでもらえると嬉しいです(๑•̀ㅁ•́๑)✧
気に入ってくださりありがとうございます。
アンセルは一途です( *´艸`)
ご感想ありがとうございました(*'ω'*)