恋愛 泣ける小説 小説一覧

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「はじめまして」としか、言えなかった。

「はじめまして」としか、言えなかった。
「はじめまして」 声を失った彼女は、震える手でそう書いた。 けれど、それは二人にとって――二十七回目の出会いだった。 二十四歳の燈は、若年性の記憶障害を抱えている。 朝になるたび、昨日の出来事が少しずつ薄れていく。壁一面の付箋と、未来の自分へ残す録音だけが、失われていく日々をつなぎ止めていた。 ある夕暮れ、燈は海辺で、声の出ない女性・凪と出会う。 凪は燈の好きな味を知っていた。 薬の時間も、部屋の物の場所も、忘れているはずの幼い頃の癖さえも。 「僕たち、本当に初対面ですか」 その問いに、凪は答えない。 ただ悲しそうに笑い、彼のそばに居続ける。 四時十四分で止まった腕時計。 青いリボンの結ばれた古いレコーダー。 壊れた木馬。 海辺で拾い集められた青いガラス。 そして、存在しないはずの弟――海。 レコーダーの水音の向こうから、幼い声が聞こえる。 「……お兄ちゃん」 忘れている燈と、すべてを覚えている凪。 二人が白い灯台へ辿り着いたとき、十年前の海難事故に隠された真実が、止まっていた時間とともに動き始める。 なぜ凪は声を失ったのか。 なぜ燈は弟の存在を忘れたのか。 そして凪は、何度忘れられても、なぜ彼を見つけ続けるのか。 これは、記憶を取り戻す物語ではない。 たとえ何もかも忘れても、もう一度、同じ人を好きになれるのか。 何度でも「はじめまして」から始まる、喪失と再生の純愛ミステリー。
恋愛 連載中 長編
感想数 0 文字数 12,975 最終更新日 2026.07.31 登録日 2026.07.31
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