人事の超プロが教える、リストラ時代を生き抜く戦略

実は中高年の「頑張り」が会社を救う時代が来た!!

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「磯野波平さん」の年齢を知っていますか?

あなたは「磯野波平さん」の年齢を知っていますか? そう、あの国民的人気アニメ『サザエさん』に登場する、サザエさん、カツオくん、ワカメちゃんのお父さんで、フネさんの旦那さん。家ではいつも着物姿で、ハゲた頭頂部に1本だけある髪の毛がトレードマークの波平さんです。

アニメの公式ホームページを見て、私はびっくりしました。サザエさん一家のキャラクター紹介には、次のように書かれています。

磯野波平 NAMIHEI ISONO / いその なみへい
年齢は54歳。威厳と貫禄たっぷりのお父さん。曲がったことが大嫌いで気難しいところもありますが、情に厚くお人好しの面もあります。趣味はたくさんあり、囲碁・盆栽・釣り・俳句・骨董品の収集などなど。(『サザエさん』公式ホームページより)

なんとまだ「54歳」だったのです。波平さんのような「50代」って、あなたの周りにいらっしゃいますか? 私の知り合いには1人もいません。

私自身も50代です。波平さんより年上の56歳になりましたが、「威厳や貫禄たっぷり」なんてことはまったくありませんし、囲碁や盆栽、俳句、骨董品の収集もしていません。
髪の毛だって波平さんよりもあります。

実際の50代は、もっと若いですよね。今の世の中に波平さんのような50代は、たぶんいないと思います。現代の感覚では、波平さんは75歳くらいに見えます。

『サザエさん』の原作漫画が始まったのは、戦後まもない昭和21年。今から75年前の1946年です。アニメが始まったのは、昭和44年。ちょうど今、51〜52歳の人たちが生まれた1969年です。

『サザエさん』の物語は、基本的に時間が止まっています。波平さんは、75年前、あるいは50年前の54歳なのです。

でも、今の若い人たちにとっては、「50代」といえば、波平さんのようなイメージのままなのかもしれません。

いえ、若い人だけでなく、実際に50代になっている人ですら、そう思っている人が多いかもしれません。その「50年前のイメージ」が、昨今の早期退職・希望退職という名のリストラに大きく影響しているように思えるのです。

50年前と変わらない「50代のイメージ」

50年前の日本は、高度成長期でした。日本人はみな若く、平均年齢は20歳代。経済は右肩上がりに成長していました。終身雇用が保証され、リストラなんて言葉もなかった時代です。当時の定年は55歳。波平さんは、定年まであと1年です。
だから、あくせく働いたりせず、趣味を楽しみながら、残り少ないサラリーマン人生を謳歌されていたのでしょう。

一方、現在の日本は、少子高齢化が進み、平均年齢はほぼ50歳、定年は60歳まで伸び、65歳までの雇用確保義務が段階的に実施されています。2021年には、70歳までの就業機会の確保が努力義務になりました。
年金の支給年齢もどんどん引き上げられています。日本経済はバブル崩壊以降、30年にわたってほとんど成長できない状態が続いています。

この50年で、日本は大きく変わりました。にもかかわらず、50年前と同じ、年功序列型の給与制度を続けている会社が多くあります。

年功序列型とは、「後払い」の給与制度です。若いうちは給料が少ないけれど、40〜50代になったらたくさんあげますからね、という仕組みになっています。
1971年から1974年にかけての第二次ベビーブームなど出生数の多かった世代が、今では40〜50代になり、給与が最も高い世代になりました。

多くの会社で、この世代によって増えすぎた人件費が経営をひっ迫するようになり、このまま放っておいたら、あと20年も30年もこの状態が続くことになります。

だから企業は、45歳以上の早期退職・希望退職という名のリストラで、40〜50代の人数を減らそうとしているのです。年収1000万円の40〜50代を1人リストラすれば、300万円の20代を3人雇えます。

もちろん40〜50代であれば、誰彼かまわずリストラしようとしているわけではありません。パナソニックでは2021年7〜8月に実施した早期退職制度で1000人超の社員が退職しましたが、これについて楠見雄規社長は「退職を選んだ社員の中には、将来の活躍を期待していた人材も含まれていた」として、組織再編のねらいなど、社員への説明が不十分だったという認識を示しました。

50代の社員であっても、豊富な経験に基づく的確な判断能力や危機管理能力、長年の経験によって身につけた専門性の高い知識や高度なスキルに期待する声は多くあります。ただ一方で、成長意欲の低い50代の社員に関しては「新たな知識を取り入れようとしない」「昔のやり方に固執する」「やる気がない」「すぐにでも辞めてほしい」など、厳しい声もあがっています。

要は、これ以上、成長しようとせず、期待もできない人は、45歳以上になったら早期退職・希望退職をしてほしい、ということなのです。

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プロフィール

西尾 太
西尾 太

人事コンサルタント。フォー・ノーツ株式会社代表取締役社長。「人事の学校」主宰。
1965年、東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。いすゞ自動車労務部門、リクルート人材総合サービス部門を経て、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)にて人事部長、クリーク・アンド・リバー社にて人事・総務部長を歴任。
これまで1万人超の採用面接、昇降格面接、管理職研修、階層別研修、また多数の企業の評価会議、目標設定会議に同席しアドバイスを行う。
汎用的でかつ普遍的な成果を生み出す欠かせない行動としてのコンピテンシーモデル「B-CAV45」と、パーソナリティからコンピテンシーの発揮を予見する「B-CAV test」を開発し、人事制度に活用されるキャリアステップに必要な要素を体系的に展開できる体制を確立。これまで多くの企業で展開されている。また2009年から続く「人事の学校」では、のべ5000人以上の人事担当者育成を行っている。
著書に『人事担当者が知っておきたい、10の基礎的知識。8つの心構え』(労務行政)、『人事の超プロが明かす評価基準』(三笠書房)、『プロの人事力』(労務行政)、『人事の超プロが本音で明かすアフターコロナの年収基準』(アルファポリス)、『超ジョブ型人事革命 自分のジョブディスクリプションを自分で書けない社員はいらない』(日経BP)などがある。

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