小さな幸せの見つけ方

食べ物をいただくということ

2018.04.16 公式 小さな幸せの見つけ方 第18回
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忘れてしまった眼差し

私はよく近所のファミリーレストランを仕事で利用することがあります。自宅だと、なかなか集中できないということもあって、ノートパソコンを持ち込み、簡単な食事とドリンクバーを頼んで、夜遅くまで仕事をすることがあります。

先日の週末、大量の仕事があったので、いつもより少し早い午後のお茶の時間帯からファミリーレストランに行き、仕事をしていました。一段落し、ふと時計を見ると、もう夕飯どきの時間になっていました。休憩しよう席を立ち、ドリンクバーでカップにコーヒーを入れて戻ってくると、私の右横のテーブルに一組の家族が案内され座っていました。お父さん、お母さん、そして小学生くらいの娘さん二人の四人家族でした。

テーブルに座るなり、皆さん嬉しそうにメニューを開き、何を注文しようか話しはじめました。すると、お父さんが上の娘さんに「もう高学年になるんだから、今日からお子さまメニューではなく、普通の大人が注文するメニューから選んでみてごらん」と伝える声が聞こえてきました。お姉ちゃんは注文の選択肢が増えたこと、そして自分が大人になった気分で嬉しいのか、楽しそうにメニューをのぞき込んでいました。

そして、注文した料理が届くと、その量の多さに驚いたようでしたが、手を合わせて「いただきます」と口にしてから食事をし始めました。私はちょうどコーヒーを飲み終えたので、休憩を止めて仕事に戻りました。それからしばらくすると、隣のテーブルから泣き声が聞こえてきたので見てみると、さっきのお姉ちゃんがむせび泣いていたのです。

お父さんもお母さんも突然のことで驚き、泣いている理由をお姉ちゃんに聞いていました。すると、お姉ちゃんは「ご飯を全部食べることができない」「食べ物がかわいそう」と答え、また泣き始めたのです。お父さんとお母さんは思わず顔を見合わせ、ニコリと微笑み、「大丈夫」「お父さんが食べてあげるから、心配しなくていいよ」と優しい声をかけ慰めていました。

私は、隣で勝手に二つのことに関心し、しばらく仕事に手がつかなくなりました。一つは、お姉ちゃんの食べ物に対する優しい気持ちです。私はこのような優しい気持ちをしばらく忘れてしまっていた気がしました。感謝して食べ物を摂取することはあっても、「かわいそう」という気持ちまでは感じていませんでした。この深く温かいお姉ちゃんの眼差しに感動し、自分の「食べ物に対する姿勢」を反省させられました。

もう一つは、お父さんとお母さんの教育です。お姉ちゃんに、この優しい眼差しを育んだのは、お父さんとお母さんの教育のはずです。私も子どもを持つ親ですが、どのような育て方をすればこんなに優しい眼差しを持つ子どもに育てることができるのか、直接お聞きしたいくらいでした。見たところ、私より少し年上のご夫婦でしたが、本当に素晴らしい方々なのだろうと尊敬の念を抱きました。

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プロフィール

大來尚順
大來尚順

浄土真宗本願寺派 大見山 超勝寺 住職
著述家/翻訳家

1982年、山口市(徳地)生まれ。龍谷大学卒業後に渡米。米国仏教大学院に進学し修士課程を修了。その後、同国ハーバード大学神学部研究員を経て帰国。僧侶として以外にも通訳や仏教関係の書物の翻訳なども手掛け、執筆・講演・メディアなどの活動の場を幅広く持つ。2019年、龍谷大学 龍谷奨励賞を受賞。著書に『あなたは、あなた。』(アルファポリス)『超カンタン英語で仏教がよくわかる』(扶桑社) 『小さな幸せの見つけ方』(アルファポリス)など多数。

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