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第百二十三話

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 最近ギンガと行動する事が増えたが、エリシアが焼きもちを妬いている様だ。どっちに妬いているのかはよく分からないが。

「ズルいぞリュート。私にもギンガを貸してくれ。」

「家に居る時はずっと構ってるだろう?」

「そうではない。そうやって肩に乗せて歩きたいのだ。」

 俺は良くギンガを肩に乗せている。これはギンガと小声で会話する為なのだが、エリシアには、何か他の理由がある様だ。

「悪いが仕事中は駄目だ。家に帰る時なら貸してやる。」

 これから俺は最近恒例のパトロールに出かける。エリシアたち3人は討伐に行くらしい。

「解った。では仕事が終わったらギルドで待ち合わせだぞ。」

 エリシアたちを見送ると、人気のない場所を探し、今日は北東の森へ転移する。

「どうだギンガ、今日はまだ奴は現れていないか?」

 するとギンガが目をつぶって意識を集中する。

「ふむ、新しい邪神の子は生まれてない様だ。」

 俺はギンガと言う邪神の子に対するレーダーを手に入れた。そして、異次元マジックバッグと言う対処方法も見つけた。邪神の子が現状のままであれば、十分対抗できる。しかし、邪神の子が更に進化したら、手に負えない可能性もある。残すタイムリミットは4か月余り。人類が生き残る為には払う犠牲を最小限にしなければならない。幸い、今までに現れた邪神の子は積極的には行動していない様だ。他のフェンリルたちが上手く抑え込んでいるのか、生まれたてが一番狂暴なのかは分からない。

 ギンガと森を探索しながら強すぎる魔物は退治して行く。これは他の冒険者の犠牲を出さない為だ。それと全て狩らないのは、生態系を崩すと強い魔物が雪崩れ込んで来る可能性があるからである。

 Sランクでは対抗できない位にまで強くなっている魔物を20匹位狩り、アイテムボックスに放り込んで置く。疲れたので少し休憩だ。冷やした水を飲もうとするとギンガも欲しがるので与えてあげる。

「主、腹が減ったぞ。」

「お前、数百年食べなくても大丈夫なんじゃ無かったか?」

「大丈夫だが腹は減る。」

 適当にアイテムボックスを漁っていると商店街で購入したお惣菜に混じって、昔入れた牛丼が出て来たので悪戯心で出してみる。

「これ、食うか?」

「なんだか分からんが良い匂いだ。食うぞ。」

 ギンガは牛丼に喰いついて一気に食べ切った。

「なんだこれ?無茶苦茶美味いぞ。もっと無いのか?」

「最後の1杯だ。後は商店街で買った総菜位しか無いな。」

「もっと味わって食えば良かった。」

 どうやら牛丼はフェンリルにも好評らしい。試しに家で作ってみるか?いや、米が無いな。

 なら、角煮はどうだろう?オークの肉で代用すれば醤油と砂糖もあるしな。あ、しょうがってこの世界に合ったかな?

 一旦狩りを中断して、町へ戻る。商店街に行き。まず、ハーブを扱って居そうな店を探す。薬屋かな?

 薬屋に入って生薬について聞きたいと言い。しょうがの事を聞き出す。どうやら体を温める薬として乾燥した物は販売しているらしい。

「乾燥していない生の物は何処で買えるんだ?」

 そう聞くと、八百屋にたまに入っていると言うので、八百屋に向かう事にした。

 八百屋に着き、しょうがの事を聞くと、肉の臭みを取る根っこだねと言われたのでそれだと答えた。

 八百屋のおじさんは、それなら裏の畑で栽培しているよと、答え、どの位必要かと聞かれた。

「なるべく大きめなのを一つくれ。」

 そう言うと裏の畑に堀りに行った。暫くすると掌くらいのサイズの根ショウガを持って帰って来た。

「幾らだ?」

「これは本来は売り物じゃ無いんだ。肉を美味く食べる会ってのがあってね。そこの会員に無料で配ってる物だ。」

「ほう?それは興味深い会だな。どうやったら入れる。」

「特にどうこうは無いな、入りたいって言えば入れてくれる。」

 じゃあと言って、アイテムボックスからハーブソルトとガーリックソルトを出しおじさんに渡す。

「これを焼いた肉に掛けて食べてみてくれ。気に入ったら会に入れてくれればよい。」

「ほう?これはハーブの香りだな。」

「肉に合う様に調合してある、塩も入ってるからそれ1本で味付けが完了するぞ。」

「気に入った。この根っこは持って行け。後でどう使うか教えてくれ。」

 その後、長ネギらしき物があったのでそれも購入する。

 次は肉屋だ。ここの所、討伐依頼が多いので何処の肉屋も質の良い新鮮な肉が並んでいるらしい。

「オーク肉の脂が多い所が欲しいんだが。」

「脂が多い所?変な注文をするな。普通オーク肉は脂が少ない所が美味いんだぞ。」

「ああ、料理法の問題だな。ちょっと肉を見せてくれ。」

 肉屋のおやじがオーク肉の塊を持って来る。思った通り豚肉だ。ここのあたりをくれと指で赤身と脂身の境が半々になった部分を指定する。

「こんなに脂身が多い部分を使うのか?」

「ああ、そう言う料理を作る。」

「もしかして、肉を美味く食べる会か?」

「おやじさんも知ってるのか?」

「俺も会員だからな。」

 ハーブソルトとガーリックソルトを1本ずつ出して、じゃあ、これやるよと言って金を払ってから肉屋を出る。

 これで家に帰れると思ったら、鍋が無い事に気が付いた。小さな鍋はあるが、これを作るには寸胴が必要だ。

 金物屋に寄って寸胴を買おうとしたらサイズが結構ある。あまりでかいと扱いにくいので中くらいの奴にして置いた。それでも一抱えはある。アイテムボックスに入れて今度こそ家に帰る。

 家に着いたら早速調理開始だ。タコ糸は売って無かったので肉を切ったらフライパンで焼き目を付けて沸騰したお湯に長ネギの青い部分とショウガを適当にスライスした物を入れて肉をぶち込む。

 暫く煮込んで一旦お湯を捨てる。これでだいぶ脂臭さが飛んだはずだ。今度はお湯を沸かし醤油と砂糖を入れ、ショウガのスライスを加えたあと静かに肉を戻し、弱火で味を入れて行く。肉はかなり柔らかくなっているので30分も煮れば良いだろう。卵があれば半熟煮卵も作れるのだが、こちらの世界の卵は半熟で大丈夫か?と思ったのでやめた。

 出来上がった角煮?煮豚?は半分は1つずつビニール袋に入れてアイテムボックスに、半分は寸胴のままアイテムボックスに居れた。

 なんだかんだで2時間半くらい掛かったがまだ明るい。ギルドへ向かうついでに肉屋と八百屋に1袋ずつおすそ分けして来た。

 ギルドでエールを呑んで待っていると。エリシアたちが帰って来る。笑顔なのでかなり儲かったのだろう。そう言えば俺の狩った素材も換金しないとな。

 この時間の買取所は混んでいるので先に並んでおく。今は常時依頼のみなのでエリシアたちも窓口に行かず買取所へと並ぶ。ギルド職員の1人が俺が並んでるのを見て、慌ててやって来た。なんか倉庫へ連れていかれた。

 職員にどの位狩ったんですかと聞かれたので半日だからそんなに無いよと答えると安堵の表情になった。

 出して下さいと言われたので20匹ほど出す。20匹って少ないよね?でも職員の顔が引きつっている。

「あれ?少ないと思うけど?」

「数は問題じゃありません。なんで、こんな大物ばかり?」

「他の冒険者が怪我をしない様に間引いているんだよ。」

「それは、ありがたいですけどね。」

「幾らになる?」

「金貨423枚ですかね。」

「端数は切って構わないよ。400枚で良い。」

「助かります。」

 そう言って書類を書いてくれた。これを窓口に出すと換金してくれる。

 窓口に向かうとエリシアたちも査定が終わった様だ。

「今日は3で割れるぞ。金貨33枚だ。」

「良かったな。約束だギンガ、エリシアの肩に乗ってやれ。」

 そう言うとギンガがポンとエリシアの肩に飛び移る。エリシアが嬉しそうだ。何故かミントとシーネも羨ましそうな顔をしている。

 エリシアたちが報酬を受け取ると。今度は俺の番だ。紙を受付嬢に渡すと険しい顔になる。

「あの、白金貨でも良いですか?この所、金貨が大量に出るので金貨が不足気味なんですよ。」

「ああ、じゃあ、カードに貯金で頼むよ。」

「ありがとうございます。」

「白金貨ってなんだ?」

 エリシアが聞いて来る。

「ああ、金貨が不足気味らしくてな、白金貨での支払いになった。」

「ちなみに何枚だ?」

「4枚。」

「私たちは苦労して一人頭金貨11枚だぞ。」

「おう。よく頑張ったな。」

「違う!リュートは何で一人で金貨400枚も稼いでるんだ?」

「ああ、一人じゃ無いぞ。ギンガも居たからな。」

「理不尽だ。」

「理不尽ですね。」

「確かに。」

 あれ?なんで3人共怒ってるの?

 家に付くまで3人の機嫌は直らなかった。だが家に着くとソレに気付いた様だ。

「なんだこの食欲を刺激する匂いは?」

「兄貴まさか一人で美味しい物を食べたんじゃ?」

「いやいや、料理の試作をしてただけだよ。ちゃんと残してあるから安心して。」

 とりあえず3人は報酬の分配をして、明日の予定を立てている。

 その間に俺は夕食の準備だ。パンを2個ずつと惣菜屋で買ったスープをテーブルに並べてから、鍋を出し。角煮を一人ひと塊ずつ皿に盛った。フォークとナイフを付ける。

「食事が出来たぞ。その辺で切り上げて温かい内に食べてくれ。」

「ほう?匂いの元はこれか?」

「なんて言う料理です?」

「角煮かな。」

「これは、初めて食べる味だが懐かしい気がする。」

 確か肉ってトロトロになるまで煮込むと似た様な味になるんだよね。

「パンに挟んで食うと美味いぞ。」

 そう言ってナイフでパンに切れ込みを入れて角煮を挟んでエリシアに渡してあげる。ミントとシーネも真似をしてる。

「本当だ。汁気をパンが吸って何とも言えない食感になるな。」

 結局一塊では足りずにお替りをする3人。大量に作って置いてよかった。
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