ひきこもりでも恋をしたい
黒川透、二十三歳。
三年前の挫折を境に、彼の世界はワンルームの玄関で止まったままだ。
外に出るのが怖い。
見られるのが怖い。
けれど、スマホとゲームの画面だけは、彼を置いていかなかった。
ある日、宅配ボックスの誤配。
封筒の宛名は「春原いろは」。
隣室の住人で、看護師見習い。
共用アプリで言葉を交わし、同じ協力ゲームの“相棒”だと知れる。
いろははオフだと口下手で、時々噛む。
透は外が怖いが、観察眼は鋭い。
弱点が噛み合い、二人は「毎週、一歩だけ進む」互助条約を結ぶ。
玄関の敷居を越える。
廊下を五歩。
エレベーターに乗り、ポストを開け、深夜のコンビニで店員に頷く。
停電の夜には、壁一枚越しの声が不安を照らす。
ときにSNSの誤解に傷つき、ときに仕事の面接で固まる。
それでも、いろはの「無理しないで」が背中を押す。
そして透の「ありがとう」が、いろはの夜勤明けを支える。
少しずつ距離は縮まり、駅前で自販機のボタンを押し、水族館で青い光を見上げる日が来る。
手をつなぐまでの100歩。
交際、半同棲、家族への挨拶、新居、そしてプロポーズ。
“できた一歩”を二人で喜ぶことが、恋になる。
玄関から世界へ――一緒なら、行ける。
三年前の挫折を境に、彼の世界はワンルームの玄関で止まったままだ。
外に出るのが怖い。
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いろははオフだと口下手で、時々噛む。
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