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2章

奴隷 3

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 ジャスパーさんの後について行くと、渡り廊下の先に大きな扉の前に立った。

「ここにいるのですが。何と言うか見た事のない状態でして……」
「ん?どういう事?」
「えっと、いや、見ていただいた方が早いですね。どうぞ」

 扉を開けて中に入る。中には二人の女性が椅子に腰かけていた。二人共二十歳を越えたぐらいの年齢だろうか?一人は獣人族なのでわかりにくいがギルドのニーナさんと同じくらいに思える。

「この子はジェマ、獣人の子がアビーこの子達は、別々の酒場で働いていたのですが、一ヶ月ぐらい前に何と言っていいのか肌が大変な事になってしまって……」

「んー?ちょっと診せてもらっていいですか?」
 その言葉を聞いて二人はビクッと肩を揺らした。獣人の子が意を決して立ち上がる。

「わ、私は腕にこんなのが……」
 そう言って長袖を捲し上げて二の腕の裏側を見せる。その腕の肌には前に見た事がある物があった。

「ん?今、診断しますね」
【診断】

『マスターこれは前に診たのと同じ呪いですね』
≪やっぱりか、呪いをかけたのは同じ奴かな?≫
『断定は難しいですね。この程度の呪いでしたら、やり方と道具さえそろっていれば誰でも出来てしまいますし』
≪うーん、断定は出来ないか。わかった。犯人捜しは後回しでこないだみたいに治しちゃおうか≫
『了解しました』

「お待たせしました。これは病気じゃなくて呪いですね」
「「「えっ?呪い?」」」
ジャスパーさんも加わって三人で声を揃えて驚いていた。

「じゃあ、私も同じのが足の所にあるんです。これも同じ呪いなんですか?」
 ジェマさんがそう言いながら、右のふくらはぎの包帯を外しながら見せる。

「えっと、ちょっと診ますね」
【診断】
『これも同じで呪いです』
≪うん、ありがとう≫

「はい、こちらのも同じ呪いですね」

「いったい誰がこんな呪いをかけるだなんて」
ジャスパーさんが悔しそうに右手を握る。

「うーん、お二人は何か思い当たる事や人なんかいますか?」

「えっと、この症状が出たのが一ヶ月くらい前で、その頃のお客さんで……思い浮かばないわ。注文取ったり料理を出したりで、軽口をたたきながらやってるからどのお客さんがって言われてもわからないわ」
「私も一緒かな」

「なるほど、まあ、犯人捜しは後にしましょう。まずは解呪しちゃいますね」

「「「え?」」」
 さっきと同じように三人は声を揃えて驚いていた。
「ヒデ様は解呪も出来るんですか?」

「えっと、はい、前に同じ様な呪いを解呪しましたので出来ると思いますよ」

「ハァー。ほ、本当に出来るの?良かったー今は長袖を着てればいいけど暑い季節になったらどうしようかと思っていたのよー」

 アビーさんは笑い話の様に流しているが、最初のため息が心底ホッとしたような感じがした。もう一人の女の子は涙を流して喜んでいた。

「ここ一ヶ月仕事を休むわけにもいかないので、ズボンを穿いて仕事も厨房に回してもらったりとかしてたんです。でもこれで元に戻るんですよね?」

「はい、大丈夫ですよ。今すぐに解呪しますから今晩からでも出来ますよ」

「お願いします。治療費は報酬とは別にお支払いします。この子達を治してあげて下さい」
ジャスパーさんが目に涙をにじませながら詰め寄って来る。

「んー、健康診断の報酬だけでも良いですよ?」
「いえ、ここは払わせてください。お願いします」
 更に詰め寄って来る。

「わ、わかりましたから、詰め寄ってこないでください」
「あ、すいません。ちょっと気が高ぶってしまって」

「じゃあ、順番に解呪しちゃいましょう」
まずはアビーさんを診断する。
【診断】

 こないだと同じように目の前に糸の様なものが見えてくる。もちろん呪った相手に呪いを返すためこのまま解呪の呪文を唱える。
 《ブレイクスペル》

 青白い光が呪いの部分を包み込むとガラスが砕ける音がした。砕けたガラスが逆再生のように集まると魔力の糸に引っ張られるように飛んでいった。

「はい終わりです、ウロコも消えました」
「本当だ。ありがとうございます。これで気にしないで働ける」

 アビーさんはピョンピョンと飛び跳ねて喜んでいる。だって、ウサギの獣人だもん。仕事中の姿はやっぱりバニーガール姿なのだろうか?
 などとよこしまな事を考えていたら、キャリーさんが咳ばらいをしたので我に返って急いでジェマさんの解呪も済ませた。

「ありがとうございます。本当に消えてるわ。これでまた元通りに働ける。今度酒場に来て下さいね。サービスしますから」
「あ、私の所も来てね!私もサービスしちゃいますよ」

「ハハ、その時はお願いしまーーー」
「ゴホン、お師匠様ジャスパーさんがお待ちですよ?」

「えっと、あ、治療費かな?治療費ならお一人銀貨一枚です」
 ジャスパーさんがポカンとした顔でこちらを見ている。

「へ?あの解呪が銀貨一枚なんですか?いやいや、私は魔法には疎いですが流石にそれは安すぎだと思うんですが?」

「いえ、うちは前から治療費は銀貨一枚ですから」
「しかし、それでは私の気が済まないですな。何かお礼がしたい」

「と言われてもお金は受け取らないですからね。じゃあ何か思いついたらお願いに来ますよ」
「わかりました。私も何か考えておきます」
 握手を交わす。そして、相変わらずの胡散臭い笑顔を浮かべている。ジャスパーさん

「それでは、完了でいいでしょうか?」
そう言うとキャリーさんが、冒険者ギルドの印が入っている依頼書を出して完了のサインを書いてもらっている。

 玄関まで見送ってくれたジャスパーさんと再度握手をして奴隷商館を後にした。

 その帰り道でキャリーさんに話しかける。
「キャリーさんさっきの二人の酒場に行ってみようと思うんだけど」
「はあ?なぜ私にお聞きになるんですの?」
 なんか、キャリーさんの周りに凄い怒気が満ちている。

「まあまあ、怒る気持ちはわかる俺も同じ気持ちだよ。行っても何も手掛かりは掴めないかもしれないけどキャリーさんも一緒に行ってくれる?」

「え?ああ、なるほど。ま、まったくですわ。あんな呪いをかけるなんて許せませんわ」
「うん、何とか真相を掴んで辞めさせないとね」
「ホホホ、流石はお師匠様ですわ。ホーホホホ」

 あ、なんか久し振りに聞いたなキャリーさんの高笑い。



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