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第3話 魔力の使い方

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――魔力操作の鍛錬を開始してから1年が経過した頃、遂にリンは瞑想せずとも自分の魔力の流れを感じ取れるようになった。日常生活を過ごしながらも魔力の存在を常に感じ取り、そして次の段階へ移行する。


「ふうっ……」


夜中にリンの自分の部屋で目を閉じた状態で右手を伸ばし、自分の体内に流れる魔力を感じ取りながら意識を集中させる。彼は体内の魔力を操り、右手に集中させようとした。


(力んでも魔力は集まらない……魔法は筋肉力で集めるんじゃない、精神力でしか操れないんだ)


本に書かれていた内容では魔法を扱うのに重要なのは精神力であり、右手に魔力が集まる想像を行う。リンの想像力が強ければ強いほど、体内に流れる魔力も反応して彼の意志通りに動き出す。

最初の頃は瞑想を行って魔力の流れを感じ取るのが精いっぱいだったが、今のリンは瞑想を行わずとも魔力の流れは感じ取れる。後は感じるだけではなく、体内の魔力を操る術を完璧に身に付けるだけだった。


(焦るな、いくら時間が掛かってもいいんだ。全身の魔力を……右手に送り込め!!)


体内に循環する魔力が徐々にだが右手に集まり始め、遂にテンは魔力を操る感覚を掴む。体内の魔力の殆どを右手に集めた途端、リンはその場で膝を崩す。


「はあっ、はあっ……ち、力が、入らない?」


右手に魔力の殆どを集めた結果、急に疲労が押し寄せてリンは立っていられずに座り込んでしまう。全身に巡っていた魔力を右手だけに集めた反動なのか、急に身体に錘が取り付けられたかのように重くなる。

だが、疲労を感じながらもリンは魔力を操作する事に初めて成功し、そして彼の右手にも異変が起きていた。体内の魔力の殆どが右手に集まった瞬間、彼の右手が光り輝く。


「こ、これが……魔力?」


右手に違和感を覚えたリンは視線を向けると、いつの間にか自分の右手が発光している事に気が付く。まるで右手に「白色の炎」が纏ったかのように思え、何処となく温かさを感じた。

リンは恐る恐る左手を右手に近付け、勇気を振り絞って触れてみた。その結果、白色の炎に触れる事に成功し、まるで粘土のように柔らかい事に気が付く。


「触る事ができる……何だか変な感じだ」


本物の炎と違って魔力で構成された白炎は触れても火傷は起こさず、炎のように揺らめているが実際に触ると柔らかさを感じ、不思議な気分だった。


「これが僕の魔力なのか……うっ、何だ!?」


急に頭痛に襲われたリンは頭を抑えると、右手の白炎が消えて魔力が再び全身に戻っていく。すると身体も軽くなり、頭痛も収まっていく。


「……痛みが引いた。なるほど、魔力を使いすぎると疲れるだけじゃなくて頭も痛くなるのか」


魔力を操作するのは精神力であるため、あまりに使用すると脳に負荷が掛かり、頭痛を起こす事が判明する。今の段階ではリンが魔力を一点集中させて維持できる時間は10秒程度であり、彼は疲れた様子でその場に座り込む。


「つ、疲れた……身体は楽になったけど、疲労までは治らないのか」


魔力を使用した際に起こる精神的な疲労は肉体にも影響を与え、まるで全力疾走した後のようにリンは疲れ切ってしまう。しかし、彼は遂に魔力を操る方法を身に付けた。


「これで魔法使いに近付けたのかな……?」


確実に自分が成長した事を実感したリンは笑みを浮かべ、星空を眺めた――





――魔力を初めて操れるようになった日からリンは毎日修行を行い、暇さえあれば魔力を操作する練習を行う。最初は右手に魔力を集めていたが、だんだんと慣れていくと今度は右手以外の箇所にも魔力を集中させる方法を試す。

色々と試した結果、魔力は身体の何処にでも集中させる事が判明した。腕、足、頭でも魔力を集められる事が判明し、どんな箇所でも魔力を送り込む事はできる。しかも魔力を集中させた場合、ある現象を引き起こす事が判明した。


「あいてっ!?」
「ウォンッ?」


ハクと共にリンは森の中に生えている果物や茸の採取を行う中、木の枝に引っかかって傷を負ってしまう。大した怪我ではないが血が出てしまい、それを見たハクが心配そうな表情を浮かべる。


「クゥ~ンッ……」
「大丈夫だよ、これぐらいの傷なら……ふんっ」


怪我をした箇所を確認してリンは意識を集中させ、体内の魔力を傷を負った箇所に送り込む。すると傷口の部分に白炎が発生し、徐々に傷口が塞がっていく。やがて血を拭うと傷跡は完璧に消えていた。


「ほらね」
「ウォンッ!?」


掠り傷程度の怪我とはいえ、ほんの数秒足らずで傷口が塞がり、完璧に治ってしまた。それを見たハクは驚くが、リンは怪我をした箇所を見て頷く。


(本に書いてあった通り、魔力は再生機能を強める効果があるんだ)


魔力はそもそも生物の生命エネルギーであるため、それを上手く利用すれば肉体の再生機能を強化して怪我などを治す事もできると書かれていた。魔法使いの中には怪我や病気も治せる「治癒魔導士」と呼ばれる存在がおり、彼等は回復魔法と呼ばれる魔法で他者を癒す事ができるという。

リンの場合は回復魔法と言う程に大げさではないが、自然治癒力を高めて怪我の治りを早くする事はできた。尤も怪我の度合いによって消費する魔力の量が違い、今回は掠り傷程度の怪我だったので簡単に治せたが、もっと酷い傷だったらどうしようもできなかった。


「うっ、ちょっと頭が痛くなってきた……少し休もうか」
「ウォンッ」


怪我を治した際にリンは魔力を多少消費し、頭痛を覚えた彼は身体を休ませる。失った魔力は休息を取れば回復するが、あまりに魔力を消費すると意識を失ってしまう。


(前にどれくらい魔力を維持できるか試したら、いきなり気を失って大変な事になった……)


少し前にリンは夜中に魔力を限界まで使い果たした際、急に意識が途切れて倒れてしまった。翌朝にマリアが外で倒れているリンを見て驚き、急いで彼を家の中に運んでくれた。

魔力を使いすぎて気絶すると数時間は目を覚まさず、しかも起きた後も頭痛が酷くてまともに動けるのに大分時間が掛かった。どうして外で気絶していたのかとマリアに問い質された時は寝ぼけて外に出て眠ってしまったと答えて誤魔化したが、流石にマリアにも怪しまれてしまう。


(あの時は本当に大変だったな。しばらくの間は夜に修行もできなくなったし……でも、師匠に知られると絶対怒られるからな)


マリアはリンが魔法使いになる事には今も反対しており、そんな彼が勝手に自分の本棚の本を読んで魔力を操る修行を行っていると知れば、どんな反応をするのか想像もできない。何があろうとリンはマリアには魔力の鍛錬を行っている事は知られないように注意していた。


「ふうっ……痛みも治まったし、そろそろ行こうか」
「クォオッ……」
「あれ、眠たいの?」


休憩中にハクは大きな欠伸を行い、眠たげな表情を浮かべて地面に寝そべる。リンは空を見上げて太陽の位置を確認し、夕方までに戻ればいいと言われたのでハクを休ませる事にした。


「いいよ、昼寝してて。俺もここで修行するから」
「ウォンッ……」


ハクはリンの言葉を聞いて安心したように眠り始め、彼の傍に居ながらリンはこの機会に魔力の修行を行う。今はマリアが傍に居ないので気兼ねなく修行に集中する事ができた。


「さてと、今日はどうしようかな……」


最初の頃と比べて魔力を操作する技術は大分向上しており、今のリンならば身体の何処にでも魔力を集中させる事ができる。しかし、今回は工夫を加えて一か所だけではなく、二か所に魔力を集中させる。
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