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第4話 魔力総量

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両手に魔力を同時に集中させるのは初めてだが、意外な事に魔力は簡単に集める事はできた。だが、片手に集めた時と比べて両手で行った場合、白炎の規模は小さくなってしまう。


「あれ、いつもより小さい……そうか、魔力を分けたせいか」


普段は一か所だけに集中しているので白炎も大きかったが、二つに分けた事で規模は半分程度になってしまう。だが、同時に二か所に魔力を集中させる事ができるのは確認した。

両手に纏った白炎の規模を確認し、今度は掌ではなく指先に魔力を集める事に集中する。すると掌に纏っていた白炎が10本の指の先端に移動し、集中すれば複数の箇所に魔力を送り込む事が証明された。


「くっ……これ、かなりきついな」


右手だけならばともかく、両手の指10本に魔力を集めるのはかなりの集中力を要し、一瞬でも気を緩めれば魔力が元に戻ってしまう。


「もっと魔力があれば他の箇所にも魔力を送り込めそうなのに……」


指先の魔力を見つめながらリンは考え込み、今のリンの魔力量は片手で白炎を包み込む程度である。掌を包み込めるぐらいの魔力しかなく、彼の魔力量では腕全体に白炎を包み込む事はできない。


「魔力を増やす方法、師匠なら知っているかもしれないけど教えてくれるはずないしな……」


魔法使いのマリアならば魔力を増やす方法を知っているかもしれないが、もしもリンが魔力を増やす方法を尋ねれば彼女は疑問を抱く。どうして魔法使いでもないリンが魔力を伸ばす事など知りたいのか理由を問い質してくるだろう。

リンは自分が魔力を操る練習を行っている事を明かそうかと考えたが、もしもそれをしればマリアは怒るだろう。彼女はリンが魔法使いを目指す事を許しておらず、正直に話せばマリアは魔力を増やす方法を教えてくれない。


「そうなると……やっぱり、他の本を調べてみるしかないか」


本棚にある本の中で魔力を増やす方法がないのかを調べようかと考えた時、ここで昼寝をしていたはずのハクが目を覚まして唸り声を上げる。


「グルルルッ……!!」
「ハク?どうしたの?」


突然に目を覚まして唸り声を上げたハクにリンは驚くが、ハクの視線の先には茂みがあった。何か隠れているのかとリンは身構えると、茂みから現れたのは額に角を生やした兎だった。


「キュイイッ?」
「えっ……兎?」


茂みから現れたのが兎だと知ってリンは警戒心を緩めかけるが、額に角を生やしている兎など見た事がない。だが、以前にマリアから額に角が生やした兎の話を聞いた事ある。


(待てよ、そういえば前に師匠に角が生えた兎を見たら逃げるように言われた事があったような……まさか!?)


森の中で角を生やした兎を見かけた場合、何があろうと逃げるようにとリンはマリアに言われていた。彼は目の前に現れた兎を見てマリアが語っていた存在だと気が付く。

彼の目の前に現れた兎の正式名称は「一角兎《ホーンラビット》」と呼ばれ、見た目は可愛らしいが実際は凶悪な生物であり、リンとハクに気が付くと目つきを鋭くさせて凄まじい勢いで突っ込んできた。


「ギュイイッ!!」
「うわっ!?」
「ウォンッ!?」


自分達に目掛けて突っ込んできた一角兎にリンとウルは慌てて左右に避けると、一角兎は二人を通り過ぎて樹木に激突した。この時に額の角が樹皮を貫いて根本まで突き刺さり、それを見たリンは顔色を変える。


(う、嘘だろ……あんなの喰らったらひとたまりもないぞ!?)


もしもリンが避けていなかったら一角兎の額の角に貫かれ、急所を刺されていたら間違いなく致命傷となっていた。しかも一角兎は角を樹木から抜くと、再びリンに目掛けて突っ込む。


「ギュイイッ!!」
「わあっ!?」
「ウォンッ!!」


またもや突っ込んできた一角兎に対してリンは驚愕の声を上げ、この時にハクがリンに体当たりして彼を突き飛ばす。ハクのお陰でリンは一角兎の攻撃から躱す事はできたが、その代わりにハクが一角兎の攻撃を受けた。


「ギュイイッ!!」
「ギャインッ!?」
「ハク!?くそっ、離れろっ!!」


ハクの胴体に一角兎の角が突き刺さり、更に一角兎は身体を回転させて角を押し込もうとする。それを見たリンは持っていた護身用の短剣を取り出し、それを一角兎に振りかざす。

リンが短剣を持って近付いてくるのを見た一角兎は本能的に危険を察知し、急いでハクの身体から角を引き抜いて離れる。リンはハクを守るために立つが、このままでは彼の方が危ない。


(ハクをすぐに治療しないと……けど、こいつを先に何とかしいないと駄目だ!!)


一角兎に対してリンは両手で短剣を握りしめるが、その腕は震えていた。見た目は可愛らしいが一角兎は非常に危険な生き物であり、子供が勝てる存在ではない。しかし、自分を助けてくれたハクを守るためにリンは勇気を振り絞る。


(絶対にハクを守るんだ……!!)


一角兎と向かい合いながらリンは短剣を握りしめ、どうやって戦うのかを考える。一角兎の角は樹木を貫く威力を誇り、仮にリンの身体が貫かれたらひとたまりもない。

短剣以外に武器になりそうな物はなく、怪我を負ったハクもまともに動けない。大分家から離れてしまったのでマリアが助けに来る事は期待できず、そうなるとリンができる事は一つだけだった。


「こ、こっちだ!!」
「キュイイッ!?」


足元に落ちていた小石を拾い上げてリンは一角兎に投げ込み、それに対して一角兎は咄嗟に小石を躱す。それを見たリンはハクから離れると、一角兎の注意をハクから自分に変える。


「お前の相手は僕だ!!かかってこい!!」
「ギュイイッ……!!」


リンが挑発すると言葉が通じているとは思えないが、彼の行動で意図を察した一角兎は鋭い視線を向けた。そして先ほどのように勢いを付けて彼に目掛けて飛び込む。


「ギュイイッ!!」
「うひゃっ!?」


自ら囮役となったリンだが、一角兎が突っ込んでくる姿を見て悲鳴を上げ、どうにか身体を反らして回避する事に成功した。一角兎は今度は遠くの方に飛び込み、地面に着地するとリンの元に向かう。


「キュイイッ!!」
「くっ……この野郎!!」


再び迫ってきた一角兎に対してリンは再び身体を反らすと、一角兎は彼の横を通り過ぎていく。ここまでの行動からリンは一角兎の突進が直進的であり、事前に攻撃を仕掛ける事を見抜けば避ける事は容易い事に気が付く。

一角兎の突進は当たればひとたまりもないが、逆に言えば当たらなければどうという事はない。突進を仕掛ける前の一角兎の動きを見れば何処を狙って飛び込んでくるのかを見抜き、事前に回避行動を取れば避ける事は難しくはない。


(あいつ、突進しかしてこないな。これなら避ける事はできるけど……いつまで避ければいいんだ!?)


一角兎の攻撃を見抜いて避ける事はできるが、何度も繰り返していくうちにリンは焦りを抱く。攻撃を避け続けたところで状況は好転せず、一向に一角兎は諦めるつもりはない。


「ギュイイッ!!」
「うわっ!?」


一瞬だけ反応が遅れたリンは一角兎の突進に完全に避け切れず、右腕に掠り傷を追う。怪我自体は大したことはないが、初めて攻撃を受けた事にリンは冷や汗を流す。


(だ、駄目だ……このままだと避け切れない。どうすればいいんだ!?)


ただの掠り傷でリンは取り乱してしまい、冷静に考える事ができなくなった。そんな彼に対して一角兎は容赦なく襲い掛かった。


「ギュイイッ!!」
「ひっ!?」
「ウォンッ!!」


一角兎が突っ込んできた瞬間、リンは目を閉じてしまう。しかし、ハクの鳴き声が森の中に響き渡り、彼は目を開くとそこには怪我を負ったハクがまたもや一角兎の攻撃を受ける姿が見えた。


「ハク!?」
「ギュイイッ!!」
「ガアッ……!?」


先ほどと同じく胴体を突かれたハクは苦悶の表情を浮かべ、一角兎は角を更にねじ込ませようとする。それを見たリンはハクがこのままでは死ぬと思い、彼を助けるために反射的に動く。


「や、止めろぉっ!!」
「キュイッ!?」


短剣を手にした状態でリンはハクの身体に角を突き刺した一角兎に目掛けて振り下ろす。しかし、刃が届く寸前に一角兎は角を抜いて逆に刃を弾く。

一角兎の角は非常に硬く、弾かれた際に短剣の刃が折れてしまう。リンは折れた短剣を見て驚き、これではもう使い物にならない。
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