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茶会&夜会編
2.資料整理
しおりを挟むルークはミアを送り届けてから、チャールズの執務室に入る。基本的にチャールズと会うときは王の間か食堂だったため、執務室に入るのは今回が初めてだ。部屋自体は広かったが、ジョンの書斎と同じように上から下まで書物でいっぱいだった。
チャールズが言うには、古い物から王宮の地下にある資料室に運ばれているらしいが、それでもこれだけここに残っている。ここにある書物は全て、この国の政治記録である。もれなく、国家機密だ。
執務室の扉の向こうには衛兵として騎士が立っている。ルークも騎士で、王宮に入る際は制服を着用しているし、王家付きとなった以上、上司扱いとなり会釈をされる。魔術師も距離を取ったところからチャールズの動きを見ているだろう。
執務室には魔術道具を使ったジョンの永久結界が張られているし、ルークも魔術師に気付かれないように重ねて張るため、護衛はいてもいなくても同じだ。
「ルークをここに呼んだのは他でもなく、ウェルスリーの動きを探って整理したいからだ。少し話したが、半年前、ルークがウェルスリーを亡き者にしてから、警備隊を東に送っても手がかりがない」
あのとき、ウェルスリーと一緒にいた魔術師ももれなく殺したし、忘却魔術もかけた。手かがりが全くないのは、相手も同じかもしれない。
かといって、警備隊が全く情報をつかめないのは珍しくはない。基本的に、平和慣れしている国だ。今までの任務でルークが一手に動きすぎているのもあるとは思うが、それだけ平和なのだ。
チャールズがこう言うということは、未来予知でも確定的なことが見えていないのだろう。
「ウェルスリーが主導者ではないんですよね」
「結局のところ、魔術を使えても強くはなかったのだろう?」
「あの場にいた十人ほどは、皆同程度、中の下といったところでしょうか。ウェルスリーはもう少し強かったかもしれません」
この国の魔術師の程度はルークも知っていて、その基準で中の下と感じた。だが、東の脅威が、全体でどの程度の魔術力を持っているのかは分からない。
「私は、主導者は別にいると思っている。きっと東にルークを差し向けても主導者は出てこないだろうし、ここに来てもらっているわけだが…」
「なんとなく、目的は分かりました」
「魔術学校で教鞭を取っているジョンに来てもらうわけにはいかないからな。ウェルスリーの上に立つ者が分かると話が早いんだが」
「そうですね」
ウェルスリーの上か…。ルークが対峙したあの隊は、明らかにウェルスリーの隊だった。ウェルスリーがこちら側を挑発することを前もって知っていたようだったし、ルークと話したことにも動じていなかった。反発する者が見当たらなかったのだ。
公爵家の屋敷に入ったときに、ウェルスリーは長期間帰っておらず、執事も行く先を知らないと言っていた。
おそらくあの執事は、当主が魔術師なことを知っていただろう。ミアの魔の紋章がオッドアイの証であることは知らなかったとしても、ウェルスリーが魔術師であることは知っていたのではないか。
ルークが滞在していたときに入れなかった、ウェルスリーの書斎と資料室。あの部屋には何かあると思うが、今はミアと結婚しルークの義実家。ややこしいことはしたくない。できればこのチャールズの書斎で決定的な事情を掴みたいところだ。
「とりあえず、東方関連の資料を見てもいいですか」
「もちろんだ。ここにある資料は見てもらってかまわないし、なんならここに転移してきてもいい」
「ミアがいるのでそれはしません」
「ああ、そうか」
チャールズはふっと笑ったあと、すぐに真剣な雰囲気に戻った。その変化に違和感があったルークは、本棚に向けていた意識をチャールズに向けた。
「義実家、だよな」
「そうなりますね」
「何か、思うことはあるか?」
何か、とは? ミア自身はウェルスリー当主とほぼ面識がない状態で、当主はルークが殺した相手だ。ミアにこの事実は伝えられていないし、今更何を思うのだろう。
「ウェルスリーを殺した褒賞として、ミアをもらってるんですよ、僕は」
「そうか、そうだな…」
チャールズやエリザベスがミアと会うときに、話を合わせてもらう必要はあるか。一応、伝えておこう。
「少し気になることがあるとすれば、ミアにはまだ、僕がウェルスリーを殺して、ミアをもらったとは言えてないくらいですかね」
「それは、まあ、別に知りたがらなければいいんじゃないか。ミアの中ではまだ父親は生きているんだな」
「消息不明だと思います。亡くなっているかもとは思っていても、確信はしていないはずです」
「分かった、合わせる」
それからルークは、ミアの迎えの時間を気にしつつ書物を読む王宮生活を送った。ここに来るだけでも考えがめぐってしまい、屋敷に帰ってもミアと過ごしていない時間にはこのことを考えていた。
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