魔の紋章を持つ少女

垣崎 奏

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東の国編

21.報告 3 爵位と褒賞

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 王の間に降り立つと、まずびっくりした様子のルイスを結界に閉じ込めた。一旦、ルイスには聞かれたくない話をするためである。

 任務であった以上、報告は絶対だ。王子だったルイスにも、中央国のトップが集まっているのは分かっているだろうし、ここが特別な部屋であることも、罪人として連れてこられているのも自覚があるだろう。ルークの結界を突いて、ビリッと走る魔力に驚いているように見え、それ以上のことはしなかった。

 ぐるっと見まわして、覚えのある景色にミアは安心した。ただ、エリザベスが出迎えてくれるかもしれないと期待していたため、少し残念だった。ルイスがいるから、いないのも当然だ。

 ルイス以外の全員が、用意された椅子に座る。話が長くなりそうなのか、チャールズが呼びつけた使用人たちが机と飲み物、焼菓子を運んできて、すぐに退出する。

 ジョンが、背中を向ける使用人たち全員に忘却魔術をかけ、王の間全体の結界を張り直す。すでに全員が、寛いでいる。

「さて…。ルーク、ミア。本当にご苦労様。よく耐えてくれた」

 力は抜けているものの、国王に労ってもらうのは光栄だ。ふたりとも頭を下げる。

「それで、話すことはたくさんあるのだが、まず爵位の話からしよう。気になっているだろう?」

 チャールズはルークを見る。もちろん、気になっていたとも、とルークは頷いた。国際会議の場で、他国の首脳やオッドアイがいる中、ルークとミアが公爵だと発表されるなんて、聞かされていなかった。

「特別任務手当とは別の、褒賞が思い当たらない。永代爵位の地位をまだ授けておらず助かった。もっと前に授けてもよかったのだが、物事にはタイミングがある。今更ではあるが、公爵の地位を与える」

 永久爵位、しかも貴族最上位だ。ルークの子孫は今後、何事もなければずっと公爵を名乗ることができる。それだけでも、いろいろな場面で物事が進めやすくなると、以前の夜会を思い出した。もしルークが子どもを授かったら、爵位が上の方が楽に生きられる。そう感じてしまう場面はいくつもあった。

 ……なぜ、"子どもを授かったら"なんて、思ったのだろう。

「ルーク、どうした?」
「いえ、なんでもありません。ありがとうございます」

 チャールズにしてみれば、国際会議も終わった直後で、任務報告も翌日でもいいと、ルークとミアの疲労を推しはかってやりたいところだが、結局ふたりは報告まで気を張り続けてしまう。屋敷に帰ったところで、報告で何を話そうかとまとめ始めるだろう。

 それよりは、多少疲れていても、当日にある程度報告を聞いてしまう方がいいと判断した。そして、チャールズからふたりに話すことも溜まっている。

「永代貴族になると、領地を治めてもらうのが通例だが、どうしたい? ちょうど、旧ウェルスリー公爵領がまだそのままなのだが。二年経っても、治めたいと言い出す者がいない」
「僕は今の屋敷でミアと過ごしたいです。それ以外のことはとてもやりたいと思えないです」
「ミアは?」
「ルークに従います」
「では、旧ウェルスリー公爵領は正式に王家直轄地とする。屋敷は別荘として、使用人を二人ほど住まわせよう。ウィンダム公爵は領地を持たない代わりに王宮に頻繁に出入りする、宮廷貴族だな」

 ルークとミアが頭を下げる。ふたりとも、チャールズの提案に納得した。

 ルークは口にこそ出さなかったが、公爵の地位がずっと欲しかったのだろうと、チャールズは思っていた。ルークの学生時代、評価や進級などで爵位に阻まれるのを見聞きするたびに、国王命令を騎士学校の教授へ発令していたなど、ルークが知ったら怒るだろう。

 それでも、ミアとの婚約の時すでに英雄と呼ばれていたルークに、それを与えることはできなかった。ルークの生家、特に父親のウィンダム魔術爵が邪魔だったのだ。

 ルークもミアも、少し上の空に感じるが、この場から去りたいのであれば、チャールズ相手でも言ってくるだろうと踏んでいた。特に、ルークはミアを分かりやすく気にしていて、チャールズの方を見ていない事も多い。

「その他、欲しいものはないか? 数日考えてもいい、褒賞として贈りたい。考えてみてくれ」
「分かりました」

 ミアは、チャールズとルークの会話を聞きつつ、久々のこの寛いだ空間に身も心も任せていた。王家の焼菓子の味も紅茶の香りも、こうして集まって話している姿も懐かしく、本当に戻って来れたことを実感すると、目に涙が溜まってしまう。泣いている場合じゃない。報告の場を兼ねているのに。

「ミア、美味しいか?」
「…はい、とても」

 チャールズに気遣われてしまい、涙が流れてしまう。手で拭うと、ルークにも気付かれていたのか、手拭を当ててくれる。チャールズに分かるんだ、ルークが分かっていないはずがない。

「…ミアにはまだ伝えられていなかったな。五年前に国際会議の様子を予知したんだ。それから、ミアの居る場所を見て、他にも外交など、やれることはやったつもりだ。それでも、本当に辛い任務を背負わせたと思っている。すまなかった」

 チャールズとの距離感には慣れていたが、それでもに頭を下げさせてしまって、ミアはとんでもないと首を横に振った。

 それがルークの任務であり、ルークの妻としてのミアの任務でもあった。チャールズが謝る必要はないと思っていても、声は出せなかった。

「ミア、どうしたい? 小部屋も用意できるが、そのまま話を続けて大丈夫か?」
「はい」

 チャールズの言う小部屋とは、前の食事会のときにエリザベスとふたりで内緒話をした部屋のことだろう。ミアも任務を遂行していたし、ほとんどのことをルークが言うにしても、その場には居たかった。

 チャールズが紅茶を一口飲み、息をゆっくりと吐く。ここからが、今回の報告の本題だ。
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