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第7章 吸血鬼の集う城

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「そっか。それなら飲みやすいな」

 納得したライアンの左手は、すでに傷が塞がっている。以前より早く傷が治った気がして、アイザックは疑問に首を傾げた。

「ライアン……傷が」

「ああ、治るの早いだろ? 最近、特に調子いいんだ」

 濡れたシャツだけが、傷の名残だった。

「シリルの魔力も増したのではないか?」

 リスキアが告げた言葉に、ライアンは目を瞠った。




「よく知ってるなぁ」

 感心したように呟くライアンに、リスキアは頬を緩めた。

「お前の血がシリルの魔力と生命力を高め、吸血鬼と組むことでお前の能力も高まる。ヴェネゲルが吸血鬼と組む理由だ」

 初めて聞かされた仕組みに、「へぇ~」とライアンは素直に感嘆の声を上げた。

「じゃあ、アイザックも?」

「ああ」

 いずれは力が強まってくる。純血種であるライアンほどではなくても、少しずつ能力は増していくのだと聞いて、2人は顔を見合わせた。

「オレが困ったら、アイザックの血を貰おう♪」

 くすくす笑うライアンの冗談に、リスキアがにやりと口角を引き上げた。

「あと300年はかかる」

 ライアンの血を薄めることなく助けられる濃度になるまで、気の遠くなるような期限をさらりと口にした吸血鬼は、黒い瞳を細めて意地悪げに笑う。不老長寿の彼らにとっては大した年月ではない。

「そりゃ残念。300年はケガしないように努力しますよ」

 手を上げて肩を竦めたライアンに、アイザックも仄かに赤みが差した頬を笑み崩した。




 暗い部屋で、美女が唇を噛み締めていた。牙が自らの唇を傷つけ血を流しても、彼女の荒れた心の痛みには追いつかない。苛立ちに掻き上げた黒髪は、光に赤を帯びて艶やかに流れた。

「カヨコ様、血が……」

「触れるでないっ!」

 伸ばされた下僕の手を払い除ける。整った顔と穏やかな性格が気に入って、人間の貴族を下僕として奪った。そのお気に入りさえ、カヨコの心を癒しきれない。

「シリル様が、わたくし以外の血を……もう、私は要らないと?」

 呟きに引き裂かれそうな胸を抱いて、がくりと床に膝をついた。

「そのようなこと許さない……あの男を殺してでも……」

 赤みを強くした瞳が、物騒な色を宿して煌く。赤い唇が紡ぐ呪詛の言霊が、澱んだ部屋の空気を重く沈ませて響いた。
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