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ifストーリー(クズーズの王位継承権が剥奪された場合)
第27話 哀れな親衛隊
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トログ侯爵令息は意味がわからないといった様な表情をしていたけれど、すぐに我に返って私に向かって叫ぶ。
「エリナ様、あなたはエイナ様に何をしようとされているんですか!?」
「何をしようとしているとは?」
意味がわからず聞き返すと、赤茶色の短髪のトログ侯爵令息は髪と同じ色の瞳を歪めて答える。
「こうやってエイナ様を皆の前で晒し者にして、自分が酷い事をしていると思わないんですか? あなたは姉なのですよね? 妹を守ってあげようという優しさはないのですか!?」
「意味がわかりませんわ。私はエイナの出来ていない事をやっただけですが? それは少なくとも意地悪にはならないと思うのですが」
「何を言っておられるのかよくわかりませんが、エイナ様が困る前に何かしてさしあげるのが姉の役目なのではないでしょうか!」
「あら。じゃあ、いつまで私はエイナの面倒を見ないといけないんです? 姉だから一生面倒を見ないといけないんですか? それもおかしいと思うのですが」
「こういう一大事の時くらいは面倒を見るべきです。まだ一緒に暮らしているんですから!」
「大人になったのなら、家族は関係なく、自分のやった事に責任を持つのは当たり前の事だと思いますけど? ああ、そうですわね。エイナにはそんな事も出来ないんですわね」
これみよがしに大きく息を吐いてみせると、トログ侯爵令息はなぜか、エイナを抱き寄せて言う。
「エイナ様はお可哀想に。こんな方と姉妹だなんて」
「そう思われるでしょう? でも、たった1人の姉なんです。悪く言うのは止めてあげて下さい」
「なんてお優しいんだ…」
トログ侯爵令息とエイナのやり取りを見て呆れ返っていると、アレク殿下が大きく息を吐いてから2人に言う。
「エイナ嬢、君には兄上という婚約者がいるだろう? それから、トログ侯爵令息、君には婚約者はいないのかもしれないが、君が軽々しく抱き寄せた彼女は王太子の婚約者だぞ。裏ではどういう関係なのか知らないが、俺達の前でそんなに馴れ馴れしくして許されると思っているのか?」
「そ、それはっ!」
「も、もしかしてアレク殿下はヤキモチを妬いてくださっているのですか!?」
エイナがトログ侯爵令息の腕を払い、アレク殿下に近寄りながら瞳をキラキラさせて、ふざけた事を聞くものだから、アレク殿下は眉根を寄せて答える。
「そんな訳がないだろう。俺の言っている言葉の意味もわからないのか?」
「殿下、申し訳ございません! エイナ様へのお叱りは私が受けます!」
エイナの前に立ち、トログ侯爵令息は手をピンと伸ばして頭を下げ続ける。
「君に説教をするのは当たり前だろう。これだけで済むと思うなよ。ああ、それよりも君は兄の婚約者とどんな関係なんだ?」
「私は、エイナ様に想いを寄せております! エイナ様の為ならどんな苦難でも乗り越えてみせます!」
「具体的にはどんな事だ?」
「もちろん、エイナ様の邪魔をする人間の排除です!」
トログ侯爵令息は物騒な事をサラリと言ってのけた。
この人は特にエイナ信者で有名だから、エイナの前で良いところを見せたいのでしょうね。
どうして男性って顔の可愛い人に弱い人が多いのかしら。
でも、女性だって男性のカッコ良い人にチヤホヤするから一緒かしら?
「例えばどんな人のことを言ってるんだ?」
「え、あ、それは…」
トログ侯爵令息は私の方をチラリと見てから、すぐにアレク殿下に答える。
「邪魔をする人は全てです」
「ふうん。そうか。で、君の中では、その邪魔をする人の中にエリナは含まれるのか?」
「恐れながら、エイナ様からはそう聞いております」
「どう聞いてる?」
「エリナ様はエイナ様をいじめ、エイナ様の欲しい物を奪ったり、今日のように無茶を言うのだと…」
「くだらないな」
アレク殿下は鼻で笑った後、言葉を続ける。
「では、君はエイナ嬢にとってエリナは害をなす危険人物だと認識しているという事でいいんだな?」
「そうです! アレク殿下! やっとわかって下さったんですか!」
トログ侯爵令息がそう言うと、アレク殿下はエイナ達の後ろにいつの間にか集まっていた、ドレス姿の女性や燕尾服姿の男性達に言う。
「彼は第二王子の婚約者であり、公爵令嬢であるエリナ・モドゥルスを、この場で堂々と排除する人物だと言ってのけた。危険人物として連れて行け」
「かしこまりました!」
「ちょっ!? ちょっと待って下さい! どういう事ですか!?」
トログ侯爵令息が焦った顔で叫ぶので、アレク殿下が答える。
「そのままの意味だ。君はエイナ嬢の邪魔をする人全てを排除すると言った後に、エリナの事も害をなす危険人物だと言っただろう。という事は、エリナを排除すると本人だけじゃなく、俺の前でも宣言した事になる」
「そ、それは…」
「理解できたか?」
「でっ! ですが、それはっ! 本気で言ったわけではなく!」
「本気で言うのはもちろん良くないが、本気じゃなくてもそういう事は言ってはいけないんだ。それくらいわかるだろう」
「ま、待って下さい! エイナ様! 助けて下さい!」
騎士に取り押さえられ、トログ侯爵令息はエイナに助けを求めたけれど、エイナは分が悪いと感じた様で目に涙をためながら首を横に振る。
「ごめんなさい! 私なんかの為に…!」
「エイナ様!?」
「私の事を好きだという気持ちが強すぎて、酷い事を言ってしまったんだと思います! アレク殿下、どうか、彼に恩情をお願いいたします!」
「罪を決めるのは俺じゃない。いいから早く連れて行ってくれ」
アレク殿下はエイナを突っぱねると、足を止めた騎士を促した。
トログ侯爵令息は何か叫んでいたけれど、会場から外へ連れ出されて姿が見えなくなってからは諦めたのか急に静かになった。
会場のセッティングをしていた人達も呆気にとられていたけれど、私達がそちらに目を向けると、慌てて準備を再開した。
「エイナ嬢、君ももっと王太子の婚約者であるという自覚を持ったほうがいい」
「そんな、何が悪いんですか!? それにいまのだって私は悪くありませんよね? 悪い事をしようとしたのはトログ侯爵令息です!」
「彼は君のことが好きだと言っていたろう。婚約者のいる女性が婚約者以外の男性にあんな事を言わせるのはおかしいだろう。自分のことは忘れる様に促すべきじゃないのか?」
「そ、それは人の気持ちを、他の人間がどうこうすべきではないと思いますから」
「犯罪を起こすかもしれない人間を野放しにするのは許される事なのか?」
「そんな事を考えているなんて私は知りませんでした!」
エイナが必死に無実を訴えると、アレク殿下は冷めた目で言う。
「ではさっき知ったという事だな? では、これからは君がちゃんと彼を正しい道に導いてやるのか?」
「とうしてそんな事を仰るのです!?」
「知らなかったから放っておいたんだろう? だけど、君はもう彼の思いを知った」
「――っ!」
エイナが悔しそうな顔をした時だった。
会場の外が騒がしくなった。
そして、中に入ってきたのは、正装したクズーズ殿下だった。
「おい! 話を聞いたが準備がまだ出来ていないという事はどういう事なんだ!?」
入ってくるなり、私達を見て叫んだ後、まだ準備段階の会場を見てまた叫ぶ。
「何を考えているんだ! 責任者はどこだ!」
怒るクズーズ殿下に私は小さく息を吐いてから答える。
「責任者はエイナですわ。陛下から命を受けていたのをクズーズ殿下も聞いておられたのでは?」
「そ、それはっ…! えっ、エイナ、君は何をしていたんだ!」
「頑張って考えていましたわ!」
その言葉に私とアレク殿下だけではなく、クズーズ殿下までもが呆れた顔をした。
「エリナ様、あなたはエイナ様に何をしようとされているんですか!?」
「何をしようとしているとは?」
意味がわからず聞き返すと、赤茶色の短髪のトログ侯爵令息は髪と同じ色の瞳を歪めて答える。
「こうやってエイナ様を皆の前で晒し者にして、自分が酷い事をしていると思わないんですか? あなたは姉なのですよね? 妹を守ってあげようという優しさはないのですか!?」
「意味がわかりませんわ。私はエイナの出来ていない事をやっただけですが? それは少なくとも意地悪にはならないと思うのですが」
「何を言っておられるのかよくわかりませんが、エイナ様が困る前に何かしてさしあげるのが姉の役目なのではないでしょうか!」
「あら。じゃあ、いつまで私はエイナの面倒を見ないといけないんです? 姉だから一生面倒を見ないといけないんですか? それもおかしいと思うのですが」
「こういう一大事の時くらいは面倒を見るべきです。まだ一緒に暮らしているんですから!」
「大人になったのなら、家族は関係なく、自分のやった事に責任を持つのは当たり前の事だと思いますけど? ああ、そうですわね。エイナにはそんな事も出来ないんですわね」
これみよがしに大きく息を吐いてみせると、トログ侯爵令息はなぜか、エイナを抱き寄せて言う。
「エイナ様はお可哀想に。こんな方と姉妹だなんて」
「そう思われるでしょう? でも、たった1人の姉なんです。悪く言うのは止めてあげて下さい」
「なんてお優しいんだ…」
トログ侯爵令息とエイナのやり取りを見て呆れ返っていると、アレク殿下が大きく息を吐いてから2人に言う。
「エイナ嬢、君には兄上という婚約者がいるだろう? それから、トログ侯爵令息、君には婚約者はいないのかもしれないが、君が軽々しく抱き寄せた彼女は王太子の婚約者だぞ。裏ではどういう関係なのか知らないが、俺達の前でそんなに馴れ馴れしくして許されると思っているのか?」
「そ、それはっ!」
「も、もしかしてアレク殿下はヤキモチを妬いてくださっているのですか!?」
エイナがトログ侯爵令息の腕を払い、アレク殿下に近寄りながら瞳をキラキラさせて、ふざけた事を聞くものだから、アレク殿下は眉根を寄せて答える。
「そんな訳がないだろう。俺の言っている言葉の意味もわからないのか?」
「殿下、申し訳ございません! エイナ様へのお叱りは私が受けます!」
エイナの前に立ち、トログ侯爵令息は手をピンと伸ばして頭を下げ続ける。
「君に説教をするのは当たり前だろう。これだけで済むと思うなよ。ああ、それよりも君は兄の婚約者とどんな関係なんだ?」
「私は、エイナ様に想いを寄せております! エイナ様の為ならどんな苦難でも乗り越えてみせます!」
「具体的にはどんな事だ?」
「もちろん、エイナ様の邪魔をする人間の排除です!」
トログ侯爵令息は物騒な事をサラリと言ってのけた。
この人は特にエイナ信者で有名だから、エイナの前で良いところを見せたいのでしょうね。
どうして男性って顔の可愛い人に弱い人が多いのかしら。
でも、女性だって男性のカッコ良い人にチヤホヤするから一緒かしら?
「例えばどんな人のことを言ってるんだ?」
「え、あ、それは…」
トログ侯爵令息は私の方をチラリと見てから、すぐにアレク殿下に答える。
「邪魔をする人は全てです」
「ふうん。そうか。で、君の中では、その邪魔をする人の中にエリナは含まれるのか?」
「恐れながら、エイナ様からはそう聞いております」
「どう聞いてる?」
「エリナ様はエイナ様をいじめ、エイナ様の欲しい物を奪ったり、今日のように無茶を言うのだと…」
「くだらないな」
アレク殿下は鼻で笑った後、言葉を続ける。
「では、君はエイナ嬢にとってエリナは害をなす危険人物だと認識しているという事でいいんだな?」
「そうです! アレク殿下! やっとわかって下さったんですか!」
トログ侯爵令息がそう言うと、アレク殿下はエイナ達の後ろにいつの間にか集まっていた、ドレス姿の女性や燕尾服姿の男性達に言う。
「彼は第二王子の婚約者であり、公爵令嬢であるエリナ・モドゥルスを、この場で堂々と排除する人物だと言ってのけた。危険人物として連れて行け」
「かしこまりました!」
「ちょっ!? ちょっと待って下さい! どういう事ですか!?」
トログ侯爵令息が焦った顔で叫ぶので、アレク殿下が答える。
「そのままの意味だ。君はエイナ嬢の邪魔をする人全てを排除すると言った後に、エリナの事も害をなす危険人物だと言っただろう。という事は、エリナを排除すると本人だけじゃなく、俺の前でも宣言した事になる」
「そ、それは…」
「理解できたか?」
「でっ! ですが、それはっ! 本気で言ったわけではなく!」
「本気で言うのはもちろん良くないが、本気じゃなくてもそういう事は言ってはいけないんだ。それくらいわかるだろう」
「ま、待って下さい! エイナ様! 助けて下さい!」
騎士に取り押さえられ、トログ侯爵令息はエイナに助けを求めたけれど、エイナは分が悪いと感じた様で目に涙をためながら首を横に振る。
「ごめんなさい! 私なんかの為に…!」
「エイナ様!?」
「私の事を好きだという気持ちが強すぎて、酷い事を言ってしまったんだと思います! アレク殿下、どうか、彼に恩情をお願いいたします!」
「罪を決めるのは俺じゃない。いいから早く連れて行ってくれ」
アレク殿下はエイナを突っぱねると、足を止めた騎士を促した。
トログ侯爵令息は何か叫んでいたけれど、会場から外へ連れ出されて姿が見えなくなってからは諦めたのか急に静かになった。
会場のセッティングをしていた人達も呆気にとられていたけれど、私達がそちらに目を向けると、慌てて準備を再開した。
「エイナ嬢、君ももっと王太子の婚約者であるという自覚を持ったほうがいい」
「そんな、何が悪いんですか!? それにいまのだって私は悪くありませんよね? 悪い事をしようとしたのはトログ侯爵令息です!」
「彼は君のことが好きだと言っていたろう。婚約者のいる女性が婚約者以外の男性にあんな事を言わせるのはおかしいだろう。自分のことは忘れる様に促すべきじゃないのか?」
「そ、それは人の気持ちを、他の人間がどうこうすべきではないと思いますから」
「犯罪を起こすかもしれない人間を野放しにするのは許される事なのか?」
「そんな事を考えているなんて私は知りませんでした!」
エイナが必死に無実を訴えると、アレク殿下は冷めた目で言う。
「ではさっき知ったという事だな? では、これからは君がちゃんと彼を正しい道に導いてやるのか?」
「とうしてそんな事を仰るのです!?」
「知らなかったから放っておいたんだろう? だけど、君はもう彼の思いを知った」
「――っ!」
エイナが悔しそうな顔をした時だった。
会場の外が騒がしくなった。
そして、中に入ってきたのは、正装したクズーズ殿下だった。
「おい! 話を聞いたが準備がまだ出来ていないという事はどういう事なんだ!?」
入ってくるなり、私達を見て叫んだ後、まだ準備段階の会場を見てまた叫ぶ。
「何を考えているんだ! 責任者はどこだ!」
怒るクズーズ殿下に私は小さく息を吐いてから答える。
「責任者はエイナですわ。陛下から命を受けていたのをクズーズ殿下も聞いておられたのでは?」
「そ、それはっ…! えっ、エイナ、君は何をしていたんだ!」
「頑張って考えていましたわ!」
その言葉に私とアレク殿下だけではなく、クズーズ殿下までもが呆れた顔をした。
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