揺らぎの交差点
六月の東京、曇り空の下。
編集者・藤井尚哉は、なぜか手にした一冊の古びた文庫本に導かれるように、小さな図書館の展示取材へ向かう。
そこには、かつての記憶──名も知らぬ誰かと交わした、声なき文通の痕跡が眠っていた。
ページの隅に残された一行の書き込み。
「わたしも、そう思っていました。」
それは返事だったのか、それとも記憶の幻だったのか。
やがて尚哉は、展示の奥に佇む一人の女性と出会う。名前も告げず、過去にも言及せず──けれど、言葉にならない気配だけが静かに交錯していく。
その沈黙の中に、かつて届かなかった“手紙”の余韻がふたたび揺らぎ始める。
本作は、「言葉にならない想い」と「声を出せなかった記憶」を巡る、静かな再会の物語。
返事のない手紙が、時を越えてふたりの心を繋ぐとき、読者の中にもまた、忘れられた“誰か”の声がふと響くかもしれない。
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