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王様が守られていないのだが

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 王様の話は恐ろしく長かった。
 突っ立っているだけではつまらなかったから、私は周囲を観察してこの長い時間をやり過ごすことにする。

 まず気になったのは、広間の壁に沿うようにずらーっと並んでいるだけの騎士たちのことだ。

 あれで誰を守っているんだ?
 長い槍を掲げているが、あの距離にいて王様を守れるとは思えない。

 その王様もやたらと高い位置にいた。

 騎士以外はこの広間への武器の持ち込みを禁じられているけれど。
 たとえば騎士の一人からあの槍を奪い投げ付けるだけで、この国の王は簡単に倒せてしまう。
 まぁ私なら段を駆け上がって素手で倒すことも出来るがな。
 王様の無防備さを思えば、この上着のボタンひとつでも倒せるように思う。おでこに一発でいけるか?

 騎士たちが身に纏う重そうな立派な鎧もいただけない。
 さほどの防御にもならなそうだが、一体何のために身に着けているのだろうか?
 そういう修行か?それで有事には瞬時に脱げる仕様なのか?

 あるいはあの重い鎧を纏う騎士たちを素手で倒してみせよと。

 ふむ。つまり私は試されているのだな?
 面白い。期待に応えてやろ……。

「コホンコホコホ、失礼」

 文官王子のその小さな咳と声は、遠く高いところにいる王様には届かなかったみたいだ。
 長い話が止まったら良かったのにな。
 
 ところでまだ姉の横に立っているが、文官王子はあの王様の息子なのだよな?

 あちら側に立たなくていいのか?

 王様のいる場所から段を二つ下がったところに王妃様がいた。
 そのまた一つ下には王太子様が座っていて、それよりずっと下の段には王子や王女がずらりと揃っている。

 だから文官王子の席もあちら側にあると思うのだが。


 まさか!
 身分を詐称していたのであるまいな?

 よしきた。この場で試されてやろう!

「コホコホコホ、マイク?」

 小声で話し掛けられたマイクもまた、どうしてか私の隣に立っていた。

 王子を護衛しなくていいのか?
 この場は大分危険があるぞ?

 すると護衛をする気のないマイクから、「もうしばしのご辛抱です。すぐに騎士団へ」と囁かれたではないか。

 急に身を近付けてきたから、危うくはっ倒すところだったぞ。
 私が我慢出来る女で良かったと思え?全部姉のためだけどな。

 つまりいつでも姉に感謝しろよ!




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