婚約者を妹に奪われ、家出して薬師になった令嬢は王太子から溺愛される。

二位関りをん

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第58話 エレーナ姫とジュナの消息

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 北西部でこのような事件が起きた事で、薬草調査も一旦取りやめになってしまった。まずは国境付近の治安を平定してから、改めて薬草調査を行うという事になる。こればかりは致し方ない。
 住民達の供述曰く、この北西部は人知れず大麻草を栽培していた地域が他にもあるとの事。大麻草は国王陛下から直々に許可を得た専門の者しか栽培は許されていない。しかも栽培も国王陛下の所有地でのみしか許されていないのだ。
 また、大麻草は密売されておりそれで得た資金で、住民達は生活していたようだ。

「とりあえず、帰ろう」
「はい」

 あれから2日が経過した。翌日の朝に城から出て、宮廷へと帰還する。私は部屋で薬草の辞書を見ながら過ごしていた。
 すると、部屋の廊下でばたばた誰かが走り回るようなと音が聞こえて来る。何かあったのだろうか。私は部屋の扉を開き、廊下を早歩きで歩く兵を捕まえ何があったのかを聞いた。

「あ、エレーナ姫が来ると言うので」
「今からここに?」
「はい」

 今からエレーナ姫がここに来るという。何をしに来るのだろうかと構えていた時、彼女はやって来た。

「王太子殿下はいるかしら?」

 堂々と入城してきたピンク色のド派手なドレスを身に着けたエレーナ姫と目が合った。私はすぐに目線をぱっとそらすが、エレーナ姫には通用しなかった。

「あなた、こないだの薬師じゃない。王太子殿下は?」

 すると、兵が1人やってきて私の耳元にそっと顔を近づける。

「いないと言ってください」
「ここにはいないようですが」

 彼から言われた通りに返事をすると、エレーナ姫は機嫌が悪そうに扇子をぱたぱたと口元で仰ぎながらそう。とだけ言った。アダン様を探す様子も今の所は見当たらない。

「まあ、良いわ。また会いに行けば良いだけの事。とりあえずお父様に言われて仕方なくうちの国に来た女性達をここに連れてきたの。職で困っているらしいから、引き取ってくれない?」

 そう言うと、エレーナ姫の後ろからみすぼらしい服を着た若い女性が2人現れた。ジュナではない見知らぬ女性。しかも1人は10代半ばの少女くらいか。

「本当はもう1人いたんだけど、絶対に帰らないと言って拒否してるのよねえ。しかも病気で体調が悪いから移送するのも難しいし」
(もしかして)
「その人の名前、分かりますか?」
「ジュナ・ヨージスだったかしら。どうもリナードから聞くにこちらでは流刑にあっていた令嬢だと聞いたけど?」

 やはりジュナだった。しかも病気にかかって体調を崩しているという。

「そ、そうですか……教えていただきありがとうございます」
「あなた薬師でしょ? ジュナっていう子説得するか、体調が落ち着いたら引き取ってくれない? とりあえず彼女の様子については手紙を書いてこの国に送るよう、リナードに伝えておくわ」
「わかりました。アダン様にもそのようにお伝えいたします」

 エレーナ姫はつかつかと荒々しい歩きで去っていった。女性と少女だけがその場に残る。

「あ……」
「悪いようにはしません。安心してください」
「で、ですが私達の居場所はここには……」
「とりあえずアダン様、王太子殿下に穏便な処置が出るようにかけあってみます」
「お、お願いします……」

 女性と少女は震えながら、座ったまま私を見ていた。先ほど耳打ちした兵にアダン様の本当の居場所を聞き、彼女達と共にアダン様の元へと向かう。

「アダン様、失礼いたします」
「どうぞ」

 2人を従えて、椅子に座り地図を眺めるアダン様に目線を送る。

「エレーナ姫がこの国境を越えて隣国に入った2人を引き取ってほしいとの事です。どうか穏便な処遇をよろしくお願いします」

 そう私がアダン様に問いかける。後ろにいる2人も両手を組んでお願いします。とアダン様に命乞いをするかのような様子を見せる。

「名前は?」
「カットニアと申します」
「う、ウィリアです……!」
「君達は宮廷で働く事には興味あるか?」

 そう質問され、カットニアは前職がメイドだった為自信はあると答えた。ウィリアはあるが、私が役に立つかどうかは分からないと答える。

「ウィリア、何か特技でもあるか?」
「薬には興味あります」
「そうか。分かった。なら、薬師付きのメイドとして働くのはどうかな?」

 薬師付きのメイドとなれば、メラニーみたいな感じか。ウィリアは少し間を置いてぜひ。と答えたのだった。

「決まりだね。ではそのようにしよう! 下がっていいよ」
「王太子殿下ありがとうございます!」
「ありがとうございます!」

 就職先が決まり、2人はぱっと晴れやかな笑顔を浮かべて互いに手を合わせながら喜びつつ、私と一緒に部屋から出た。
 その後、彼女達をお風呂に入れて新たな服を着せた。彼女達は絶えずにこやかな笑みを浮かべている。
 宮廷に戻ると、私はウィリアをハイダやメラニーらに紹介する。

「ウィリア・マーティスです。よろしくお願いします」

 マーティスと名乗った時、私の頭に何か聞き覚えのある感覚が生まれた。

(聞いた事があるような)
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