貞宗を佩く白猿

 曲亭馬琴他 編「兎園小説」第十一集「白猿賊をなす事」より(全五話)

 江戸時代後期に催された、世の中の珍談・奇談を収集する会「兎園会」

 「南総里見八犬伝」等で有名な曲亭馬琴、著述家の山崎美成らが発起人となって開催された「兎園会」で披露された世の珍談・奇談等を編纂したのが「兎園小説」

 あの有名な「けんどん争い」(「けんどん」の語源をめぐる論争)で、馬琴と山崎美成が大喧嘩をして、兎園会自体は自然消滅してしまいましたが、馬琴はその後も、個人的に収集した珍談・奇談を「兎園小説 余録」「兎園小説 拾遺」等々で記録し続けます・・・もう殆ど記録マニアと言っていいでしょう。

 そんな「兎園小説」ですが、本集の第十一集に掲載されている「白猿賊をなす事」という短い話を元に短編の伝奇小説風にしてみました。

 このお話は、文政八(1825)年、十月二十三日に、海棠庵(関 思亮・書家)宅で開催された兎園会の席上で、「文宝堂」の号で亀屋久右衛門(当時62歳)という飯田町で薬種を扱う商人が披露したものと記録されています。
 この人は、天明期を代表する文人・太田南畝の号である「蜀山人」を継いで二代目・蜀山人となったということです。

 【あらすじ】
 佐竹候の領国、羽州(出羽国)に「山役所」という里があり、そこは大山十郎という人が治めていました。
 ある日、大山家に先祖代々伝わる家宝を虫干ししていると、一匹の白猿が現れ家宝の名刀「貞宗」を盗んで逃げてゆきます・・・。

【登場人物】
 ●大山十郎(23歳)
 出羽の国、山役所の若い領主

 ●猟師・源兵衛(五十代)
 領主である大山家に代々出入りしている猟師。若い頃に白猿を目撃したことがある。

 ●猴神直実(猴神氏)
 かつてこの地を治めていた豪族。大山氏により滅ぼされた。
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